勇者チームから追放されたいのに…
確門潜竜
第1話 追放?
「お前のような無能な奴は、勇者チームに不要なんだよ!」
これは、筋骨隆々、顔は、まあなかなかの男前の金髪の騎士。
「足手まといなんだよね。自分でも分かっているだろう~?」
こっちは、やはり金髪のスマート、長身、超イケメンの魔道士。
「いい加減、迷惑なのよね。」
こちらは、やはり金髪の容姿端麗な美人の回復術士のお姉様。
冒険者ギルド事務所の一室で、彼ら3人を中心にテーブルの席に陣どった数人は、厳しい表情でジャックを睨みつけていた。その前に立たされた黒髪で、やや長身で、どちらかというと、優しいが、地味な顔立ちのジャックは、
「まあ、言われた通りですね。僕なんか、勇者様のチームには相応しくないですね。まあ、それは自分でも分かっています。」
と呆気なく、認めてしまったので、かえって彼を追放しようとしていた側が慌てたくらいだった。それでも、同情はすべきでないと頷きあって、
「分かっているなら話は早い。とっとと、荷物もみんな置いて、出ていけ!」
と剣士が恫喝するように言った。皆、彼に同意するといった顔だった。が、ジャックは、
「一応、勇者チーム雑用係ですから、勇者様達から追放、解雇を言われない限り出ていきませんよ。」
と平然と返した。真っ赤になった剣士が、
「勇者様達の意思なんだよ!」
これにも、皆が頷いた。が、それでも、
「なら、勇者様達が僕に直接言ってくれるでしょう?お話しがこれだけなら、行きますから。勇者様達に頼まれた仕事がありますから、解雇、追放されるなら、キチンと済ませておきたいですから。」
と言って背を向けて、部屋を足早にでたと思われた瞬間、彼は立ち止まり、
「あなた方から、追放だと言われたことは、勇者様達には言いませんから。」
と言うと、また歩み始めて、ドアを閉めて出ていった。“ああ、勇者様達から、こう言われたらな…。これを理由に出ていったら、あいつらが殺されかねないからなあ…いや、今回は、大丈夫か…でも、念のため…。”後ろからの怒号を無視しながら、彼は足早に勇者達が戻ってくるまでに、しなければならない仕事をしに急いだ。実際、同じようなことがあり、そのまま出ていってしまったら、4人が後を追ってきて、
「何早合点しているのよ、このお馬鹿!」
「私達が、追放するはずはないでしょう?唐変木!」
「あいつらが、無断で勝手な、ことをしただけよ!ど阿呆!」
「あなたは、私達の仲間なんだから。分からず屋!」
と半べそをかかんがばかりに、彼を引き戻したのである、首根っこを掴かんで。その後、彼以外のメンバーは、半殺しの制裁を受けて、ジャックが止めなければ、きっと殺されていた、逆にチームを追放された。追放されて幸運だったろう、そのままいたら、多分死んでいたろうから。それでも、二人は…。
今回、彼を“追放した”のは、一ヶ月前に入ったばかりのメンバーだった。それまでの数ヶ月は、勇者達4人と彼だけの5人のチームだった。数ヶ月前に、彼以外のメンバーは、勇者達4人を除いてだが、全滅したからである。今回の新入りは、かなりの実力者ばかりで、彼女らがいなければ勇者、そこまではいかなくても、剣聖、賢者、聖女と名乗れるくらいの人材で、こんどばかりは大丈夫だろうと思っていたし、彼らがいたほうが自分の安全を確保できる、勇者達も流石に、彼らがいるのだから、自分を解雇するだろうと期待はしていた。
彼らも、
「勇者様達も、奴のことを守ってやらないと駄目なのよね、と嘆いていたからな。」
「危なっかしいと、さじを投げていたよ。」
「何時までもこれじゃね~、ともう諦めていたわ。」
だから、奴は勇者様達から嫌われている、解雇の対象になっていると、彼らは本心から考えていた。
「そもそも、勇者様達のチームにいさえすれば、周囲からちやほやされる、女から持てるからという奴だもんね!」
一番若い女の弓手の言葉に、皆が笑った。
しかし、勇者達は、帰ってきて、
「どういうこと?もう一度言ってごらんなさい。」
ジャックを除いて震え上がった。
「まあまあ、落ち着いて…。あなた方、勘違いしないように、あなた方は戦士で、彼は私達の雑用係なのよ。」
やはり、震えが走った。
「ジャックは、よく雑用係をやってくれているし、戦いの時にも頑張っているんだから。」
これには、ジャックが震えた、皆の憎しみの視線が注がれたからだ。
「そもそもだ、戦士なら、まずジャック並に戦かってちょうだいね。」
さらに、ジャックが震え上がった。皆の憎しみの視線が強くなったからだ。“痛いよ~!”
彼は、誰にも気がつかれないように、大きな、大きなため息をついた。とにかく、追放も、解雇もないことは分かった。“次の仕事…生きて帰れるだろうか?”
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