第26話 追っ手が来ました~②

「き、貴様ら、な、何をする!」

と男が叫んだ。だが、ドラゴンの手綱を持っていて動きがとれない。

「きゃー!」

 その男の代わりというわけではないが、傍らの女が剣を抜いて、斬りかかろうとした。がしっと、ジャックの剣が、彼女の剣を受け止めた。同時に、彼の蹴りが女の腹にきまった。

「ぐあ!」

と女は、倒れかけ、ドラゴンの体の端にうずくまり、何とか凌いだ。が、

「うざいのよ、このブス女!早く消えてくれない?」

 ロックが、彼女の尻を蹴り飛ばした。

「きゃー!」

という悲鳴とともに彼女は落ちていった。既に、ある程度の高さまで昇っていたのだ、ドラゴンは。

「き、貴様、この人でなしめ!卑怯者!」

 逆上したのか、手綱を棄てて、何故かジャックめがけて斬りかかってきた。しかし、その前に彼の剣にしたたか切られ、血を噴き出しながら、ヨロヨロと後退した。

「早く楽になりなさい。」

 剣聖のハイデッカーの剣が一閃。絶叫を上げて、彼もまた、地上に向かって落ちていった。

「こいつ、いうことをきけ!聞かないと、差し違えてやるぞ!」

 暴れて、彼らを振り落とそうとするドラゴンの耳元でジャックが、叫んだ。

 さらに、

「そっちも、暴れてどうしようもなくなったら、振り落とされる前に、刺し違えろ!」

と大声で叫んだ。3人は、別の飛行種のドラゴンを占拠し、そのドラゴンと振り落とされそうになりながらも、しがみついて、何とか御しようと頑張っていた。

 その言葉に反応したのか、二匹のドラゴンは大人しくなった。ホッとした7人だったが、上から火炎を見つけ、慌てて手綱を引いて避けなければならなかった。上手く操れたのか、さすがに自分が巻き添えになりたくないドラゴンが、自ら動いてくれた結果なのかは分からないが、とにかく避けることができた。

 残ったドラゴンとショクの騎士が、ドラゴンを操って、攻撃してきたのだ。

「く、くっそー!」

 あちらがドラゴンと御者が一体となって飛行して、攻撃をしてくるのに、こちらはなんとか安定して飛行するので精一杯だった。

「ギリギリまで近づけて、渾身の一斉攻撃をかけろ!何とかそこまで、持っていくから!」

 不安顔の3人に、ジャックは叫んだ。3人が頷いているのを見て、別のドラゴンの3人も、とにかくジャックに合わせることにした。

 しかし、相手も、こちらのそんな戦術はわかっているはずである。

「これならどうだ!」

 ジャックは、攻撃してくるドラゴンに特大の火球を何発も放った。

「うわ!」

「なに?」

「こんな魔道士がいたのか?」

とドラゴンに乗っていた連中は慌てた。見かけだけで、直撃しても熱いなと思う程度のやつである。しばらく見ていれば分かるが、一瞬騙せるだけで十分だ、一度だけのチャンスにかける、それしかないとジャックは腹をくくっていた。

 動きも乱れ、ドラゴンの攻撃も乱れた。その状態で彼らのドラゴンのそばを通過しようとした。

「今だ!生か死かだ!」

 ジャックの考えは、6人とも分かっていた。自分達の持つ最強の技を渾身の力で放った。“ジャック様の与えてくれたチャンスを無駄にしませんわ!”心は一つになっていた。

「ぐあ!」

 相手のドラゴンは、打撃を受けてうめき声を上げた。そして、きみもみをはじめて落ちていったが、さのままやられるままではなかった。その間際、ジャック達への攻撃は忘れなかった。火炎が、放たれ、それが当たった。そのまま落ちることはなかったが、方向を定められず、高度を急速に落とし始めた。二頭のドラゴンは別の方角に向けて、高度を下げて飛んでいくことになった。

「ジャック様!」

 離れて行くドラゴンから、悲痛な呼び声が聞こえてきた。“死なないでいてくれよ。”と思ったものの、上手く着地するために、ドラゴンを操るので、頭の大部分はそれでいっぱいだった。

