第25話 追っ手が来ました。

「え~、ショクって、竜神騎士族の国だったんですか?」

 ハイエルフの名弓射手ロックが、素っ頓狂な声を上げた。

「ちょっと、あんた竜神騎士族って知っているの?」

 剣聖のハイデッガーが、表情を歪めて尋ねた。

「え、え…と、あんたは知っているの?」

「そんなの知らないわよ!」

 平然と答えるハイデッガーに、ロックはぐうの音も出なかった。

「竜神騎士族とは、何者ですか、ジャック様?」

 睨み合う2人を見て、ため息をついてから、賢者のカフカが質問した。

「私も詳しいことは、さほど分からないのですが…。ヤスパース殿や真魔王の一人から聞いたこととそれを元に自分なりに調べただけで…ヤスパース殿も本当の機密部分には断片的にしか情報を掴んでいませんでしたし、真魔王の場合は、死ぬ間際の話でした。調べたといってもたいしたことはできませんでした…。」

と前置きをしてから説明を始めた。ロック達を雇ったのは、ショク王国だった。

「かなりジャック様を恨んでいたわ。自分の国の王様の活躍を、ジャック様が自分のものにしたって…。言いがかりだよね、ひどい。」

と話したことに、

「やっぱりショクだったか…。竜神騎士族の…。」

とジャックが、渡された衣服を着ながら呟いたことが、きっかけだった。

 竜神騎士族、実は上位魔族の一つだった。ドラゴンを操るあるいはドラゴンに操られる特殊ではあるが、略奪種族系上位魔族の一部族だった、元々は。それが、乗っ取り型の特徴を併せ持つようになり、かつ、種族の別なく他の上位魔族、魔族を、さらには人間、亜人にまで乗っ取りの対象を広げるようになった。しかも、ショウペンハウエルの、王族が単独で乗り込む型の単純でリスクの高いものではなく、多種多様で、じっくり時間をかけ、じりじりと乗っ取る戦略ももつようになった。そのような部族が竜神騎士族に生まれ、種族ごと乗っ取り、その乗っ取りを拡げていったのである。上位魔族の統合も、彼らの拡大戦略の一環で、それは、まるであたかも宿主を操る寄生虫の行動、戦略のようなものもあった。ヤスパース達がある程度、感づいた時にはどうしようもなくなっていたのだ。勝利した人間・亜人・魔族の連合軍ではあったが、既に彼らの中にシヨク帝国は浸透していた、と言うより彼らは、まず人間、エルフで乗っ取りを拡げていた。その中心がショク帝国をだった。

「早晩、彼は略奪系種族の側面を露わにして、我々を征服するための侵攻作戦にでるでしょう。ライバルと言える存在もなくなったわけですから。脅威は、勇者マリア様達だけでしょう。しかし、策略を持って、諸国、王侯貴族、教会等を操って、勇者様達の暗殺を謀るでしょう。」

“阻止しなければならない!” とはいえ、証拠がない。あるのは、ヤスパースの話しやジャックが真魔王の一人から聞いた話と彼が調べた資料けなのだ。だから、勇者マリア達、キェルケゴール達魔族、カント王子達王侯貴族、ディドロやモンテスキューなどの知名人達に、秘かに情報を伝え、対策を伝えていたのである。

「さ、さすがジャック様!凄いわ!」

「だから、ジャック様を殺そうとするわけだわ。」

「そうかしら…もし、ジャック様が知っていたと分かっていたら、ちょっと計画がザルじゃないかしら?」

「そうよね…、あの程度の奴らに任せるんだから…別にあんたが馬鹿とか言ってないわよ。」

「そうか。そのことはわからず…なら…その分、有利だということか?」

“これなら、お姉ちゃん達や妹達達は大丈夫そうだ?”とジャックが思った時には、

「危ないわよ。ドラゴンが来たわ!」

 後方の窓で後ろを見張っていた聖女のサルトルが叫んだ。

「上に3匹、下にも3匹…大きくないけど、6匹…なんて。あ、上のが追い越して…。」

 その直後、

「前にドラゴンが!」

「止まるぞ!みんな、出ろ!」

と前から叫び声が上がった。急停車して、一斉に飛び出ると、翼を持ったドラゴンが止まっている馬車を横倒しにしてしまった。後ろからは、陸生ドラゴンが迫ってきていた。遠目には、一匹ごとに数人の戦士が乗っているのが見えた。

