第15話 私のジャック君を~!②

 その頃、というよりはこの少し後のことだった、ジャックは、突然目の前に現れた4人のマリア達の顔と大声、

「こらー!ジャック!他の女にうつつを抜かしてたら許さないからね!」

でピンチを救われていた。

 彼に襲い掛かり、瞬く間に追い詰めた魔族の刺客の女は、一瞬、そちらに気を取られてしまったからだった。一瞬だったが、ジャックにはそれで十分だった。彼は、彼女に組み付いた。胴を抱えて、そのままのけぞって、バックドロップの逆気味に投げ落とそうとしたのだ。しかし、それはできなかった。その時、

「ジャック君に触る女は、こうしてやるから!」

と聖女のマリアの声が、そして、

「ひー!な、なんだ~!」

 魔族の女戦士は、悲鳴のような叫び声をあげて、体を痙攣させるように震わせた。ジャックは、聖女のマリアが自分に、どうやってか分からないが、力を与えてくれたと思い、彼女を離すことなく、パワーボム、パイルドライバー、コブラツイスト、ブレンバスター、四方固めなど、体を密着させる技を連発し続けた。頭から床に叩きつけても、締め付けても、大したことダメージは与えられないものの、何度も何度も繰り返すことで、また、マリアの与えた力?によるダメージも加わって、少しずつダメージを与えている実感を持つことができた。女戦士は、かなりダメージを受けたが、何とか挽回しようと気力で彼に向き直った。その時、2人は顔を正面から見ることになった。

「あれ?」

「え?」

“舌…舌を噛み切ってやる~!や、やる…、で、でも、でも~…できない―!。”“舌を、噛み切ろうとしている?”と思いながら、いや思おうとしたが、互いに顔が近づいていくのを止められなくなっていた。そして、そのまま唇を重ねて、舌を絡ませて抱き合う形になった、いや抱き合っていた。聖女のマリアが与えた力を最大限に出そうとしているうちに、調整することができるようになっていたので、何時しか、それを止めていた。

「ジャック殿、大丈夫か?…て?」

「ジャック様。ご無事ですか…え?」

 何とか、陽動の、阻止の兵を蹴散らして駆けつけて部屋に入ったキェルケゴールとショウペンハウエルが、見たものは下半身を露わにした男女の営みだった、もちろん男はジャックだった。しばしあ然とする2人だったが、期せずしてドアを閉める手が重なった時、互の顔を見て頷いた。そして、下を急いで脱ぐとジャックの方に向かって駆け出した。

 1時間後、満足そうに横たわって、気持ちよさそうに、満足したように、寝息を立てている魔族の女達を見て、頭を抱えるジャックの姿があった。

 翌日、競い合うように寄り添ってくる、キェルケゴール、ショーペンハウエル、そして刺客としてやって来て、結果的に返り討ち?になった上位魔族軍副魔王の親衛隊長クラスのニーチェの3人に、苦悩し、

「僕には、マリア様達…え?いや…そんなこと…。」

とマリア達の顔を思い浮かべて自問を繰り返していたジャックだったが、その日の午後にはそんなことは言ってはいられなくなった。キェルケゴール達3人も同様だった、それは。

 上位魔族が、ジャック達に大軍を向けてきたのである。

「彼らは、ジャック殿に脅威を感じていたのですよ。だから、私が刺客として差し向けられたわけです。」

 ニーチェが、得意気に、そう見えた、説明した。そして、三重の堀と土壁、数多くの櫓、堀の中には逆木などが埋められ、複雑とも言える構造物が配置され、攻め進む側が複雑に進まざるを得ないなど、城塞のような野戦陣地が、魔族の軍の前に出現していた。

「さすがジャック殿だ!」

「ジャック様が、陣頭指揮していただいたお陰ですわ!」

「さすがに、私を倒したジャック殿だ。」

と3人の魔族女が言うのは受け流せたが、

「いや~、君でなければできなかったよ。」

「こんなことができるのね、と思ったわよ!」

 ディドロとモンテスキュー達まで言い出したため、“陣頭指揮を…。”と悩み、震えを隠さなければならないジャックだった。

「予備隊を投入!大弓隊は石弓、投槍機隊を支援に投入。エルフの射手を伏兵に配せ!長槍隊は、それを援護しろ!何とか、持ちこたえるんだ。」

 さすがに、上位魔族の大軍である、かなり持ちこたえていたが、次第に攻撃する場所を集中し始めたため、ついに一角の本丸が、危なくなってきた。ジャックは、その場所に駆けつけた。“何で、俺が陣頭指揮して、しかも先頭で戦闘しているんだろう?”と嘆いてもいられなかった。本陣で指揮している彼のもとに、魔軍の精鋭が突入してきたのだ。

