第16話 私のジャック君を~!③

「じ、ジャック様が来ている?」

「ジャック殿は…、ジャック殿に…、え~!」

「じゃ、じゃ、あのジャック殿は~?」

 ジャック達の軍の勝利を伝えに来た剣聖サルトルは、既にジャックが来て、勇者マリア達に拝謁していると聞いて、素っ頓狂な声をあげ、彼女の話と驚く姿を見て、カント王子とヘーゲル王女も、顔も体も強ばらせて、やはり素っ頓狂な声を上げた。

「こ、こうはしてられませんわ!」

「ゆ、勇者様の危機だ!」

「早く、お知らせしなければ!」

「皆を…ここにいるものだけでいい!私に続け!」

と駆け出したのだが、勇者マリア達とジャック一行が話をしているはずの広間の扉を開けた瞬間、

「お前は、ジャックではないな!誰だ?」

「私の目は誤魔化せないわよ!」

「早く、正体を現せよ!」

「だいたいの想像は、できていますけど。」

 マリア達が、自分達の前に跪くジャックとその一行に向かって叫んでいるところだった。

「へ?」

「そ、そう言えば、少し品がなかったような気がしていた…。」

「やはり本物には…。」

「分からなかったくせに、今さらですわよ。」

とカント王子達が言い争っている間にも、偽物ジャックは、不適な笑いを浮かべて、立ち上がり、その周囲の者達と同様に体を変化させ始めた。それを、勇者マリア達も、カント王子達も、態勢を整えるための時間に使った。

「こいつらは強いわよ。あなた方は、身を守ることに専念なさい!」

 賢者のマリアが叫んだ。

「真魔王様方のお一人、ヒセイ様だ。勇者4マリアども、お前達の得意顔も今日が最後だ。」

 ドラゴンのような顔に変わった巨体の魔族の傍らに、10宰相の1人と名乗る有角系オーガにエルフを加えたような女魔族が高らかに宣言した。さらに、ハラボテの巨体女に変わった魔族は次々に魔族を生み出し始めていた。既に、数は当初の3倍になっている。応援に駆け付ける将兵の足音が近づいてきていたが、それを待っていると、敵の数がさらに増加するだろうと思われた。

「あのトカゲ野郎は私がやるわ。後は任すわ、速く援護にきてね。」

と武器のマリアが言うと、

「僕は、あの宰相をやるよ。手早くやって、皆の応援にいくから。」

は、格闘のマリア、

「あの気色悪いのと気色悪い大勢は、私に任せて!」

と、聖女のマリアが言った。

「後の雑魚は瞬殺しておくから、背中はみんな、任せなさい。」

と賢者のマリアが締めくくった。こういう時、彼女らは即、自分達の役割を理解してしまうのである。突出はしないし、尻込みもしない、功名を競おうともしないし、保身も考えない。だから強いのだ、彼女ら個人のとてつもない強さに加えて。

 真魔王ヒセイの巨大な魔剣が、強力な魔力を纏って、武器のマリアに振り下ろされ、それを武器のマリアが聖剣で受け止める。それが何合も続いた。

 一方、格闘のマリアは、宰相のセイヒの魔法攻撃を、その拳、足圧で押し返し、弾き返し、受け流していた。

「もう次から次へとー!」

 癇癪を起こしながら、聖女のマリアは、次々に生み出される魔族兵士、おぞましい姿をした、を魔法で、剣で、拳で潰し続けていた。

 賢者のマリアは、淡々と魔族騎士を倒し、カント王子達を援護し、他のマリア達に目配りをしていた。

 真魔王ヒセイの魔剣が、15合目に、大きな音を立てて真っ二つに折れ、先が床に落ち、また大きな音を立てて転がった。

「ぐわっ!」

 同時に放たれた武器のマリアが放った衝撃魔法が、彼の防御決壊を破壊して、彼に直撃したのだ。吹き飛ばされるようにして、彼は床に叩きつけられた。

 苦痛のうめき声を上げながら、起き上がる彼の前に、血を噴き出している首なしの体が落ちてきた。

「前より良くなっただろう?ブスな顔がなくなったから。」

 格闘のマリアが、笑っていた。

「こ、子供たちを産めない?」

と悲壮な声があがった。産み出した戦士のことごとくが殺され、体は膨れ上がるが、戦士達は産み出せない状態になっていた。そして、血と他の体液を噴き出し、不完全な我が子=気色悪い戦士と肉片になり崩れていった。

