第14話 私のジャック君を~!

「と言うわけで、ジャック殿の活躍振りは目を見張るもので、下位魔族のかなりの部族を味方につけ、上位魔族とそれに従う下位魔族の侵攻を撃退さえしました。個人的な武勇も大したものですよ。」

 カント王子の説明に、嬉しそうに頷いていたマリア達だったが、ヘーゲル王女の

「それはいいんですけど、女魔王と魔王女が…。」

と愚痴を言い出してから、顔色が変わった。

「あの魔族の女達、魔王キェルケゴールとショウペンハウエル王女、立場を利用して、ジャック殿にベタベタと。もう、私はハラハラして…。」

 二人は、四六時中、ジャックを取り合うように、互いに盗られまいとするかのように、寄り添うようにしていた。ショウペンハウエル王女は、当初、身一つで心細かったのは事実であったのだが。

「いい加減、居候であることをわきまえて、ジャック殿に纏わり付くな。」

とキェルケゴールが言うと、

「ジャック殿は、私を見捨てないわよね?」

とこの時とばかり、抱きついてくるショウペンハウエル王女。

「このクソ女。ジャック殿から離れろ!」

「な、何よ。あなたこそ、ジャック殿と抱きつかないでよ。この下位魔族が!」

「なに!言わせておけば。まがりなりにも、魔王である我の力をみせてやるか?何時ども相手になってやるぞ!」

「ああ、受けてもたってやるわよ。」

「ふ、二人とも止めてください!」

とジャックが、止めにはいることが度々だった。

 ヘーゲル王女達が、事細かに説明し、彼女ら自身も怒りを露わにしていたが、マリア達が黒いオーラを纏いかけて入るのを感じたカント王子は、慌てて、

「でも、ジャック殿の発想は、私達のおよぶところではありませんよ。」

とフォローにはいった。

「新しい人魔共存の世界と言っても、我らはともかく、上位魔族は、略奪や搾取のみでしか、成り立っておらんぞ。どうやって、やっていけるのだ?」

 魔王キェルケゴールの指摘は、嫉妬心や敵愾心だけからではないとその場にいる皆も同感だった。

「う~ん。まあ、軍人とかで…、でも、そうだ、変わり者、自分で農業とか職人とかする、したいという上位魔族もいたのでは?」

とジャックが、ショウペンハウエルにふると、

「じ、実はね、花とか育てることが好きだったのよ。花より、野菜とかも、隠れて作ったりして…。馬鹿にされてたけど…。たくさんじゃないけど、けっこういたわ、そんな変わり者が…。」

と、顔を下に向けて、細々と言った。

「それはいい。そうした上位魔族を応援して…、適応できないのは騎士とかで…、そんな連中だって…。」

とジャックは自分で言いながら、だんだんと構想を広げていった。

「それに、学問とかに興味を持った連中は、いませんでしたか?いるのなら…、略奪式の統治ではなく、恒久的統治の体制にするのですよ。騎士だ、傭兵だって必要だし、農業や工業や学問をやりたいものはそれぞれやりたいことをさせて、下位魔族や人間も入れて、彼らには保護と権利を与え、税金を取ればいい。そのうち、かわりものが、変わり者でなくなる、変わり者を馬鹿にしていた連中が、変わり者になることを希望するかもしれない、いや、絶対なりますよ!」

 カント王子ですら半信半疑ながら、

「できそうな気がしてきて、やってみてもいいと思うようになりましたよ。人魔連合軍は、形をなしてきましたよ、本当に。」

 カント王子は、弁解するつもりが、かえって自分の言葉で熱を帯びていった。

 さすがに、マリア達も表情を緩めたので、

「では、我々はこの辺で。」

とカント王子は皆を連れて、マリア達の前を辞した。 

「真の勇者マリア様達は、もしかして、ジャック君が好きなんじゃないかな?」

「そ、それはあり得ませんわ。確かに、マリア様達は、美しいですが。」

「そうですよ、さすがに。王子様は考え過ぎですよ。」

「そうですわ。マリア様達を、普通の男女の関係で考えていはいけませんわ。」

 ヘーゲル王女達の反論に、納得してしまうカント王子だった。真の勇者マリア達は、そう思わせる存在だった。

「ジャック君がー、あんな魔族臭ぷんぷんの魔族女に惑わされることはないから…。」

「でも、僕らもかなり臭くなっているよ?ここのところ、風呂に入る機会がなかったから…、戦いが続いたから…。」

「臭い?早く風呂に…体を洗わないと!」

「よく考えて?ここには風呂はないわよ。」

「じゃあ、直ぐにあるところにいけばいいじゃない?それだけのことじゃない?」

「一番近い…サント・ヘレスのお城なら…日帰りは無理だけど…。」

「今、一日も抜けられないのよ!わかっているじゃない?」

「じゃあ、ここに作らせたらいいじゃないか?」

「そういう方法が、ありますわね。」

「それでいきましょう!」

「何言っているのよ、みんな。ジャック君なら、この臭い、喜んで嗅いでくれて、美味しいと言って…何、変なものを見る目で見ているのよ!」

 4人だけになるとマリア達は、騒ぎ出した。結界を張って、外部には聞こえないようにすることは忘れなかったが。

「だから、ここはジャック君を、信じて待とう、彼の評価が高まるのを喜ぼうと言ったじゃない?」

 賢者のマリアが、自信無さそうに、3人のマリアに諭すように言った。

「実際、ジャック君の掴んでくれた情報で、さらに強い上位魔族がいると分かったから、私達もこれまで通りにはいかないからね。」

「そうだね。ジャック君に、あっちで頑張って貰わないと、僕達だけでは危ういかもしれないな。」

 意外に武装のマリアと格闘のマリアが、常識的なことを言い出したのでホッとした賢者のマリアだったが、

「でもさ、ジャック君に悪い虫がつかないように、予防策を、と思うんだけど。」

 聖女のマリアの言葉に、ギクリとした。“こ、こいつ、意外と悪智恵がまわるんだったわ!”

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