第4話 屑男ジャック
ジャックの評判は最悪になりかけているが、捨てる神もあれば、拾う神ありで何とか均衡が取られていた。
「ジャック?あれは大した奴だよ、少なくとも俺よりは。勇者様達についていっているんだから。え?そんなこと誰が言ったんだ?気持は分かるがな…はっきり言うと嘘、自分を美化しているだけさ。俺達と同様に、勇者達の戦いについていけなかっただけさ。」
「死んだ連中には悪いけどね、彼らは実力がなかっただけよ。ずっと生き残っているジャックは、あたいら、逃げ出した者達以上の奴だよ。」
そう言って周囲の冒険者、この市ではその肩書で登録されているが、達に反論したのは、2年前にマリア達のチームを抜けた、脱走した地方認定勇者の男とハイエルフの女戦士だった。
「まあ、その話は、また後でしようか。彼のところにいくから。」
「彼を、売春婦から助けてやらないとね。」
本当に彼は、売春婦に絡まれていた。
「ねえ、たまっているじゃない?金があるのも知っているわよ。何もやらせてくれない勇者様より、あたいの方がずっといい思いをさせてあげるからさあ。」
30前のまあまあ美人の女が、ジャックに、執拗に迫っていた。
「おいおい、彼は勇者様から、禁止されているんだよ。」
「そうそう。この前なんか、列火のごとく怒られて、そこの売春婦を皆殺しにするなんていきりたってのよ、勇者様は。」
「まあ、彼がなだめて、静まったけどね、二度目はないわよ、と言われているんだよな。」
流石に、顔が知られている一流の二人に言われると、しかたがないという顔をして、女は去って行った。
「ありがとうございます。ディドロ殿、モンテスキュー殿。」
ジャックは、立ち上がって頭を下げた。よせよ、我々の仲で、というようにディドロは手を平を振ったし、モンテスキューは久方ぶりに飲みましょうというように、ワインを3人分注文した。
「まあ、座ろうじゃないか?」
「そうそう、注目されちゃうから。」
「そうですね。」
ジャックも苦笑して、彼らとともに座った。ワインは、程なく来た。モンテスキューが、二人に杯を渡す。
「じゃあ、3人の無事を祝って!」
ディドロが音頭を取って、乾杯をしてから、3人はワインを一口、二口飲んだ。
「まあ、なかなかね。」
「お二人のご活躍は、耳にしていますよ。」
「ふん、あんなもの、君の活躍に比べたら大したことはないよ。」
「そんな…。私は、勇者様達の雑用係ですよ、単なる。」
「何言ってるのよ。聞いたわよ、こないだも、ドラゴンや白ゴブリンを何匹も倒したそうじゃない?」
「ほとんど勇者様達が、助けに入ってとどめを刺してくれたおかげで…。」
「それまで持っただけでも大したもんだよ。私など、魔界のドラゴン相手に、聖剣なしで倒せるかどうか、いや、何とか身を守れるのでやっとかもしれない。」
「私だって、白ゴブリン一匹でやっとよ。複数だって相手にしたんでしょ、聖剣やらなしに?」
「実際、君が生きていないかもしれないと思っていたよ。」
二人はしんみりとした表情になった。ジャックは、確かに聖剣や聖鎧、聖石の類いを持っていないし、身につけていなかった。
「それは、私が聖剣などを扱う能力がないだけで…それに、勇者様達に、高価な武具をもらっていますし…。」
どちらも本当だった。聖剣等の聖具は、強力な武器ではあるが、危険なものである。自分の所有者、主と認めなければ、力を発揮しないどころか害をなす場合もある。マリアの聖剣を手にしたら、手にする資格はないと、聖剣の怒りを買う、最悪の場合は殺される。彼が聖剣を持っていて、マリアに渡したら、マリアの方が相応しい主としつつも、元の主であるジャックをマリアをして殺させようとする場合もありうる。それは、ドワーフやこびとが作る武器も多少なりとも同様である。だから、彼の場合は、普通の武器の方が役に立つ。だから、人間の作る武器を、有名無名を問わず厳選してマリア達は買い与え、彼は購入して、彼は使っていた。
「そんなに謙遜しすぎるのも、非礼というものだよ。」
「そうよ…、まあ、でも、それで役に立っている面も…今度の戦いでも…。」
「今度の戦い!」
「知らなかったのかい?」
「そういえば、今日、急に勇者様達がお偉方に呼ばれて…、それが?」
「多分ね。大きな戦いがあるの。私達も招集されたの。」
「かなりの魔族の大軍、かつ、高位の魔族がかなりの比率で、それもかなり高位の連中らしい。当然、マリア様達も…というより、マリア様達が頼りということだ。」
「そうですか…。」
“逃げ出したい”と思ったが、そのような戦いなら、逃げても無駄だとも思った。が、
「それで、どうして私の低い評価が役に立つというのは…?」
「マリア様達は、やはりチームのメンバーを追加募集するだろう?」
「まあ、そうでしょう…でも、この間も死人が出たし…。」
「たった二人でしょ?それに、弱いジャックがやっているんだもの、俺も、あたいもやれると応募する奴は、いっぱいいるわよ。」
「今回の仕事では、全員、俺と勇者様達を除くと、重傷でしたけど。」
「そいつらの大部分は、自慢しているから、大丈夫よ。そうでなければ、逃げ出しているわよ。」
彼女は、ワインを3人分追加を注文した。
「まあ、大変さも言っているだろうが、聞いてる奴は、こいつら程度だからとしか思わないさ。まあ、それも3か月もすれば変わるさ。」
彼がしんみりしたように言うと、彼にしなだれかかっていた彼女もしんみりした顔になっていた。それから、急に真面目な顔になり、
「君の肩身が狭くなるだろうけどな、勘違い野郎が増えるからね。気をつけてくれよ、中でも善意の奴は…。君には、死んで欲しくはないからね、君の手料理を、また、食べたいしね。」
最後、明るい、食欲が満面に現れたので、ジャックはホッとした。
「でも、所属が違うから、今度の戦いが終わってからかな?」
「大丈夫よ。戦場は同じなんだから、マリア様達に挨拶に来た顔をして、そのままご相伴にあずかればいいのよ、ねえ?」
「それじゃあ、夕飯時を狙って行かないとな。」
「お待ちしてますよ。大目に作っておきますから。」
“夫婦漫才だな、まるで。え?”と思ったので、
「お二人とも…。」
と言って、じっと見つめると、
「え、いや、今度の戦いが終わったら、正式にと…。」
「正式にとは?」
少し意地悪したくなった、ジャックはディドロとモンテスキューの顔を交互に見て、追及した。
「か、彼がね…。」
「いや、彼女がだな…。」
「馬鹿ー!」
真っ赤になっている二人を、これ以上いじめるのは酷だと思い、
「お祝いを考えておきますよ。」
「それはありがとう。」
「ケチらないでよ。」
「はい。これでは、絶対死ねなくなりましたね。」
「お互いにね。」
「また、3人で、あ、あいつらも呼んで、飲みましょうね、絶対によ!」
3人は、丁度きたワインで乾杯して笑い合った。
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