第33話 ジャックのスローライフ?②

 キョトンとする女勇者ステュアートに、ジャックは説明を始めた。

「みんなも、これからの自分の未来があったから必死だったんです。何とか、新しい勇者様に取り入ろうと、ね。私には事情がいまいち分かりませんが、ステュアート様の存在は少しであっても許されない、その仲間であったこともそれに近いものだったのでは?だからこそ、あの聖剣などを献上することが必要であり、あなたと決別した事実が欲しかったのではないかと思いました。さて、私はというと、彼らからは嫌われていますし、ステュアート様に助けていただいた身です、1番あなたの色が強い。あなたについていった方がずっとずっと良かった。頼みのあなたが自暴自棄になって破滅しては困るから励まし、助力したのです。私たちは、そういった打算で動いていたのです。」

 彼は、そう言いながら、小さなため息をついた。

「みんなは、もしかして、私を逃がすために、敢えて…?」

 本当に、いつも溌剌としていた彼女からは考えられない、蚊の鳴くような声だった。ジャックは、しかし、首を振った。

「それはないでしょう。一目散に逃げねば危ないかもしれない、それを導く役がいませんでしたから。いたら、ここに私はいなかったでしょうね。」

「みんなは…どうなったと思う?」

「皆、有能ですから、一応迎え入れられたでしょうね、冷遇されても、矢面にされているかもしれませんが。彼らは、選択したのですから、ある意味自業自得です。」

“それでも、助けに行く、とか言うかな?そう言ったはどうしようか?”ジャックは、この後のことをどうするか迷っていた。

「私を捨てないよね?」

「?」

 彼女は、彼の予想外のことを口にした。とにかく、

「そんなことは、ありませんよ。ステュアート様が望むなら、何時まで、何処までも、ご一緒します。」

「良かった…。」

「は?」

 彼女は、もう彼らのコトを忘れることは、重荷を降ろすことと同じことに思えていたのだ。

「ジャック君…ジャック…私のことこともステュアートと呼んで…私は…。」

「ステュアートさ…、何?」

 彼女の顔を見て、ギクッと心臓が痛くなるほどの色気を感じてしまった。“これ以上は、耐えられない…かも。”

 彼は、積極的に動くことは何とか耐えた。彼女も、今一歩を躊躇するものが、心の中にあった。それ日から、しばらくあやふやな思いをステュアートは抱き、それを耐えるジャックの生活が続くことになったが、それはさほど長いことではなかった。

「魔王様?どうしたのですか?」

 怯えたように取り乱している、褐色の肌と金髪の女魔王の姿に、ジャックもステュアートも驚いた。

「お前には分かるのだな、我が分かるのだな、我が。」

 すがりつくような女魔王の姿に途惑うジャックだった。それは、ジャックが、このユート大陸に来てから四カ月が過ぎたり頃だった。

 何故、彼が魔王にすがりつかれる場所に、いるのかと言うと、ステュアートとの二人のパーティーの生活が落ち着いてきてから、しばらくしてからのことだった。

 魔族の軍が進撃してきたということで、二人が安宿にいた町から1日行程のところで、兵の募集があった。それに二人は応募したのである。勇者が来ないらしいことも理由だった。髪型も色も変えて、全体の雰囲気も変えているから分からないだろうが、勇者には遭遇しない方がいい。

 そして、ステュアートの大活躍で、彼女に言わせるとジャックあってこそだと、他の心強い戦友になった男女達も頷き、ジャックは“?”、魔族の軍の先陣を、数も十分でない、烏合の衆で、困った名将の才があると信じている市の幹部の困った作戦でありながら、撃退できた。その後、魔王からの使者が来た。色々とあったが、交渉にステュアートとジャックが送られ、そして、魔族側に囲まれた。市の側は、二人を差し出して寛大な条件での降伏を申し込んでいたのだ。

 しかし、それを受け入れた魔王は、二人を殺すつもりはなかったから、まあまあの待遇で捕虜となっていたのである。

「市の奴らに復讐したいと思わないのか?」

「う~ん。彼ら気持は、分からないでもないし、そんなことして困るのは、魔王様では?」

「?」

「だって、魔王様は人間の都市から、物資を提供させて、他の魔王との戦いに利用したいのでしょう?そのためのものを、私達のために失うのはもったいなくはないですか?」

「正にその通りだ。お前のようなことを言う奴ははじめてじゃ!面白い奴じゃ!」

 彼女は、満足そうに大笑いした。

 そんな訳で、客分扱いで女魔王様、ヒュームの魔王宮に滞在することになった。

 料理を提供して喜ばれることから政治の議論まで女魔王と、体がなまらないように、勇者との手合わせ、今後の話をする毎日がしばらく続いた。そして、勇者が大量の魔力を使って、両親に連絡をとった後、疲労でぐったりして、かつひどく落ち込んだ、次の日だった、女魔王ヒュームが助けを求めて、二人のいる離れに駆け込んできたのは。

「分かるのだな?お前は、私がわかるのだな?」

 女魔王ヒュームは、泣き顔で、ジャックに、とりすがった。

「ええ、美人でスタイルバツグンの聡明な女魔王ヒューム様だということは…いたー!」

 頬を思いっきり抓られたのだ、後ろから、勇者ステュアートに。“なんで?”“な、なにニヤけているのよ!”ヒュームの方はというと、そんなことはまったく気がつかず、彼の胸に頬を擦りよせていた。

「皆、我とは似ても似つかね女を、我だと思っておるのだ!」

「はあ?」

「あ!」

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