第34話 ジャックのスローライフ③

 何となくジャックには、分かった。“こちらにも、乗っ取り系の魔族がいたと言うわけか?”

「その我と似ても似つかぬ女達は、衛兵を蹴散らして我の前に立ったのだ。」

「女達?」

「ああ、3人いた。我は、二人を倒したが、1人から、その女は口から何か液を吹きかけてきて、それを浴びたとたん、衛兵達、そして臣下の者達は、我を襲い始めたのだ。」

“上位魔族というわけでもないのか…。彼女が倒せたということは…。”

「その魔族の女達の種族に心当たりは?」

「は…あれも魔族と言うつもりか?た、確かに…しかし、あのような種族聞いたことはない…と思う…多分?」

 ジャックは、考え込まざるを得なかった。しかし、

「わ、我はどうしたらよい?」

 時間、状況は切迫していた。“ここはまず、逃げよう。とはいえ、このまま逃げるのは、準備がなさ過ぎるし…。”

「魔王様。逃げましょう!とにかく、必要な物、武器とか言った物を…。3人でなら、何とか、そこまで行って…。」

 魔王は、彼の意図を察してうなずいた。ジャックは、後で逃げるという判断は誤っていたのでは?と後悔したが。

 とにかく、勝手知ったる魔王の案内で、何とか追っ手を蹴散らして、持てるだけの物をかっさらって、魔王城を脱出した、ジャック達が、数日後、ジャックが尻を丸出しにした魔王と勇者を抱えて走っていたのである。

 それは、魔王城を脱出して数日後、3人で野営している時だった。勇者ステュアートと魔王が彼の寝袋に入って来た。勇者ステュアートは、その前日、告白した、彼女の婚約者が、既に別の女と結婚して、子をなしていたということを。あの魔力を大量に使って、その後しばらくグッタリしていたのは、ふるさとに魔法通信していたからだ。婚約者に接触したら途端に拒否され、両親とつながって、事情が分かった。そのやり取りを説明しながら、彼女は涙を流していた。

「彼とのことはもう…伝えようと思ったんだけど、…。もう、私は…やっぱり…。」

 魔王の方はというと、ようやくその頃になって気持が落ち着いてきたところだった。

 そして、その日の夜だった。左右に違和感を感じて目が覚めたジャックは、両耳に息が吹きかけられ、

「ジャック~。私は…。」

という声を左右の耳から聞いた。

「何よ!この淫乱女!」

という叫びも。

「お、お前は、婚約者に捨てられて、ジャックに乗り換えるつもりなのだろうが。彼は、お前の道具ではないぞ!」

「な、なにを…。その言葉、そのまま返してあげるわよ。婚約者も、愛人もいたんでしょ?知らないとでも思っているの?頼りが、ジャックだけだからって!」

「う~、その言葉こそ、お前に返してやるわ!」

 もう下半身丸出しの美人2人が睨みあう中に、挟まれた形のジャックは、

「え~と…。」

 ジャックは、判断ができなかったし、彼の手を自分の胸の所に持ってきて、体を密着されて、判断力が急速に落ちていった。

「あ、囲まれているわ。」

「か、かなりの数。」

 元魔王様と元勇者様は、ほとんど同時に叫んだ。追っ手だった、魔族の兵、元彼女の臣下達。

 すぐ立ち上がったジャックの目に、

「と、途中だ…から…。」

「こ、腰が…、た、立てない…。」

と2人の姿が。そして、すべてを手早くまとめ、2人を脇に抱えてかけ出した。

 彼女達に魔法攻撃をさせて逃げた。前に回っていた、別働隊がいると向きを変えて、攻撃をそつらに向けた。

「もう、いやー!」

と叫ぶ2人の抗議は無視した。

 何とか逃れて、彼女達を降ろし、へたり込んだ彼に、

「今度は結界を三重に張ったから…。」

「警戒網もトラップもいくつも置いたから…。」

「あんなに、尻を晒されて…もう我慢できないー!」

て最後にハーモニーした2人に、ジャパンは抵抗することはできなかった。

 両側でしっかり彼の腕にしがみついて離れない褐色の肌の美人2人の寝息を聞きながら、ため息をついて、お姉ちゃん達4人の他のことに思いをはせて悩むジャックだった。

 それから2年弱後、この2人と小さな領地で、スローライフをしていたのだが。

「おーい、ジャック~。お昼にしましょう。」

 使用人共々、稗やら雑穀の収穫作業に追われているジャックに、ステュアートが声をかけた。

「わかったよ。ヒュームは?」

「野菜や果物の収穫も終わったとこれよ~。今来たところ。」

 ヒュームが駆け寄ってきた。それを見て、ステュアートも駆け寄ってくる。

 簡単な雑穀のパンにチーズ、ハムなどが添えられ、鍋から皿にスープが入れられて配られた。

「今回も豊作というところかな?」

「ご領主様のおかげですよ。」

 ステュアートとヒュームの厳しくもあり、期待の視線を感じて、

「奥様にも。」

とまで言って、“奥様?どっちのこと?”という視線を更には感じて、慌てて、

「奥様方にも、助けていただいたからですよ。」

 2人は、“まあ、いいでしょう。”という表情になっていたので、使用人達もホッして、談笑を始めた。

「ご領主様!」

 声をあげて駆けてきた男がいた。彼の会計役だった。

「ここにおられると思いましたので…、食事中に申し訳ありませんが、ご報告したい件がありまして…。」

「わざわざここまでくる必要はなかったのに。それとも、一大事でもあったか?」

「いえ、館に戻る途中でしたから。先日の魔獣関係での売却と作物などの売却交渉が上手くまとまりましたので、よい報告をすぐにと思いましたので。」

「そうか、ご苦労。だが、悪いことも速く報告してくれよ。」

「食事をしながらで報告しなさいな。」

「じゃあ…ほら、スープよ。」

 ジャックより先に、会計役に食事の席につくように、ヒュームとステュアートが促した。

「ありがとうございます、奥様方。」

 彼は、こちらの方もそつがなかった。

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