第17話 私達よ!

「今回の作戦、彼が提唱者でジャック殿を殺すことが出来ず、失敗したため、責任を追及され、そうされる前に、立場が弱くなる前に勝負に出たのでしょう。」

「それにしては、真の勇者様であるマリア様達の力を侮りすぎたのではないですか?」

「彼らは、魔界で覇権を確保した身、どうしても、それだけの自信、自負があり、かつ、必要なのですよ。」

 上位魔族の中枢に近い所にいたニーチェの説明に、ジャックは頷いていた。キェルケゴールも、ショウペンハウエルも静に耳を傾けていた。

 彼女の説明は、彼女があくまでも中堅、前線の指揮官、戦士であることから、全体の体制、戦略、勢力関係など、本当の中枢の情報が曖昧な点も多かったが、“集団指導体制と言うか、諸勢力の連合体に毛が生えた程度、今後の戦いでの功績が、今後を決めるというところか?でも、そもそも上位魔族が…のきっかけは?”とジャックは思案にくれたが、事態はゆっくり考えている時間を与えてくれなかった。上位魔族の軍が集結、今までにない数、していることが分かったからである。

 そして、真の勇者マリア達を擁する、人間・亜人軍の本隊と合流した。そして、マリア達がいるブルーゴ城に、ジャックは呼び出された。真のマリア達からの直々の命令だという。それは、彼が元々は彼女達の従者であるから、当然のことで、だれも不思議には思わなかった。それでも、

「ジャック殿は大丈夫だろうか?」

「ジャック様は…多分…大丈夫…?」

「ジャック殿は…そんなことはない…よね。」

 キェルケゴール達は、ジャックが行ってしまってから、心配そうに見つめ合っていた。それは、ある話が伝えられていたからだった。

「勇者様達は、自分達の雑用に過ぎないジャックが、自分達よりももてはやされていると不満を感じている。」

というものだった。それがどこから流れてきたのかは、分からない。

 ジャックの耳にも入っていたし、ショウペンハウエル達も相談したが、彼は笑って、

「得てして、そういう噂を流す奴らはいるものです。でも、大丈夫ですよ。」

と言って、マリア達のもとに行った。

 ニーチェ達も、マリア達がそんなことを思うはずはない、と信じていた。

「?」

 何故かは分からなかったが、3人とも、顔を見合わせて頷いていた。

「まあ、後はゆっくりと訊きましょう。あなたも疲れているでしょうし…それに汚れているようですから、とりあえず、風呂に入って体を洗って、湯に浸かって、疲れと汚れを落としなさい。」

 賢者のマリアが、マリア達、そして、王族、貴族、将軍達の前で、跪いたジャックが語る報告が一段落したところで、声をかけた。大体のところは、色々な形でジャックは報告を送っていたし、別ルートからも受け取っているので分かっていた。

 マリア達が、彼を呼びつけたのは、彼を叱責する、糾弾するためだという話が、連合軍幹部の流すにも、誰が言い出したのか、流れていた。

「よくやっているわね、感心したわ。」

「さすが、僕たちのジャックだと鼻が高いよ。」

「ジャック君がいたから、ジャック君だけができたことよ。」

と他のマリア達は、本当に嬉しそうに微笑みながら、声をかけた。

「でもね。」

 聖女のマリアの表情と声が厳しくなった。

「美しい魔族の女達と浮かれすぎていたと思うのよ。少しは、反省してちょうだいね。」

 他の3人も頷いた。ジャックは、ただただ平身低頭、土下座するしか思いつかなかった。

「だけどな…、何であんなこと、言われなければならないのかな?」

 あちらから迫られたわけだし、道徳的に自分が悪いことをしたわけではないと思いながらも、何か浮気を責められているように、自分自身も、そう感じていることに、もう少しで理由が分かりそうになるのだが、どうしてもたどり着けなかった。広すぎる浴槽の湯の中で悩んでいると、背中に人の気配を感じた。慌てて、振り返った彼は、

「え~、何なんですかー!」

と思わず叫んでいた。

 そこには、全裸の4人の真の勇者マリア達が、少しは恥ずかしそうにしながらも立っていた。

「ジャック君!私達が分からないの?」

「は?」

 初めは、分からなかった。そのうち、もやもやしていたパーツが、組み合わされるのが、何かの歯止めが外れるのを感じた。

「え、え?まさか…、お、お姉ちゃん…達?お姉ちゃん達だよね!」

 ジャックが、目を大きく開けて、半信半疑でつぶやくと、

「分かるのね!」

とマリア達は、一斉に湯の中に飛び込んで、裸のまま、争って彼を抱きしめようとした。

「ようやく分かったの?私は、すぐに分かったわよ!」

と武装のマリアが涙ながら言うと、

「何となく気がついたのは、3か月くらい後、ジャック君だけが残った時だったわよ。」

 聖女のマリアが訂正を入れた。

「気づいてからも、他の目を気にして守れなくてごめんな。」

の格闘のマリアの言葉に、

「半分以上は戦いに血がのぼって、忘れてしまったからだけどね。」

と、また、聖女のマリアが一言入れた。

「いい加減にしてよ!あなた、何が言いたいの?」

「そうだよ。自分だって同じじゃないか?」

 武装のマリアと格闘のマリアが、聖女のマリアに、いい加減頭にきてしまった。

「まあまあ、彼女の言っていることは事実なんだし…。それに、私達4人も、お互いのことが分かったのは、ジャック君が来る少し前だったじゃない?みんな、ジャック君だって、姿形が全く変わっているんだから、分かることが不思議なくらいなんだから。」

 賢者のマリアが割って入った。ようやくあ然としていたジャックの思考回路がつながってきた。

「僕も、勇者様達を見て、なんか、何かを思い出しそうになって、それが何か分からなくて…。それがどうして、今、お姉ちゃん達だって分かるのか、不思議なんだから…。」

 そこまで言うと、賢者のマリアが、ジャックの顔を自分の胸に押しつけて、抱きしめた。

「う、う…。」

「こ、こら!」

「な、何してる!」

 武器のマリアと格闘のマリアが、2人を引き離す。

「私達も迷ったし、それに…きれいな体じゃなかったから、迷って…。」

 聖女のマリアは、しんみりと言ったので、ジャックを含め4人はしんみりとなった。

「お、お姉ちゃん達。」

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