「は~、死ぬかと思った。みんな大丈夫か?」

とジャックが、いち早く起きあがって、周囲に倒れている3人の女達を見つけて駆け寄りながら言った。

「だ、大丈夫で~す。」

「な、何とか生きてます。」

「う~ん。」

「大丈夫か?」

と意識が戻っていないらしい聖女を抱き起こした。ジャックとしては、その故に優先しなければと思ったからであるが、彼が抱き起こすと、彼女は目を大きく開けて、

「ジャック様、ご無事でよかったです!」

と抱きついてきた。それを見て、ノロノロと起き上がりかけていた2人が、

「あんた、何をやっているのよ!私のジャック様に!」

とガバっと立ち上がり、駆け寄って、ではなく突進してきた。

「こら、離れなさい。」

「そんなこと言って、ジャック様に抱きつこうとしないでよ!」

「それは、あんたでしょうが!」

「2人とも邪魔しないで、離れなさいよ!」

「3人とも落ち着いて…。」

と3人の女達が争い、それを止めようとジャックがしている間に、力尽きていたと思っていたドラゴンが動き出した。

「危ない!」

 襲ってくると思って4人は、散開して身構えたが、流石にドラゴンも、それまでの戦いで受けた傷や地上にしたたかぶつかったせいで、その力は、なかった。彼は、ここから逃げることしか考えていなかった。弱々しくではあったが羽を羽ばたかせて、空中にあがった。それから、今までとは打って変わった遅い飛び方で、去ろうとした。

「逃がさないわよ!」

「知らせになんか行かせない。」

「今ならやれるわよ!」

と魔法で攻撃を、という3人をジャックは止めた。

「おーい、そのまま行っていいぞ。だけど、このままでいいのか?お互い、平和に共存共栄だってできるはずだ!考えてみてくれ!」

と彼は、ドラゴンに向かって叫んだ。3人の女達は唖然としたが、ドラゴンにも聞こえたのか、振り向いて、唖然とした表情を見せてから、ふらふらと飛び去っていった。

「あいつも帰れるかどうかは分からないし、ここで戦ったらこちらも傷つくし…。ドラゴンは、賢いというから…あのドラゴンがダメでも、無事に帰って、こんな馬鹿なことを言っていたよ、と仲間に話せば何かが変わるかもしれないと思って…僅かな可能性があれば…。」

 弁解のように、説明した。彼は、考えもなく思いついただけで口にしたのだが。“あ、呆れているな?”初めは、ポカーンとしていたい3人だったが、

「ジャック様は、そこまで考えて!」

「さ、さすがにです。ジャック様あ!」

「本当に、本当にすごい人です、ジャック様は!」

 そう言って抱きついてくる3人を、何とか当面のことをしなければ、といってジャックは、何とか引き離した。

 ショクの騎士達がドラゴンにつけていた荷物が散乱していたので、その中味を調べ、周囲を見渡し、暮れゆく太陽、2つの月、星の位置から自分達のいる場所の検討をつけようとしたり、火をおこさなければ…。場所は、かなり高地の森の中にぽっかり空いた空き地のような場所だった。既に暗くなってきたので、歩き回るのは危険であるから、この場所でとりあえず一晩をすごすことにした。荷物には、幸い少量だが食料と水着があったから、火を興してたき火をして、食事を取った。たき火を中心にして周囲に結界を張って眠ることにした。聖女が、結界をはったが、ジャックがそれを補正した。

「え?暖かい?こんな結界なんて…ジャック様、すごいですわ。」

 彼ができたのは、ほのかに暖かクするだけだった、ただそれだけだった。それでも、このように結界を操ったのは彼しか知らなかった、少なくとも彼女らは。しかし、やはり寒い。

“かなり北の方にきたかな?まあ、もう夏ではないからけど。”

3人はしがみついていた。互いに暖めあう必要もあったので、ジャックは敢えて文句は、言わなかった。

 しかし、3人は頷きあって、衣服を脱ぎ始めていた。

“あ…、俺ってば…。お姉ちゃん達や妹達は大丈夫だよな…。”喘ぎ声の大合唱の中で思うジャックだった。

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