「僕を置いて、逃げて下さい。」

とジャックが、半分は心にもないことであり、半分は本心から叫んだろうが、

「そんなのダメです!」

 6人の女達の声がハーモニーした。

 すぐに、20以上の男女の戦士対6人の女+ジャックの多勢に無勢の戦いになった、少なくとも相手側は、初めは思っていた。だから、ドラゴンから降りて、得物を構えて包囲するように展開しながら、じりじりと迫ってきた。

 が、あっという間にジャックの側に圧倒されていた。女達は、全員、剣聖とかのクラスの面々である。その戦闘力は、一般の騎士の比ではない。“普通の魔族程度?いや人間程度?下級兵士だからかな?、ドラゴンに操られる存在だからか?”

「ここは、私達に任せて、ジャック様はお逃げ下さい!」

とハーモニーする女達の言葉に、

「はい、そうさせていただきます!」

と半分、喉から出かかるジャックだったが、

「ジャック様が、背中を守ってくれている!」

と女達を感動させるほど、彼女達への攻撃を食い止めるために走りまわってしまっていた。

 自分達が追い詰められてしまったことに彼らが気づくまで時間は、かからなかった。動ける数人が、ドラゴンに跨がり、ドラゴンによる攻撃に戦法を変更した。

「ド、ドラゴン!こんなの相手じゃ、勝てない!」

「いや、小型の奴だし…下位種らしい…何とかなる、なります!」

と叫んで剣を構えたジャックを見て、女達も落ち着きを取り戻して、得物を構え、魔法の詠唱を始めた。

 尻尾の一撃、踏みつぶそうとして叩きつけようとする足、口から吐き出される炎、冷気、電光が彼らを襲った。彼女達は、剣、槍、斬馬刀、大鎚、弓矢そして魔法の攻撃をドラゴンに向かって叩けようとした。

「ジャック様が、尻尾を押さえてくれた!」

「足蹴りを防いでくれて…。」

「注意をそらしてくれた!」

「あ、目潰しをしてくれて…助かりました。」

「よじ登って、操り手を?チャンス、無駄にしません!」

「後ろも、前も、右にも、左にもジャック様が、守ってくれて…最大の魔法攻撃をします!」

“ひ~、死ぬよ~。この尻尾、痛すぎるよー、骨が折れる~。足、重すぎる、太りすぎだーっうの!こっちだよ、あ、…そんなに追いかけてくるなー!貴様、いい加減にしろー!落ちろー!は、早く魔法攻撃を打ってくれ~!”走りまわっているジャックは、心の中で叫びまわっていた。

「ジャック様、なんで尻尾を掴んで、持ち上げて?ま、まさか、その穴に火球を?えー、わ、分かりました。全ての悪しき者、わが灼熱の…。」

「あ、ジャック様、そっちに行っては…あ、後ろががら空き…。上の兵士達を弓矢で…ということですね。矢嵐!」

「口を…ジャック様、危ないです~、は、早くに、逃げてー!何故、あ、口の中に聖槍ですね!やります!」

「ジャック様、そんな剣ではダメです!かすり傷も…あれ、確かにかすり傷が…、そこを、ということですね。我が聖剣よ、私に力を、ジャック様が作ってくれた、この一瞬にかけさせて!」

「この野郎!なんて硬いんだ、私の大鎚が…、え、ジャック様、そんな魔法攻撃では…え?ひっくり返った?それを狙って?腹が出た、今だ!」

「ジャック様、邪魔です、どいて下さい。危ない、そんなところにへばりついたら…目を狙えということですね。もう少し、頑張って押さえていてください!だあー!」

 致命傷ではないが、かなり深く急所や目、口等を傷つけられて、ドラゴン達は、叫び声?を上げて、のたうちまわった。

「今だ!上に乗ってる奴らは、御するので精一杯だ。蹴り落とせるぞ!」

 ジャックを先頭に、隙をついてドラゴンに駆け上った。

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