第35話 ジャックのスローライフ④
ジャック達が、小さな領地を与えられ、その領主として、領地経営を始めてから1年半以上が過ぎていた。
「全く、こんな小さい…。」
「しかも、荒れ地ばかりの…。」
と2人が、スティアートとヒュームが、呟き、そして、ハーモニーして、
「あのケチ王女!」
と罵ったような所だった。
「いや、それほど酷くはないよ…多分…。」
と2人をジャックはなだめなければならなかった。
それが何とか、豊かな…まあ、一応…平均的、中の上、上の下?くらいの領地となり、領民の生活は安定するまでになった。
この土地の領主は、ジャックのことだが、軍役の義務を免除されていたため、その分の年貢が減額された形になった分、領民は楽になった。
それから、水車、水路、風車、揚水機、道路などのインフラの建設、整備への投資を、かなりの資金、この小さな領地には何とか十分な資金を彼らは持っていた、を行った。しかも、ジャックはもっとも優れたり、適したものを選び、製作の助言、指導、人選をおこなうことができた。どれが適しているか、どういう者なら作れるか前世の知識、この世界での知識からわかっていたからだったし、その人間を探した成果でもある。
土地に適した農法もそうだった。この地で、社会背景で、まだ中世末期の水準で、やや湿潤な気候、そこに例えば、ノーフォーク農法を導入したとしても、成功するはずがない。この地の農法をよく検討して、新しく展開されている、あるいは成功している実例を調べ、彼の前世からもつ知識を加えた農法を実施させた。
さらに、魔獣を彼と2人妻が狩り、その肉、素材の売却益を更に領地に投資し、魔獣の被害も減った。ついでに、盗賊団等も鎮圧し、治安は改善してしまった。
「こんなところに、のこのことと、袋のねずみだ!」
とせせ笑いながら、両脇の女達の肩を抱く首領と幹部、護衛達を前に、彼らの最強の魔道士の頭に、峰打ちで剣を叩きつけて、気絶させたジャックは、心細そうな声で、
「降伏した方がいいのは、そちらだと思うけど。どうだい、降伏してくれないかな?悪いことは言わないから。」
彼らが、ジャックの言った意味を理解できるまで、しばらく時間が経過した。返り血を大量に浴びた女2人が、彼の脇に競争するように駆け寄って、
「もういつの間に、ここまで…。」
「流石よね…、一気に駆けぬけて。」
彼女らの後ろに誰もいないのに気がついて、彼らは唖然とした。
「主様は、休んでいてね。」
「そう、ここは私達で。」
「本当のボスは、まだ隠れてるから、速く戻って、助けに来てくれよ。」
「?。分かったわ。」
「?、とにかく行くわよ!」
2人が、必死の形相で構える十数人に向かって突進していった。瞬く間に、次々になぎ倒して、後少しのところで、後ろから、
「真のボスは、この私だ!」
との高笑いが入る女の声と、
「こちらには構うな!先にすませてからでいい!」
とのジャックの声。2人には、ジャックの指示は絶対的だった、というより絶対的に信頼していたから、それに従った。最後の仮?のボスに止めをさして、振り返った時、
「ギャー!」
との叫びをあげ、片手を切り落とされ、血を吹き出してもいる巨漢の女の姿があった。
「く、クソ。私の体を…身体強化もしているのに…。魔法耐性なのに…何故だ?」
苦しくなっていたが、膝をつき、喉から何とか言葉を絞り出すように、巨漢のその女ボスは言った。それでも立ち上がり、彼に襲いかかろうとした。軽く避けたジャックは、
「魔法耐性と言うのは、あまりにも魔法が大きすぎると関係ないんだ。それにね、身体強化もそうだけど、隙ができるんだよ。だからここは降参して…。」
「嫌だ。」
彼女は、まだ、戦うつもりだった。
「もう、終わりよ。単なるでか物さん。」
「むさ苦しい。早く死んでくれぬか?」
