第11話 魔王?

「ゆ、勇者様!こ、この魔族、ジャック君と、く、組んずほぐれつ…して…ジャックさんの不潔!」

とチームの聖女や女騎士まで騒ぎ立てて、マリア達の怒りはヒートアップするばかりだった。さらに、その自称魔王が、

「な、何を、我がそ…。」

とまで言ってから、じ~と彼を見つめてから、

「そ、そうなっていいかも…。」

と顔を赤らめてしまった。とはいえ、とうのジャックも、彼女の顔を見て、“?”

「嫌ではなく…。」

と言いかけてしまった。“え、何故?”慌てて、

「勇者様方。マリア様方。魔王の話を聞きましょう。魔王が一兵士のようになっているなんておかしいですよ!人魔で上位魔族と戦えるかもしれないじゃないですか?」

 今度は、皆が唖然することをジャックは言い放ってしまった。彼自身判然とつかなかったが、何となく、頭の中でピースが合うような感じがしてならなかった。

「ジャック君が、そこまで言うんだったら…。」

 とにかく、魔王達を連れて、近くの砦の一室に入り、ジャックとマリア達その他は、自称魔王の話を聞くことになった。その内容に、彼らが驚くこととなった。

「我は、我の祖父は魔王だった。順当にいけば、実力からいっても、我が母も、我も魔王の座についていただろう。あいつらが、お前達人間、亜人が上位魔族と呼ぶ連中が侵攻してこなければな。あやつらのため、魔界の全ての国、部族はめちゃくちゃに、壊滅寸前に追い詰められているのだ。しかし、実力の差はいかんともしがたく、悔しいが連中に媚びを売って、自分の国、部族の安泰を図るしかないのが現状なのだ。かく言う我も、この戦いの責任問われ、我らが不甲斐ないからと言う理不尽な理由で我が国を懲罰すると言うのだ、それを逃れるため、我自らと我が四天王、八部衆以下最精鋭を率いて、潜入、襲撃を行うことを申し出た次第なのだ。」

 彼女が、ジャックのついだワインをぐいっと飲み干した時、ジャックは我慢できずに、口を出してしまった。

「全ての国、部族って、魔族って、魔王の元に統一されていないのか?」

 それは素っ頓狂な声だった。誰もが、嗜める視線を送ったが、実は同じ気持ちだった。

「100年以上前、我の曾祖父の時代、そういう時代だった。その時の魔王が勇者に倒されて以来、魔界には複数の魔王と国家が併存、対立、相争っていたのだ。」

「だから、大きな侵攻がなかったわけか。」

 ジャックがいち早く立ち直っていた。それが何故?と言う気持ちが通じたのか、彼女達は続けた。

「あれからしばらくたってな、魔王の位に、複数ある内の一つだが、祖父がついたが、その晩年、奴らは現れたのだ。」

 上位魔族といっても、単一の存在、組織、部族ではない。

 一つは、常に移動し、移動都市とも謂えるものを持ち、周辺の全てを刈り尽くしながら移動していく種族がいた。これも、いくつもの部族がいる。魔族であろうと、人間、亜人の別なく刈り尽くす。過去の魔族による大最悪の幾つかは、彼らによるものだったという。

 他にもいる。王族などを襲い、全滅させた後、その魔族の部族を乗っ取る種族だった。彼らが王族を壊滅させてしまうと、何故か、その部族は彼を王として信じ切ってしまい、かつ、完全服従状態になる。そのうち、彼又は彼女の子達が、短時間で生まれてくる、その部族のある程度までを占めるようになり、支配者と奴隷階級となるのである。こちらも、以前からあり、彼らの魔王が人間界に大々的に侵攻したこともある。

 ただ、前者の種族は多くの部族に分かれ、互いに争い、対立していたため、魔界での影響も、まして人間・亜人界に影響を長期的に、壊滅的に与えることはなかった。後者の系統の種族だったも同様であり、上手く成功できる前に、一人で侵入するため、半ばで殺されたりして、成功率も低かった。その上、特定の乗っ取った部族を、乗っ取る部族もいた。そのため、全社的以上に、影響する範囲が小さく、短期間で終わる場合も多かった。

 それに、生産的な活動をしない連中だから、いつの間にか、支配したはずの魔族に吸収されてしまうこてもざらではなかった。だから、彼女達のような、いわゆる下位魔族は、彼らを恐れてはいても、それ程頻繁に遭遇することもなかったのだ。

 それが、突然状況が、変わったのだ。

「奴らは大挙して、しかも、巧みに侵攻してきたのだ。いつの間にか、統一されておったのだ。こうなると、どうしようもなかった。」

 彼女の国は、何とか乗っ取り系の上位魔族達の侵入を何とか阻止した。が、乗っ取られた国に囲まれて、侵攻型の部族が侵攻してきため、その軍門に降ったのである。形ばかりの自治はあるが、労働力や兵士を提供する、奴隷国家でしかなかった。

「奴らは、まったくと言ってよいほど生産能力がないからな。」

彼女は口惜しそうに言った。

「魔族に生産とか、あるのか?」

 ジャックが、思わず、皆の気持ちを代表して、尋ねた。魔王は、さすがに不快な顔で、

「田畑も、工場もあるわ!人間達も使っているが。」

 その話は、後でゆっくり、詳しく聞いたが、その内容からの印象は、“大雑把、粗放的、生産性が低い、魔界の気候、地形のせいもあるだろうけど…だから、人間界に侵攻するわけか…もっと改善できそうだ…。”だった。

「彼らを解放して、提携して、上位魔族を退け、恒久的な和平を実現しましょう!上位魔族の中からも、提携できる相手を見つけることができるかもしれませんよ!」

“とにかく、生き延びる可能性が高くなるから…。”との思いが起点だったが、彼自身、何か分からない衝動に突き動かされているように感じた。そして、マリア達以下唖然として、うなずくだけだった。

 ただ、マリア達は、直ぐに、“さ、さすがはジャック君、凄いわ!魔王!ジャック君に近すぎ!”と心の中で叫んでいた。



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