第5話 転生者だけど

「今回は、何人生きて帰れるかな?」

 ジャックは、思わず呟いた。翌日、マリア様達に次の仕事、次の戦いのことを告げられた彼は、チームのメンバーの募集の手続を、急いでおこなった。日数がなく、その翌日締め切りとなったが、結果は、実力、実績でかなり選別したが、45人を採用することになった。中には、自分のチームを抜けて、あるいは解散して、はせ参じた者もいた。

“転生者と言ったって、機関銃や迫撃砲、無反動砲とかロケット砲とか造れるわけではないからな。大体、石鹸一つ造れないからな。石鹸モドキは、いくつも作ったけど。”ジャックは転生者だった。子供の頃から、記憶はあったが、はっきり把握できたのは13歳くらいになってからだった。知能の成長が、追いついたのだ。しかし、前世の記憶で無双などは、とうていできなかった。大体、もし、銃の制作者だからといって、単身で零からワルサーP38を製造できるだろうか?まず金属鉱石の採掘から、まではいかないにしても、金属の製造、それも、その設備の製造から始めなければならない。可能かもしれないが、かなりの年数と苦労が必要になるだろう。石鹸なら、と思われるかもしれないが、手軽に造れる原料が市販されているわけではない。それを作る、それを作る設備から作らなければならないのは同じことで、ワルサーP38よりは容易だろうが、そう簡単にいくものではない。全ては、社会も含めた協業によってなり立っているからだ。ノーフォーク農法を知っていたとしても、知識と実地は異なるものである。それに、あれは近代の西ヨーロッパの社会に適応したものであって、全く気候も、土地も、経済、社会も異なる世界では成り立たない。魔法で補えるのであれば別だが、そんなチートを与えてくれる女神様には会ってもいない。

“まあ、石鹸モドキを作って勇者様達にあげて喜ばれたし、ヨーグルトや料理、マヨネーズモドキ等等でも褒められたけど。”日本の江戸時代農法や中世ヨーロッパ農業、そして、家庭菜園の経験を組み合わせて、実家の手伝いの中でいかすこともできた。この世界の発展段階での先進的なものは、必要なものは、何かがわかるから、それはそれで有利だが、その程度でしかない。チートの魔法がなければ、半年や1年で、地域を繁栄させ、富国強兵、富民平和、民主主義を実現なんかできない。また、選挙をすれば、農奴解放令を出せば、人な皆平等だと教えれば、民主主義になる訳ではないのだ。

 とにかくやれることをやって、勇者様達の手助けをするだけなのだが、

「お前がいなくなるのが、勇者様の助けになるんだよ。」

 次々に言われたが、

「取りあえず、追放されるまでは、やるべきことはしておきます。」

“本当は、このまま放り投げて、逃げ出したいんだよ!”

 彼らとて、単純な感情論ではなかった。自分達の働きが、自分達を認定した王侯諸侯、教会との関係に影響するからである。だから、評価を、不当に下げる屑のジャックを排除しなければならないのだ、理屈はちゃんとあっている。

「その依頼は受けられないよ。」 

 実は、暗殺ギルドに依頼する者もいたが、暗殺ギルドのメンバーはそう答えなければならないのだ。

 以前に実際、その依頼があり、受けたことがあった。それは失敗した。ジャックが、予想したより弱くなかったので、その依頼の実行は、それでも3人、確実にということで、そこそこの実力のある者達だった、失敗したのだ。ジャックは、何とか逃げ延びた、らしい。らしいというのは、

「這々の体で、何とか逃げ出した。」

と言っているが、暗殺者達が、

「話が違う!(強かった?)」

と言ったという話があることと受けた暗殺ギルドは、沈黙しているからである。問題は、その後だった。勇者達が、それを知ったからである。ジャックが、押さえ込まれて自白?する場面もあったが、とにかく、勇者マリア達は、暗殺ギルドが実行した、ある国の賢者が役立たずのくせに、それに見合わない高級を取っているジャックを排除すれば経費節約になる、殺してしまえば、勇者達は目が覚めるなどと提唱したことまで知ったのである。激怒した4人のマリア達は、この世界の暗殺ギルドの全て、賢者の一族、それを受け入れた国を消滅させると言い出した。

 ジャックの嘆願もあり、渋々、マリア達は、その賢者の追放、その国からの謝罪の受け入れ、暗殺ギルドがジャック暗殺を受けないという誓約でことを納めた。ただし、その依頼を受けた都市の暗殺ギルドは、ギルド長から三下に至るまで、全員、勇者達の制裁を受けた、よく死者が出なかった、とその幸運にジャックがそっと胸をなで下ろすくらいの。

「何で、お前なんかに勇者様達がこだわるんだよ。」

「あんた、勇者様達の何だと思ってるのよ!」

 投げかけられる言葉に、“俺が知るかよ!”と言いたかったのだが。

 1年目の終わりからずっと状況は、変わらないのだ、ジャックにとっては。死の危機と中傷の嵐の中、未だに4人の勇者マリア様達のそばにいるのは、彼女たちが離そうとしないのと、離れたくないなと思わせる美人であるということも理由だった。四年間の半ばは、勇者マリア様達の他は、ジャックだけと言う日々だった。

 まあ、新しいメンバーが入っても、忙しくなることはあっても、楽にはならなかったが。それは、今回も同じだった。

 とにかく、嫌がらせの言葉を聞いていることができないくらい忙しかった。

 慌ただしく出発しなければならなかったからだ。ことは急を要した、魔軍が迫ってきていた、何時来るかわからないからである。できるだけ準備に奔走し、気がつくと軍の集合地点に、ジャックは20万人の軍の中の一人になっていた。


 

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