乳房ごと穴を開けられて、噴き出す血の中で、悪態をそれでもつきながら、その女は死んでいった。
「終わったね。」
ジャックが、ホッとしたように言うと、2人は彼の所に駆け寄ってきた。完全に終わったと言うわけではないが、ジャック達によって、その地の盗賊団が潰滅させられると、新しい縄張り獲得を目論み、名をあげようとやってくる大勢力というパターンはなくなった。その後、治安は、この上もなく改善された。
それまでの数ヶ月間で準備していたことが、一斉に開花し、その後1年間以上にもわたり、穏やかな日々が続いた。
「独占したいとは思わないわ。でも、離さないでね。」
「姉様達、妹様達の下でもいいの、捨てないでね。」
とグッタリして、満足そうな表情ながらも、そう言ってくる二人に、
「もちろんだよ。」
と言わざるを得ないジャックがいた。マリア達からの声が次第にはっきり感じとれるようになってきたからである。
“お姉さま達も、妹達も、聖女様、剣聖様その他、全員、ここで一緒に…。”などと思ったりした。
「こんな湯屋など見たことがないわ!」
「私は、湯屋は知らないが、お前は知っているのか?」
「な、し、知って…ああ、わかったわよ、正直に言うわよ。私の故郷にはなかったし、湯は王宮とか貴族の館でつかっただけ、湯屋には行く機会がなかった…、悪い?」
「誰も悪いとは言わないし、笑わないわよ。そういうなら、魔族の世界はもっと田舎だったからね。」
領地に、領主として公共の湯屋を作ったのは、全てが順調に動き出した時だった。ジャックは、前世の知識でこだわりぬいて作らせた、装飾は最小限にして。
明日から、解放前に、領主の、スポンサーの特権とばかりに、二人はジャックを引っ張って、湯屋の中を巡って、はしゃいで声をあげていた。
「まあ、ここはこのくらいにして、屋敷の風呂を見ようじゃないか?」
彼らの屋敷の風呂も完成し、今日から使うことになっていた。
「改めて見ると、本当にすごいわね。」
「そうね。小さな中に全てが凝縮してるというか…。」
“はあ~。”体を洗って浴槽に入ったジャックは、いかにも気持ちよいという顔をして、ぐったりと体をのばして湯に浸かっていた。
“やっぱり、お風呂は体を洗って、温めるだけじゃないんだよな。こうして湯の中で…。”そのジャックのところに、
「?」
という顔で、二人が泳ぐようにやってきて、両脇に体を寄せてきた。
「私達も、このようにした方がいい?」
「これが気持ち良いの?もうすこし…。」
のぼせてしまう前に、ジャックは二人の肩を抱いて、湯から出た。二人の女達が、その良さがわかり、はまるだろうことを感じたのは、三人で冷えたビールを飲んだ後だった。
湯屋も好評で、全てが順調に、さらにどう進めるか楽しんで考えていた矢先、その少し前に、
「こんなに上手くもいくなんて…こんなに…僅か一年少しで…。あなたを、王領の代官にスカウトさせたくなったわ、フフフ…。」
と抜き打ちの訪問、僅かばかりの側近を連れて、をした時、笑って言っていた相手が、数ヶ月後、彼に泣いてすがりついてきたのである。
「ベーコン王女殿下。どうなさったのですか?」
褐色の肌の銀髪の、やや長身の、すらっとしているが、決して平坦ではなく、けっこう上下は大きく、間はくびれた、一見冷たそうな程の気品を持った美人である。彼女は、流浪の旅をしていたジャック達を拾い、この領地を与えた、名誉聖騎士の称号と多額の報奨金も与えて。それには、もちろん理由がある、彼らがそれだけの、いやそれ以上の手柄を彼女、彼女の国に対してたてからである。当然な、当然すぎる、いや少なすぎる(二名他多数意見)報酬、領地、身分だった。
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