第12話 信じているよ、ジャック君、ジャック殿、ジャック様、ジャック…

「俺は、何でこんな所で、こんなことをしているんだ?」

と呟きながら、

「ジャック殿!危ない、無茶をするな!」

との静止の叫びを背に、剣を上段に構えて駆けていた。

「ジャック…。」

と、彼が助けに来る姿を瞳を輝かして、多数の上位魔族の兵士に囲まれながらも、必死に戦っている上位魔族の王女の助力に駆けつけようとしていた。

「じ、ジャック殿を犬死にさせるな!」

 女魔王のキェルケゴールが、叫んでいた。

 一般というか、下位というかの魔族との提携、和平は、言い出したジャックが、驚く程とんとん拍子に上手く進んでしまった。そして、いつの間にか彼が、その責任者というか、そんな立場に立って、女魔王キェルケゴールとともに、まずは彼女の部族、国の解放に向かうことになってしまったのである。“そもそもそも、何で俺になるんだよ?”もちろん彼を本格的に支援するということで、彼が指揮する部隊、人間・亜人からなる、もつけられてだ。ただし、真の勇者マリア達は、いつ魔族の主力軍が来るかわからないこと、他の戦線での戦いのため、同行できなかった。

 これには、大国出身の、声望のあるカント王子、ジャックに助けられた、ヘーゲル王女、やはり助けられて、失禁してノーパンで彼の傍らにいた聖女、ニーチェ王女、やはり助けられて、腕にしがみついて、これまた、やはり失禁してノーパン状態だった剣聖、ヤスパース王子、やはり助けられた歴戦の騎士で、中年だが王子なのだ、の、

「ジャック殿の言うとおりだ。」

「ジャック殿に任せましょう!」

「ジャック殿なら、大丈夫ですわ!」

「ジャック殿ならできる。」

と大いに主張してくれた(ありがた迷惑?)おかげなのである。

 マリア達は、

「ジャック君が、危険過ぎるわよ。」

「だからと言って、私達がいけないでしょう?ジャック君ならやれるわ…多分…、きっと…。」

「そんなあやふやな自信でジャック君を行かせたのかい?」

「もし、ジャック君が死んだらどうするのよ?」

「それもだけど…、あの女魔王の目を、様子を見た?私のジャック君に熱い視線を送っていたわ。他の女達だって…。それが危険を共有して…、あー!私だけでも行くー!」

「なら私も…ちょっとドサクサに紛れて、何が、私のジャック君よ。私のジャック君よ!」

「僕が行くよ。僕のジャック君は、僕が守る!」

「だから~、あんた方のジャック君じゃなくて、私のジャック君よ!」

「みんな落ちついて、てば!私のジャック君を信ずるわ、私は。私達の義務は、果たして、私のジャック君を信じるの!」

「だから、あんたのジャック君じゃない!」

 他の3人がハーモニーした。

 それでも、ジャック達が向かった場所近くで、マリア達を擁する人間・亜人の連合軍は、軍事活動を実施した。陽動作戦である。

 まずは、魔王キェルケゴールの国、部族の下に急行した。

 キェルケゴールは、部族の主だった者達の前で、軍幹部の前で、国民?部族民?の前で、演説、力説した。興奮が高まったところで、ジャックが和解、提携、恒久的和平の意味、利益を説明、強調した。

「うん。うん。」

と魔王が熱心にうなずき、脇で、それに周囲にも賛同が伝わるのを感じたが、“魔王が、真の勇者チームの筆頭、真の勇者達の信頼熱い側近と紹介したせいだよな。まったく、ありがた迷惑…。”

 上位魔族の複数の部族は、当然監視、統制のための軍を駐屯させてはいた。それに、彼女の国の内部が一枚板ではなかったから、そこに通報し、加わりさえした。

 だが、あくまでも上位魔族の軍は、下位の魔族の統制に必要な兵力しかなく、その質も同様だった。人間・亜人の援軍かつかつての勇者が複数がいる軍は、想定外である。しかも、先の大敗での本国正規軍兵力補充で、駐屯の上位魔族軍の兵力は削減させられていたし、真の勇者マリア達を先頭にした軍の、突然の侵攻に、省みている余裕がなかった。それから、ジャックの提案で、上位魔族に加わる下位らの駐屯地は、彼らは自分達の戦闘能力から、防御施設は皆無だった。彼らが、気づいた時には、驚愕するしかなかった、いつの間にか周囲を城塞で取り囲まれていた。そうなると、自分達が、さすがに不利となった、と理解できた。じりじりと壕を掘り柵、櫓を作り、その前にまた柵を作り、壕を堀、本格的な柵、櫓を作るを繰り返しながら迫ってくる攻撃側に主導権を奪われて、その力を十分に発揮できないまま、そのまま全滅してしまった。

「人間よ、ジャックと言ったか。お前の言葉に…主張に乗ってやろう。」

 近隣の部族の魔王は、交渉におもむいたジャックに言った。彼は、彼の部族はキェルケゴールとその部族と対立関係にあったというのにだ。ジャック達の勢いにより動揺した上位魔族の駐屯軍と開戦し、ジャック達の支援を受け入れて、上位魔族からの支配から脱することができたことが大きいが、

「ジャック殿の構想を聞いていた、奴の顔を見たか?もう、夢中になったという感じだったぞ。」

 女魔王キェルケゴールは、ジャックの天幕に入ってきて、肩を寄せ合いながら、熱くて語るのが常になっていたが、この日の会談の後も同様にだった。お互いの体臭を感じるくらいだったが、時々見つめ合うほどだったが、魔王の侍女達もいたため、それ以上の進展はなかった。とはいうものの、二人とも、見つめるたびに、

「?」

と記憶の片隅から呼びかけるものを感じていた。

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