 さらに、他の魔族兵達の大半が倒れ、残った兵士も人間達に負い詰められているのが目に入った。

 それでも、真魔王は起き上がり、

「まだ、勝ったと思うな!外には12魔将の1人に精鋭をつけて伏せている。奴らが、一斉に突入すれば、この都市の住民の大半が死ぬぞ!」

と叫んだが、武器のマリアが、鼻で笑うように、

「ふん。知らないとでも、何もしていないとでも思っているの?」

 武器のマリアが、手裏剣を複数投げた。魔法を纏っている手裏剣は、全て真魔王の体に深々と刺さった。

「みんな、もう立っていないわよ、大半は、私が倒したのよ。」

「何言ってるんだよ、僕の方が多かったよ。」

「あら、半数は私ですよ。」

 3人の争いに、賢者のマリアが、

「捜して、場所を特定して、戦果を確認して、皆を援護していた私が最少、真魔王を相手にしていたあなたがその次、後の二人は、まあ、同数で1位かしら?」

と裁定した。

「な、なんだと~!」

 真魔王は、狼狽えるような声をあげた。それでも、こみ上げてくる怒りの力で立ち上がった。

「みんな行くよ!」

「任せてくれ!」

「足でまといにならないでよ!」

「さあ、一気にいくわよ!」

 後は、4人のマリアにより袋だたき、たこ殴り状態になっていた。元の姿が分からない状態になるまでに、それ程の時間はかからなかった。広間は、血の海と肉の平原になっていた。

「こちらは、死者はなしね、怪我人はいるけど。まだ、外では抵抗している奴がいるわね。まあ、でも、もう助ける必要はないわね。」

 賢者のマリアが、遠目の魔法で見た状況を説明した。

「でも、こいつ…もっと大勢の部下達とだったら、苦戦だったかも。」

 武器のマリアが、ボソッと言った。

「さすがに、真魔王と言ったところかな、やはり。」

は格闘のマリア。

「みんなを護って、外のも含めて、とは言っても、やっぱり戦場でも同じことだもんね。」

と聖女のマリア。

「あのジャックは、やっぱり勇者様に護られていたんだ!」

 どこからか、突然、声をあがった。

「違うわよ!」

 マリア達の声は、ハーモニックした。

「初めは、本当に平等に支援したのよ。でも、完全に守り通すのは無理だったのよ。」

と賢者のマリアが説明しだすと、すかさず

格闘のマリアが、

「それに手を抜いて勝てる戦いなんかなかったからね。」

と付け加え、さらに

「だから、守れない瞬間、場所は至る時、ところに生じたのよ、悪いけどね。でも、私達も負けるわけには、いかなかったの。」

 聖女のマリアが、最後は悲しそうに言った。

「その中で、生き残ったのが、ジャック君だけだったのよ。」

と武器のマリア。

「それからはね。」

 さらに、賢者のマリアが続けた。

「戦いでのサポートを、ジャック君にしてもらったから、彼への援護はどうしても目がいきがちだったけど、それは他のメンバーとは比べようもないくらい危険にさらされていたからなのよ。それに、完全な援護なんかできなかったわ。」

 賢者のマリアは、首を横に振って見せた。

「実際、他のメンバーがいたる所で危険な目にあって、そっちに目がいって、ジャック君から目を離したことは、ほとんど毎回だったわ。」

 武器のマリアはため息をついた。

「それに、あいつ、直ぐに、自分のことは省みないで、助けにいくんだもんな、毎度。」

は格闘のマリアは、呆れたという顔をした。

「それに、誰よりも大丈夫なものだから、つい、任せっきりにしてしまったりしたのですよ。後で、よく…なんてあったのですよ。」

と聖女のマリアが指摘すると、カント王子達は、感心するようにしきりに頷いてみせた。

「それに、彼は日々の鍛錬で、さほど私達の援護なしで大丈夫なくらいになっていたの。だから、私達も、つい安心して、油断して、他のメンバーの援護や自分達戦いに夢中になって、彼が危なくなる場面が度々生じてしまったのよ。」

 賢者のマリアが、しみじみという感じで語った。

「まあ、でも、彼ったら、僕達が、間に合うくらいの時間は稼いだけどね。」

「その上、1人、2人の魔族を倒して、仲間を助けたりしてね。」

 格闘のマリアと聖女のマリアが補足すると、カント王子達がまた、感心したように頷いた。

「だから、ジャック君は、一番危ない中で戦い、生きのびて、相手を倒して、私達の支援もしてきたのよ!」

 最後に、武装のマリアが、締めくくると、またまたカント王子達は頷いた。

“私が助けなければならないところが減ったのが、一番悲しい!”

“喜ぶべきなんだけど、もっと頼って欲しいよ!”

“そのせいで、悪い虫があつまってわね。”

“かえって危ない目に遭わせているような気がするわ。”

とマリア達はそれぞれに思い、

“行動を起こす時だわ!”と心の中で頷いていた。

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