第6話 大会戦前夜

「ジャック!聖剣や魔法石は大丈夫?」

「予備もそろえてある?」

「回復薬は、十分備えてある?」

「必要なものを持って、私達に続ける準備はできた?」

 4人のマリア達は、矢継ぎ早にジャックに命じた。

「あ、大丈夫です。みんな持ちました。ああそれから…。」

 彼は何やら、幾つかの小袋を手から勇者様達に、マリア様達に手渡した。

「何に、これ?」

「回復薬を個体にしたものです。液体では、瓶に入れたものでは、重いし、割れてしまうと、まさに覆水盆に返らずになってしまいますから。錠剤にすれば、多数を、そういうことなく持ち運べます。それに、濃縮してますから、1個が瓶1本分に当たります。甘酸っぱくしてますから、水なしに、かつ喉が渇いた状態でも、口に入れ、かみ砕いて、飲み込めます。」

 彼の説明に、4人の勇者マリアは、

「ほお~!」

と感心、満足等々の表情で彼を見つめた。

「コホン。」

 賢者のマリアが咳払いをした。マリア達というより、マリアの視線が集中するジャックを睨む女聖騎士と聖女の姿をチラッと見た、賢者のマリアは、他の3人のマリア達は目で頷いた。

 彼女達とジャックは、チームの幹部達と会食を連日続けていた。幹部といっても序列とかを決めているいるわけではないので、厳密には幹部などは存在しないが、実力的に上位に位置している者達が、何となく幹部のように了解ができていた。大きな戦いの前にして、意志統一のため、一人、二人を招いて会食をしていたのだ。正確には、会食しているのはマリア達と女聖騎士と聖女であり、ジャックは食事を作り、配膳係をしていたのである。

「勇者様方。ジャック殿を、この戦いに…危険ではないでしょうか?」

「そ、それは、彼の身を心配してのことで。」

“よく言ってくれた!”

「あなた方、勘違いしているわよ。」

「彼は、ね、私達の雑用係なのよ!」

「彼がいるから、私達が戦えるのよ!」

「私達が、彼を頼りにしているのよ。」

 そして、声をそろえて、

「彼は、私には必要なの!あなた方とは違うの。あなた方は、戦いで、陽動、先鋒、追撃、補助で助けてほしいのよ。彼の心配は私が、私達がしてるからいいの!」

「まあ、心配することがなさ過ぎるけどね。」

“え~!”とジャックは、悲鳴を上げた。二人の女は、不機嫌そうだったが、何も言わなかった。“お願いだから、何とか言ってくれよ!”

「ところで、今回の魔族軍の様子だが。」

 賢者のマリアが、難しそうな顔で、この連合軍の王侯貴族達から聞かされた情報を話して聞かした。

「ジャック。お前からは、情報があるか?」

「大したものは、集められませんでしたが…。」

 そう言って、話し始めた。

「バロア公国認定の勇者が、一太刀で倒されたと言うのは誤報で、彼の奮戦で、何とか公国軍を無事退却させ、深傷を負ったものの生還したというのが真実ですが。」

「が?」

 武装のマリアが、続きを促した。

「彼が対峙した上級魔族四番隊隊長八階層魔族…とか言ったとのことです。その四番隊の規模から見て、指揮官はその二つ上の十階層

、あるいは十一階層魔族かと。」

 それは、マリア達が、一度敗北し、死を覚悟した相手の階層だった。まだ、4人になる前のことであり、あの頃よりずっと強くなっている自覚はあるのだが。

「10匹以上相手にしたしね。」

 武器のマリアが言った。

「その他大勢もいたし…。」

 格闘のマリアは歯ぎしりしていた。

「1人で…本当に1人で戦ったかったしね。」

 聖女のマリアは、寂しそうなため息をついた。彼女らは、共に戦う仲間もなく、1人で孤独に戦っていた、当時は。

「だが、負けたことには変わりがないわよ。」

 賢者のマリアが、思案顔で言った。その時、

「ん?」

と格闘のマリアがジャックの顔を見た。それに気が付いて、3人のマリアも、ジャックに視線を集中させた。

 その視線の圧力に彼は、絞られるように言葉が出てきた。

「それが大体の見解なんですが…その当たった魔族、上級魔族の部隊は精鋭部隊ではないのでは、と思うんです。そう考えると、もうひとつ、二つ上の魔族が後ろに控えているのではないか…と…。」

“ふん。わかりきったことを。”

“浅知恵を…。”

 女騎士と聖女が、心の中であざ笑った。

「ところで、それは前衛ではないかと。真の勇者であるマリア様達が出てくると彼らもわかっているでしょうから、その上の魔族が、14、15、いや16階層の魔族…が出張って来ているかも。」

 彼の言葉に、

「何を根拠もないことを!」

「そうですよ!」

 しかし、二人は、それ以上は言えなかった。マリア達の厳しい視線が向けられているのに気がついたからだ。“だから、俺を解雇でも、追放でもして…。”とジャックは心の中では涙目だった。

「そのことも含めて、明日、偵察にいくからね、ジャック!準備万端よね?」

 賢者のマリア。確実ないままで以上に危ない。ジャックは、心の中で泣きながら、

「はい!」

と直立不動で叫ぶように言うと、すかさず、

「その任務、私に。」

「私も、同行させて下さい。」

と二人は立ち上がって懇願した。

“助かった。”と思うジャックだったが、

「ちょっと。」

「あなたらは。」

「自分の実力が。」

「分かった。私と同行してくれ、ジャックとともに。」

と最後に賢者のマリアが押し切った。

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