第8話 大会戦前夜 ③
「足でまといなのよ!」
女騎士がジャックを詰った。マリア達は、一人づつ偵察を行った。4人一緒では、目立つし、何かあった場合、あるいは、それを知られて大攻勢をかけられたら大変だったからである。
ジャックは、襲い掛かってきた魔族の剣受け止めていた。“あんたが危なかったから、守ってやったのに…。”と彼は不満だったが、聖女のマリアのところに駆け寄る彼女の背に、悪態をぶつけることはしなかった。彼女は、聖女が、マリアの隣に並びたとうとしているのを見たからだった。その彼女の背を守るように、魔族の兵士達と対峙していた。“4人?長くもたないよう~!”
防戦一方に、たちまち追いつめられた。相手は、魔法も使えるし、剣や鉾の腕もよかった。なんにしても、下級兵士とは言っても、上級魔族なのだ。次々打ちかける剣、鉾、魔法攻撃を受け止め、受け流し、避けて、自分の身の安全と退路を確保し、これ以上進ませないということで精一杯だった。それが、さらに二人加わった。“もう、だめだよ~!”泣き出したかった、泣き出しはしなかったのが。何とか、次々に繰り出される攻撃を必死になって防いだが、もう危ないと何度も、最後を覚悟しながらも、自分でも幸運だった思うほど、ぎりぎりで、それを避けた、どうして避けられたのか、分からなかった。
「私のジャックに何をしてるのー!」
聖女のマリアが、駆けつけてくれた、彼が力尽きる寸前に。
怒りの形相で、どうやってか、攻撃魔法でとは思えたが、魔族達を瞬殺してしまった。その威力に、今さらながら呆然として、へたり込んだ、ジャックに涙を流しながら聖女のマリアは、
「だ、大丈夫…。」
「え?」
最後の言葉に驚き、聞き直そうとした時、彼女の背後で魔族に負い詰められている二人の姿が目に入った。
「勇者様!二人が危ない!」
と思わず口に出すジャックに、“本当に…。”と思わず頬が緩んだが、“あの馬鹿女達が!”と、
「ちぃっ!」
と舌打ちしたマリアは、直ぐに女達の元に駆けつけた。この舌打ちを、何時もなら自分の不甲斐なさにしていると思うジャックだが、この時は違った。それは、どこに隠れていたのか、魔族の女騎士が、
「死ね!」
と、そうは叫ばなかったが、そう思える形相で斬り込んできたのだ。
慌てて、魔法を剣に纏わせ、
「小進金!」
と自分も真っ向から斬り込んだ。魔剣、相手の剣は魔剣だった、と魔法を纏ったまだ無名の名工、多分、絶対にと彼は信じている、の剣が激突し、火花が散った。
「間に合って!」
二人を助けたマリアが、彼の危機を素早くみつけて、礼を言おうとする二人を払いのけて、駆けつけてきた。が、間に合わなかった。彼女が、彼を助ける一瞬前に、彼の剣が、魔族の女騎士の剣を折って、彼女の体を切り裂いていたのだ。
「す、凄いよ~、やっぱりジャック君は、凄いよ~!」
と力いっぱい、マリアは彼を抱きしめた。その加減をつけない力に苦しみながら、
「あいつは、勇者様の魔法の余波で傷ついていたので…。」
そんなことは聞くことなく、彼が気を失う直前まで、彼女は抱く力を緩めなかった。
「それで、ずっと抱き合っていたわけ?」
格闘のマリアは、いかにも不機嫌そうに、ジャックに詰問したのは、その後で、彼女と共に偵察に出た時だった。
「いえ、別に聖女のマリア様は、別に意味あって…。」
“あれ何で弁解しているんだ、俺は?”と不機嫌な格闘のマリアの顔を見ながら慌てた。
「それなら、私も意味もなく、こうしてやる!」
顔を彼の体に押しつけると、鼻をクンクンとさせて、彼の体の臭いを嗅ぎ始めた。
「何を…。」
しかし、ジャックにはどうすることもできなかった、なすがままにされていた。彼女に、がっしりと抱きしめられていたからだった。
その後、武装のマリアと賢者のマリアに、
「こうしてあげる!」
「すりすりしてあげる!」
と左右から体を擦りつけられた。
気持の良さに、鼻が伸びるジャックだったが、それでも、如何してマリア達がこんなことを争ってやるのか理解が出来なかった。あまりに異なる存在である彼女らの行動を、自分に都合のよい判断を下すことが彼には出来なくなっていた。それより、何とか生き延びたという気持ちと安堵感でいっぱいだった。
「それなら、マリア様達が魔族を倒せたのは、君たちのおかげだと言うわけかい?」
ディドロが割って入ると、
「う!」
「そ、それは…。」
ジャックを取り囲んでいた男女は、言葉が詰まった。それまで、
「魔族を倒したって?みんな勇者様達に倒してもらっただけだろう?」
「いい気にならないでよ。」
「他人の手柄を自分の…、このハイエナ野郎。恥ずかしくないの?」
「如何して、あんたみたいのを傍に置いているのか、分からんよ。」
などと詰っていたのだ。
「ま、曲がりなりにも、魔族の一人でも殺しなさいな。ジャック、みんな来ているわ。」
モンテスキューが、後ろの数人を目で示した。
「マリア様達も、昔の仲間たちとの再開を、楽しみにお待ちしていますよ。」
“助かった~。”と思いながら、彼らをマリア達の元に案内するジャックだった。
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