第20話 この後のこと…不安も
「こんな時に口に出す話ではないのだが。」
カント王子が、半ば夢見るようでもあり、半分憂いを帯びて、更に半分思案するように、半分助けを、助言を求めるような、表情、目をして、ヘーゲル王女らとともに、塔の上から陣営を見下ろしていた時、口にだした。
「?」
と思ったものの、
「そ、それこそ、王子様方の役割でしょう?この軍の目的、人間、亜人、魔族が共存し、平和に、助け合う国、社会を作ることですよ。」
そして、各勢力の代表者からなる。議会でそういう国家というか連合体を作ることになるだろう、と言いながら、さらっと、自分が考える国家連合的帝国の構想を述べた。それは、前にもジャックは、カント王子達に語っている。彼らは、感心するように聴き入っていた。が、
「君は、どうするつもりなんだ、この戦いが勝利で終わった後…、そのことを聞きたかったのだが…。」
彼は、一旦言葉を切ってから、
「できれば、その国づくりにも、君の力を借りたいと思っているのだが…。そ、そのために、相応しい地位に…。」
「そ、そうですわ。ジャック殿があっての、この理想ですから!」
「勇者様も、魔王方も、そう思っているはずだよ。」
「勇者様も魔王方も、あなたを頼りにしているわ!」
彼らは口々に言った。彼らの目は、真剣だった。嬉しかったし、舞い上がった、気持ちは。しかし、
「私のような卑しい身分の者は、殿下方のお手伝いをした後は、田舎で小さな領主となって、静かに暮らすのがよいと思っています。私のような者が、高貴な地位については、反発を招き、新たな国、社会に分断と混乱を招くことになるでしょうから。」
と静かに、頭を下げた。
「そ、そんなこと…。」
「誰もそんなことなぞ…。」
彼らは、口々にに彼の翻意を促して、よく考えてくれと言って、その後は、戦いについて語り合って別れた。その直後、自分の背中に冷たい、刺し貫かれるような感じがした。
「俺は、成り上がり者…。」
と不安と恐怖を感じたが、それは次の思いに圧倒された。
「勇者様への…お姉ちゃん達が…。妹達は、別の意味で…。」
マリア達は、破格の力を持っている。それは、王侯貴族、政府、社会、国家、秩序にとって、脅威であり、不安定要因である。妹達も、人間にとっては、戦いが終わった後は、勇者達以上の脅威であり、危険な存在であり、憎しみの対象である。しかも、魔族内部の問題もある。人間達に屈した、裏切り者と見られるかもしれない。
「お姉ちゃん達も、妹達も今度こそ、僕が守るんだ。」
そう決意した後に、
「俺への反発、反感があるだろうな。お姉ちゃん達、妹達さえ無事なら…いやいや、死にたくなんかない!俺も、対策をたてておかないと。」
とついでにのように思いついたのだった。
だが、今はそれどころではない。目の前の戦い、大きな戦いで勝利を得るために、勇者達、マリア達を、女魔王達を助けなければならないのである。
「それに、あの対策もしておかないと。」
ジャックは、とりあえずその日は、よく食べ、体を、洗い、早くぐっすり寝ることにし、実際、その通り実施した。そして、翌日早く起きると、早速精力的に動き出した。前日感じた不安を、気ほどにも感じさせない顔で。
「この大弓、凄いよ!エルフも加わって、争奪戦だよ。さすがだよ、ジャック!」
「いや、僕はこれを作っている人を見つけただけで…。」
大弓は、日本の大弓の最終形態の物だし、石弓もルネッサンス期の物だ。この世界の従来のものより、かなり性能がいい。ジャックが、こういう物を作れないかと打診し、作れる職人を捜しあて、大量生産を各方面に要請した結果である。それだけではない。輸送用の大八車に至まで、ジャックの提案から始まって、彼の尽力で生産され、使われるようになったのである。
「さすがジャック君よね。私なんか、鉄砲とか大砲とか、頭に思いつくだけだもんね。」
「僕達、自分じゃ造れないものばかりをね。」
「私達だけでは、ありませんよ。この世界では、造れないものばかりですよ。」
「この世界が作れるものの知識を持っていた、と言うより勉強してたのよ。どう作るか、どのようなことをしたらいいかも。すごいよ、彼は。」
「本当に。」
「そうだよね。」
「なにを言ってるのよ。私達のジャック君だもん。」
マリア達は、喜んでくれた。
そのジャック、
「何とか、迫撃砲の代わりになるかな?」
と心配しながら、石、鉄玉、可燃物を打ち上げるスプリング内蔵の筒が前線に運ばれて行くのを眺めていた。
人間・亜人・魔族連合軍は、堀、土塁、柵、塹壕、櫓、移動式櫓を、対峙する魔族軍に対して、構築していた。強固な陣地を作り、相手の攻撃を撃退しながら、陣地からの攻撃、出撃・撤退を、繰り返し、陣地を拡張させて、前進するのだ。魔王軍は、これぼどの陣地を構築はしなかったが、大楯等を幾重にも並べたり、防御結界を張り巡らせたりして、対峙している。その敵には、日露戦争や第一次大戦での陣地線でのように、迫撃砲が有用である。が、この世界では、まだ、黒色火薬ですら実用化できていない。だから、錬金術師を動員して、焼夷弾の代用になる可燃材などを作り出し、迫撃砲に似た筒型兵器を作ったのである。
魔族軍側は、あっという間に構築された陣地に唖然とし、
「土魔法を得意とした勇者が現れたのか!」
と叫んでいた。
全ては、事前に材料を揃える、組み立てるようにし、堀、塹壕も効率的に掘り進められるように準備しておいた成果である。これも、ジャックの提唱と尽力の結果だった。
そして、陣地戦を展開しながら、勇者マリア達を中心とする1隊が、いたるところを襲撃し、損害を与え、混乱させ、陽動を行う。最終的には、総攻撃となるが、マリア達による本陣進行の強行も想定している、彼らが勇者の行動を陽動と油断した時に、一気に。
いつの間にか、彼が勢いの中で構想した戦略どおりに、全てが進むように始まった。
しかし、彼は、
「うわ~。死ぬよ~。死ぬのは嫌
だよー!逃げたい!」
と心の中で、絶叫し続けていた。
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