第10話 大会戦 2
戦いは、しかし、マリア達をして、ジャックに問い詰める余裕を与えてはくれなかった。魔軍は、さらなる上位の魔族達が参戦してきて、味方は各所で崩れかけていた。そのため、マリア達が、一層奮戦しなければならなかった。
「もう~!行くわよ!」
「後で、後で、後で…。」
「もう、知りません!」
「とにかく、後で説明なさい!」
とマリア達は飛び出していった。
ホッとするジャックだったが、完全な安全地帯などはなく、何時魔族が襲撃してくるかわからなかった。
彼女達を守りながら、マリア達の後を追わねばならなかった。
「も、もしかして、あ、あそこで抱きしめてー。」
「今頃、もしかして…、もしかするかもー!。」
「ジャック君、どうか早まらないでよ!」
「だ、大丈夫、たぶん、たぶん…、絶対大丈夫よ…多分。」
そう呟きながら突進していく彼女達を止めることのできる魔族はいなかった。
「勇者共!ここがお前らの墓場だ。」
「いい気になっているのも、今日この時までよ!」
と叫び、向かってくる上位魔族の戦士達は次々に現れたが、
「五月蝿いわね!」
「お前らのせいだ!」
「煩い!」
「ジャック君が…どうしてくれるのよ!」
と八つ当たりのように、斬られ、砕かれ、炎上し、凍らされていった。
戦いは、進み、一旦は退き、を繰り返していく。マリア達の八つ当たりで、魔軍の攻勢を押し返した後、マリア達のところに食事と飲み物を持ったジャックがいた。文句を言ってやろう、問い詰めてやろうとしたマリア達だったが、彼の周囲にいる女達が4人に増え、さらに男達数人がいるのに気がついて、一瞬言葉が出なかった。そのうち、明らかにかなり年輩の歴戦の戦士と見える男が、
「兄貴!」
とジャックに声をかけているのに気がついた。彼女達は、それでかなりのことを瞬時に理解した。“ジャック君が慕われている!”そのことに感激して、怒りを忘れてしまった。女達が、“お尻がスウスウするよ~。”となんども失禁して、下の下着を脱いで捨てて、替えが手元にない状態でいること、周囲に知られまいとしながら、ジャックにはそれとなく、伝えようと、知ってもらおうと、尻や腰をもじもじさせていることには気づかなかった。
勇者マリア達を、中心に人間亜人の軍は、かなり陣形が崩れていたものの、休息を取ることになった。夜は深まり、交代で仮眠を取り朝を迎えた。予想通り、魔軍の大攻勢が始まった。パンを食らいながら、迎えうとうとしていた武装のマリアに、
「勇者様。これを。」
と、女騎士が回復薬を手渡そうとした。その時、
「駄目です!勇者様!」
とジャックが叫んで、それを叩き落とした。
ジャックは、武装のマリアを守るように、女騎士の前に立ち塞がった。見たことがない女だった。“見たことがない…、あれ?”
「だ、だれだ?魔族か?」
味方の苦戦する声が聞こえてきた。勇者の出撃を促す声が聞こえ、使者が矢継ぎ早にやって来ていた。
「ここは、僕が!勇者様、行ってください!」
“何言っているんだ、俺?”
躊躇したマリア達も、ここで出ていかなければ、この戦いは負けると分かっていた。
「すぐ戻ってくるからね、絶対にだよ!」
「待ってなかったら、許さないからな!」
「何とか、生き延びるのよ、耐えてね!」
「信じているからね、何とか頑張って!」
後ろ髪を、ひかれる気持ちが大々だったが、彼女らは駆け出した。
目の前の女魔族には、仲間というか、手下らしい魔族が何人もいた。その時、
「兄貴!こいつらは俺が、引き受けた…。」
「私に雑魚は、任せて!安心して…。」
彼の周囲の男女は、女魔族の手下らしい男女の魔族に向かっていた。“やっぱり、こいつが、この部隊の首領だよな。一番強いんだろうな…。”
実際、彼女は強かった。彼女の部下達?も、以前なら勇者のチームにいても恥ずかしくはない実力があるだろう面々に互角以上に戦っていた。少なくとも、魔族軍の兵士の中でも、選りすぐりの連中だと思われた。ジャックは、当然防戦一方になっていた。しかし、
「手強いな。さすがに、真の勇者のチーム筆頭と言われる奴だけのことはあるな。」
“は?”
「あの~、俺は、単なる荷物運び、雑用係だよ。」
“本当に。”泣きたくなった。そのように思われたら、命がいくらあってもたりないよ、と。
しかし、相手の方が泣きそうな顔で、斬りつけ、魔法攻撃を放ってきた。“ひ~!”と心の中で悲鳴をあげ、必死に鋭い斬り込みを受け止め、火球、雷球、衝撃波、風刃などを受け流して防いだ、辛うじて。
「こ、この我を愚弄するか、ここに至っても!この魔王の我を!」
「は?」
「魔剣も、魔鎧も、魔石も、魔印も失っているとはいえ、魔王の我が、単なる雑用係に遅れをとるなどと…。」
“いや、あなたは僕を、十分圧倒してますよ!”
「げ、現に、聖騎士などを圧倒したぞ、我は。我の四天王も八部衆も…。な、なのに、なのに、どうしてだ?」
泣かんばかりの顔で、いっそう激しく攻めたててきた。それを防ぐので精一杯だった。加勢にきた騎士達も圧倒されて、右往左往の状態だった。
「あ、危ない!」
聖女の1人が、絶体絶命のピンチなのに気がついて、電撃を放った。彼女に斬りつける魔族騎士を牽制するだけの効果しかなかったが、彼女が逃れるのには十分だった。
「く!我と戦いながら、その余裕は何だ?馬鹿にしておるのか?この浮気者!」
“は?”とジャックも思ったが、それを言った魔王を名乗る女魔族も、最後の自分の言葉に、啞然とした表情を浮かべた。互に相手の顔を覗き込む。“あれれ?”その言葉が、不自然であり、無体だと同時に、懐かしいように思われたからだ。もちろん、その間も激しく戦い続けていた。
しかし、既に、彼の周囲では、彼だけが何とか戦い、皆を支えている状態になっていた。そのジャックも、もう追い詰められ、さらに、他の魔族も殺到するのも、もう間近という状態になっていた。
その時だった。
「お、ま、た、せ~!ジャック君~!」
「ジャック!生きているか?」
「大丈夫?直ぐ回復してあげるからー!」
「よく耐えた、よくやった、さすがはジャック君だ!」
マリア達が駆けつけてきた、魔軍の最高幹部クラスをなぎ倒し、とどめまできっちりさして、魔軍の総崩れ、退却を見てから、駆け戻ってきたのだ。倒された魔軍、上位魔族の幹部クラスは、自信満々に、彼女らに向かってきたが、闘いというよりは、一方的な虐殺に近かったが。
最早、逆転、いやそれ以上、
「ま、魔王様。は、早くお逃げ。」
いち早く、彼女らの来援に気づいた魔族魔道士?もそこまでしか言えなかった。ほとんど一瞬で、魔族は立っている者はいなくなった。とどめをさすだけだった、後は。しかし、
「待って下さい、勇者方!」
「殺せ、最早これまでだ。せ、せめて、かつて魔王であるべき者として殺せ!」
ジャックと魔王と称し、呼ばれた女魔族騎士は、同時に叫んだ。
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