第18話 勇者様達はお姉ちゃん達

「私達は…、もう汚れているのよ。勇者の力に覚醒する前にだって、色々あったわ。その後だって、上位魔族達との戦いで、もうこれまでと思ったことはあったわ。その時、奴らが高貴な騎士道精神の持ち主だったことはなかったわ。その後、みんなと再会して、その時だって、すぐには確信できなかった…。」

 賢者のマリアが、いかにも残念!という気持ちが強くなってしまった。

「そんな汚れた私達は、やっぱり嫌?」

 聖女のマリアの言葉、そして、心配そうに見つめる4人のマリアの目、ジャックは抵抗出来なかった。

「そんなことはないよ!お姉ちゃん達は、美人なお姉ちゃん達だよ!」

 そう叫んだ後は、彼もマリア達も、歯止めが効かなくなっていた。

 勇者の力が覚醒する直前まで、マリア達の誰もが、単なる弱者に過ぎなかった。逃げ惑う群衆、混乱、魔族による蹂躙、理性を失った人間、亜人達の行動の一方的な被害者になっていた。覚醒した時、4人は、別々の場所にいたが、ともに10歳だった。

 そして祭り上げられ、ちやほやされて、危険な戦いの先頭に立たされ、放り込まれたかと思えば、妬み、嫉妬、疑心暗鬼の対象になり、暗殺、闇討ち等、守ってやっているはずの人間、亜人達から受けたりした。魔族の軍に多勢に無勢で捕まり、凌辱された挙げ句処刑されかかったこともある。最後の力を振り絞って、魔法、体力抑制石の、縛めを断ち切って、皆殺しにしたが。4人の、真の勇者達、マリア達として会わされた時でも、しばらくは、彼女らが前世での幼なじみとは気がつかなかった。それでも、4人ともに、自暴自棄にならず、人間(亜人も含めて)不信がぎりぎりのところで踏みとどまったのは、「弟」がいるかもしれないという思いからだった。4人が、前世の幼なじみだと分かった時、その気持ち、期待は一層強くなった。だから、後から考えて、ジャックを見て、すぐに分からなかったことが、悔しいやら、腹立たしいやら、と感じてならなかった。さらに、戦慄さえした、彼がその間に死んでいたかもしれなかったからだ、実際、彼以外のチームの男女は全員死んだのだ。だから、彼が生き残ったの彼女達が守ったおかげではなく、自力によるものだった。また、彼が自分達の所から出ていこうとしているのにも腹が立った。彼が、チームの女の誰かに好意を持っているのではないか、と根拠もなく疑ったこともある。後から後悔したが、つい彼のピンチを見て見ぬふりをしてしまって、あわや、となったことも何度かあったし、傷ついた彼に回復魔法をかけなかったりしたことも度々あった。戦いに夢中になったり、彼の力に安心して、うっかり彼から目を離してしまったこともかなりあるし、やむを得ず、チームの他のメンバーの援護を先にした時期も長い、彼らが危機に陥っている時、ジャックは何とか凌いでいたから。彼は、それでも生き残ったし、よく彼女らを戦いでない面で助けてくれた。“彼は、やっぱり、変わっていない!”4人のマリア達は、快感の余韻に浸り、ぐったりしながら、思っていた。

 ジャックは、満足そうに横になっている、勇者マリア達を見て、

「勇者様達が、お姉ちゃん達だったなんて…。でも、何で直ぐに分からなかったんだろう?」

 はるかに高見にいる勇者様達が、ということでもう少しのところで分からなかったのだ。少なくとも、ジャックは心の中で弁明、言い訳をしていた。

 “それに姿形が、全く異なっているんだし…でも、それなのに、どうして今は違和感なく受け入れられているのだろうか?”分からなかった。ただ、今、幸福感に浸っていた。それは、マリア達も同様だった。

 お姉ちゃん達と言っても、彼女らは前世、異世界で本当、義理も含めて「姉」ではない、誰一人として。保育園の時から、ご近所の一つ年上の腐れ縁、ずっと一緒の5人組。何時しか、彼女らの彼への思いは、異性への愛、恋愛に変わっていった。4人は告白した、一緒に。何時か、誰かを選ぶこと、その間、5人の今までの関係を維持することを約束した。彼女らは、彼に相応しい女性になるため、彼は彼女らに相応しい男になるため、頑張った、色々なことに。成人した彼は、決断をしなければ、と思っていた。悩む日々が続いた。それがある日、突然解決した。隣国の半島二カ国から、同時に発射されたミサイルの着弾で全ては終わった。両国への信頼関係を示すための、彼らが住んでいた県の防衛体制の停止、

「両国は、平和を約束してくれました。両国は、戦争を望んでいません!」

 県知事は、両国外交団との会談後のレセプションでシャンパンの入ったグラスを掲げて、高らかに宣言した。その映像が流れた一時間後、実際は同県に限っても防空体制が停止されたわけではなかったが、彼の妨害活動で穴ができていたのは確かで、撃墜できなかったミサイルがその穴に着弾した。そこに、5人がいた。一瞬では死なず、しばらく苦しんで死んだが、とにかく、死んでしまったことは確かだった。

「お姉ちゃん達を今度こそ、守らないと。」

“本当に、いままで俺なんかと比べようもないほど苦労したんだ。…あれ?転生勇者がバッドエンド…裏切られて、後で復讐…世界を滅ぼす…なんてのもあったような…。まさか、まさか…?”

 目覚めた彼女らに、

「選ばなくていいのよ。」

「僕は、お前の一人でいいんだから。」

「二番目、三番目…10番目がいたって許しますよ。」

「お前の立場はわかっている。お前が考えているより、ずっとお前は重要な立場にあるんだ。そのお前の一人でいいんだから。」

言われて、彼女らと第二戦目を始めて、ようやく、“女魔王たちに何と言おう?”と悩み始めたジャックだった。

 

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