第13話 ジャックの進撃?

「た、助けて!もう嫌ー、死にたくない!」

と上位魔族部族の王女ショウペンハウエルが、ジャックの腕にすがりついてきたのは、彼と彼の軍が乗っ取り系上位魔族の国に侵攻し、一部我に返った被支配魔族達の協力を得て、王都に侵攻、王宮内に入った時だった。彼らの防衛が、

「?」

という状態なくらい、王都、王宮内がザル状態で、偵察くらいに進んでいたジャックを先頭にした先遣隊がそのままなし崩し的に、王宮内まで進んでしまった時だった。彼らにとっては、それどころではなかったのだ。

「わ、私の、我の、お…ジャック殿にだ、抱きついて、な、なに、何者だ?」

と叫ぶ、女魔王キェルケゴールだった。

「は?」

 唖然とするジャックに、赤髪の長身で、地味だが上質な衣服、外での活動のしやすい上下、を着た、少し可憐な感じの美人だった、がすがりついていた、

「た、助けて!も、もう、嫌、こんなこと…、私には駄目なのよ、やっぱり。死にたくないの、こんなことやめるよ~!って、あ、あれ?」

泣きながら、まくしたててから彼の顔を見上げた。

「え?」

 一瞬、二人だけの世界に入ったものの、キェルケゴールの叫びが耳に響き、追ってくる上位魔族の兵士の姿が目に入って、ジャックは我に返った。

 彼は、とにかく彼女を守って戦うことを選んだ。あっというまに、防戦一方になったが、剣や魔法の攻撃をしばし受け流して、何とか耐えた。

「ジャック殿、助けにきたぞ!」

「ジャック!大丈夫か?」

との加勢で、何とか押し返した。結局、後続部隊が次々来援、相手は混乱の中、自ら崩壊するように逃走を開始して、勝利を得ることになった。

「それで君は?」

 間の抜けた質問をジャックがした時、まだ彼にしがみついて、キェルケゴールと睨み合っている女は、

「わ、私はアカ族の王女、ショウペンハウエル。」

 彼女の話から、上位魔族は統一去れているようで、実は秘かに対立、闘争していることがわかったのだった。

 クロ族は、下位魔族を新女王候補が乗り込んで乗っ取るが、アカ族はそのクロ族を乗っ取る部族である。下位魔族とはいえ、数の多い中に単身で乗り込むクロ族の女王候補が成功する比率は高くないし、数は少なくても上位魔族のクロ族の中に乗り込むアカ族の女王候補の成功率は、同様に高くない。上位魔族の連合が締結された中、この種の行為や略奪系部族間の抗争は禁止され、連合としての組織が一応構築され、代替措置があたえられているが、一部で、水面下ではなくなっていない。また、かえって部族内の勢力争いが激しくなり、負けた側が危険な、この種の行為を強要されることが頻発しているという。しかも、彼女の場合、クロ族の側に情報が流され、クロ族に協力する1隊が送り込まれていた。

「だから、嫌だったのよ!」

 では、こういうことが禁止されているかというと、されていないという。

 彼女は、ジャックの前で、泣き続けた、そのことを説明しながら、キェルケゴールに睨まれながら。

 そして、ジャックはキェルケゴールを他、皆を説得して彼女を受け入れたのだった。

 というわけで、ショウペンハウエル王女を加えて、ジャックの下位魔族解放・提携・連合作戦は、さらに進行、侵攻することになった。

“上位魔族って、蟻やスズメバチみたいだな?”と思うジャックだったが、さすがに蟻やスズメバチとは違う面もある。部族の中に、彼女の臣下もいるし、人間社会、というよりは封建社会に近い制度、家族関係が存在している。そのため、彼女のお陰で、彼女の臣下、一応上位魔族である、の一部を引き入れることができた。少ない臣下の、さらに一部であるが、少数ではあるが、上位魔族の部隊が加わったことの意味は大きい。それに、未だ謎の多かった上位魔族の内実が少しわかったからである。

 八人の真魔王が頂点にいて、その統一活動は、彼らの下にいる10

宰相によるものだった。その下の12魔神将がおり、それがいよいよ出てくるらしい。今まででなかったのは、上位魔族間の抗争が、規模を大きくして続いていたためだという。それも終わった。

 そういうわけで、ジャックが孤立して奮戦しているが、危なくなっているショウペンハウエル王女を助けに駆けつける羽目になったのである。

「ジャック殿。かたじけない!」

と何故か必要以上に目をうるうるさせている王女の傍らで、上位魔族の兵士の攻撃を防いでいるジャックは、心の中で泣きわめいていた。

 とにかく彼女を守って、そのつもりで動き回って、逃げ回ってか?剣を振り回して、手裏剣や焼夷弾などを投げて、魔法を放っている内に、キェルケゴールが近衛兵を引き連れて、ディドロ達も加勢し、ショウペンハウエルの親衛隊が体勢を整えて来援、5人だが、して、彼女を救い、さらに相手を押し返した。それをきっかけに、相手は崩れ、退却を始め、勝利を何とか得ることができた。後からわかったことだが、相手側の精鋭部隊を率いた準指揮官が、その時倒れたということだった。もちろん、ジャックが倒したのではないが、

「ジャック、凄かったよ。あんな奴らから王女を守り抜いて、しかも、3人も魔族の騎士を倒すなんて、聖剣などなしに、マリア様達が聞いたら、お喜びになるよ。」

「本当に、おとぎ話の、ドラゴンから姫様を守る勇者様のようだったわよ!」

 ディドロとモンテスキューが、ニコニコして、褒めてくれた。

「でも、それはお二人やキェルケゴール様やショウペンハウエル様が助けてくれたおかげで…。」

と言いかけると、

「そんなこと言ったら、君の助けで魔族を倒せたんだぜ。」

「そうそう。それを、彼も私もだ、自分が倒したと言っているんだから、あなたも堂々と言いなさいよ!」

「それで、貰った恩賞で、僕らの結婚祝いをしてくれ。」

「ケチらないわよね?」

 仲良く寄り添う二人は、悪戯っぽく言ったので、それに答えようとしたジャックだが、横から、何時やって来たのか、

「そうとおりじゃ。我は、お前に助けられたと思っておる。」

「私だって、ジャック殿に感謝しておる!」

 キェルケゴールとショウペンハウエルが割って入ってきた。しかも、争うように、自分が如何に彼によって助けられたかを強調始めた。

「さすがにジャック殿だ。マリア様達もお喜びになるよ。」

「そうですわ。私は、ジャック殿の活躍を、しっかりお伝えしますわ。」

 カント王子達まで、加わってきた。

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