第30話 2人の皇帝が選ばれた?

 各国王や宗教、都市の代表者などが集まり、仮首都エルドラで会議が行われて、帝国の制度、そして、皇帝の推戴等が行われた。

 その最中、革命軍と称するグループが市中で、人民が皇帝を選ぶべきだと声を上げ、一部分の人間による皇帝選挙を非難した。その彼らが数日後、ショク皇帝、モウを人民が皇帝として選んだとして、皇帝への即位を求めて、大挙して、彼の都に入城した。彼は、再三断ったが、

「それ程までに、民が我を皇帝にと言うのであれば、これを拒否できまい。」

と言って、それを受けた。そして、先に選ばれた皇帝ヒュームに、退位を呼びかけた。革命軍、農民、一般庶民からなる、と見える万を超える一団が、各地を巡った。

が、

「私は、ショクの兵士でした。」

「ショクのシュウ丞相から、命じられたのです。」

と訴え出る革命軍幹部が続出した。が、ショクの側は全く動じることもなく、盛大な皇帝の戴冠式を、多数の農民、一般庶民、に少なくともそう見えた、が大々的に祝った。

 ヒューム皇帝の側もさほど揺るぐことはなかった。そして、ジャックが帰ってきたのだ。

 そのジャックには、彼を救うために飛び出して、同じドラゴンに乗っていて遭難した3人の女達の他にもう1人の女が、竜女が傍に付き添っていた。

「全く、あの3人…、まさかジャック様と…。」

「そ、その上…何で、ドラゴンの姫まで…。」

 少し前に戻り、ジャックの状況を伝えることができた、ハーフオーガ達3人は不満を言い立てた。同様な気持ちのマリア達、魔王達だったが、状況はそれどころではなく、取りあえずジャックの無事な姿を見ただけで、よしとしようと思った。“後で、ゆ~くり聞かせて貰うから~。”という彼女らからオーラを感じて、ジャックは背筋が冷たくなった。

「流石ジャック殿!ドラゴンまで、説得されて…。」

とは、カント王子達だった。

 あの日の翌日、本当は居てもたってもいられない気持ではあったジャックだったが、闇雲に動いても駄目だ、迷ってしまっては元も子もないと、取りあえず周囲の状況を把握して、最短でマリア達の元に帰る方法を探るのが最適の策だとして、取りあえず、今いる場所でしばらくキャンプ、野営することにした。そのためには、食住だということで、水場の確保、木の実、山菜、獲物などの収集、狩猟、とにかく風雨をしのげる…で竪穴式住居モドキ、竃モドキなどを作る、燃料も兼ねた木々の確保などを全員で一つ一つ、あるいは分担して同時並行式に進めていった。全員、ジャックを筆頭に一応、旅は慣れていたから、女達は割と皆、身分が高かったから最初から完璧とはいかなかったが、ジャックの指揮の下、何とか進んだ。“お姉ちゃんや妹達なら俺が居なくても大丈夫、いや、いないほうが上手くいくだろうから…。”彼女達と数日間過ごすうちに、今の全てを投げ出して、このまま過ごしていられたら楽になれる、という気持ちに襲われた。しかし、それが退くと、反動のように、お姉ちゃん達を今度こそ守りたい、守る男になるんだと思った記憶が蘇り、マリア達を守りたい、次に妹達、魔王達を守りたい、自分を助けてくれた、信じてくれた人々、自分が勢いで進めてしまったことへの思いが強く押し寄せてきた。“彼女達も、本来の場所に戻りたいだろうから…。”と最後に思った。ちなみに彼女達は、ジャックを連れて、ジャックと一緒に戻ることだけしか考えていなかった。彼を、自分達が独占できた、貴重な時間だったことに気が付いたのは、もどった翌日になってからだった。

 しかし、戻るには、早く戻るには絶望的な状況だった。

 星や太陽の位置、空間探索魔法から、かなり北方に落ちて、おおきな森の真ん中にいるらしいこと、周囲に村も町も見当たらない所だということが分かったからだ。何とか方角が分かり、旅の準備作業も整って、明日出発しようと云うことになったのは、彼の拉致から3週間がたった頃だった。

「なんか、これが最後のここでの夕食となると名残惜しいですね。」

 全て手際が良くなってきたところでだったし、ジャックも、自分でも満足できるの料理を彼女らにだせるようになった所だった。

「早く湯で体を洗いたいとか言っていたのは誰よ?」

「それとこれとは…それはあなたも同じでしょうが?ジャック様、このシチュー、おかわりお願いします。」

「全く食欲ばかり何だから~。」

「おかわり三杯目のあなたには言われたくは、ありませんわ。」

 そう悪態をつきながらも、3人は和気あいあいのように見えた。協同作業なしに生きていけない中で、連帯感が生まれたせいもある。それ以上に、妥協の結果とはいえ、3人で彼を独占?している状態に満足していることが大きかった。一緒にいればいるほど、彼の良さが分かってきた。“どうしてもっと早く、このことが分からなかったのかしら?”“初めてをあげられたのに、あの時分かっていれば。”“ああ、どうして、あんな奴がいいなんて…。”と、そして、“あの時の私の馬鹿!”。

 その均衡が、翌日、出発しようとした時、空から崩された。十数匹の大小様々なドラゴンが現れたのだ。身構える彼らに、

「心配ない。我々に敵意はない!」

と呼びかけてきて、直ぐに地上に降り立った。その1匹が直ぐに、青い髪の若い女に変わった。裸ではなく、簡易ながら甲冑姿だった。

「あなたが、ジャック・ルソー殿か?」

 彼女は、ドラゴンの女王ボーボワールだと名乗った。

 ボーイティシュな感じながらも、大人の色香も感じさせる、大人になったばかり、の美人だったが、直ぐに政治的な本題に入った。ジャックが言ったドラゴンも共存した社会の構想、考えについてだった。丸4日間、食べる、寝る、体を洗う、運動する、生理現象以外の時は、二人語り合った。彼女の後ろに黙って座るドラゴン達を睨みつけて、3人は不安と彼を守ろうという気持ちから(半分はその逆のようにも思われたが)、彼に体を密着させるように寄り添っていた。もちろん、一応、いつでも得物を手にして戦える構えを取っていたが。

 それが五日目、ガラッと変わることになった、いや守るということでは、彼女らの主観、立場においては変わらなかったかもしれないが。

 話が終わった、と誰しも感じた。満足そうな表情のボーボワールと安心したという感じのジャック、沈黙が続いた。そして、やにわにボーボワールは、彼に飛びつき抱きついた。唖然とする3人を尻目に、

「貴殿は、私の思っていた通りの方だった。わが部族の命運をそなたに託す。そ、そ…そして…わ、我も…我の身も、き、貴殿に託すー!」

「な、なに言っているのよ!」

 3人は、ハーモニックして抗議した。

 そして、結果として出発が一日延びたのである。

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