「ジャック殿!ここは私に任せて!ええい、貴様ら如きが、私の剣の錆になるだけでも、光栄に思え!」

「え~い、下賎の者どもが、高貴な私やジャック様に、刃を向けたことを、あの世で後悔なさい!」

 ニーチェとショウペンハウエルが、ジャックを護ろうと、獅子奮迅、死体の山を築いたが、多勢に無勢、相手の精鋭中の精鋭が出てきて、彼女らも危なくなってきた。

「ジャック殿、こっちに来ては、だめだ。」

「ダメです!私を助けようなどと。」

 2人は、ジャックが助けに入るの見て叫んだ。

“だーて、お前達がやられたら、もうもうおしまいじゃないかー!”心の中で泣きわめいているジャックは、とにかく2人を援護、というよりは2人への攻撃をひたすら邪魔してまわった。そのはずだった。だが、気がつくと“あれ?”群がる敵兵を1人で相手しているようになっていた。群がる将兵の攻撃を、ひたすら受け流し、避けて、時々手傷を、軽い手傷を負わせていただけとも言えたが。それでも、彼の上に剣は凄い速度で、次々振り下ろされる剣を受け止め弾き返して、次々放たれる魔法攻撃を全て中和して、とにかく戦い続けていた。

「ジャック殿!」

「ジャック様!」

 ショウペンハウエルとニーチェが、加勢に行こうとするが、次々に新手が現れて、近づけない。その彼女達を、ジャックが、かえって援護する。“愛よ!”“愛だわ!”と感動する彼女達だったが、たまたま逃げるうちに、彼女達の近くに来て、苦戦を見て、つい手を出してしまったのだが。何とか一進一退ながら、僅かずつ押し返していた、ショウペンハウエルとニーチェの奮戦が大きかったが。彼の頭が、真っ白になりかけてきた、その時だった。

「ジャック殿、参りましたわ!」

「ジャック!生きているか?」

「ジャック!生きているわよね?」

魔王キェルケゴールが親衛隊を従えて、その中にいて、先頭に立ったディドロ、モンテスキューが、囲みを破って駆け付けてきたのである。これで状況が完全に一変、逃げ腰になりかかっていた上位魔族の将兵は総崩れになって後退を始めた。こうなると、追撃になる。誰かに任せて、自分は地面にしゃがみ込みたいジャックも引きずられてしまう。そのうちに、1人、陣形を、態勢を立て直そうとして立ちはだかっていた小さな金髪のイケメン顔を載せた毛深い巨漢、本当はイケメン顔はジャック並みの大きさなのだが、その1/3に見える、魔族の将の体に、偶然にジャックがつき出した槍が、たまたま拾った槍がかなり格の高い魔槍で、たまたま彼がジャックに気がつかず、偶然隙をついた形となり、奇跡的に彼の魔鎧がその前に破損していた場所に、その場所がたまたま彼の弱点で、そこに突き刺さったのだ。慌てたのは、かえってジャックの方だった。焦って、魔槍に魔力を纏わせ、集中させて、さらにつぎ込める力を全てつぎ込んでしまった。魔槍の魔力とジャックの魔力が、相反するそれが上手いこと、相乗効果をあげて相手の体内を、切り裂き、焼き尽くした。ジャックは、ふらつき立っているのがやっとだったが、よろめく相手の位置がちょうどよく、思わず再度突き刺してしまったが、うまいことそれがとどめとなってしまった。それで、その魔族戦士は絶命してしまったのだ。それが決め手となって、大きな動揺が大津波のように広がり、この戦線全体の上位魔族の軍が総崩れに近い形で敗走することになった。

 もちろん、ジャック1人のせいではなかった。と言うより、上位魔族の主力が、またまた、マリア達がいる人間・亜人の連合軍に大敗したことが一番の理由だった、その知らせが着て動揺が広がったのだ。

 適当にマリア達の相手をして、ジャック達を叩こうと思っていたのだが、マリア達の勢いがもの凄く、結局逐次投入の愚行をおかしてしまい、大敗してしまった、かなりの兵力を失うことになったのである。後から考えれば、ジャックの方にもっと兵力を投入していれば、このようなことはなかった、中途半端な戦略が大敗に通じたわけである。

 それは、あくまでも結果論でしかなかったが。

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