第37話 なんで祭り上げられるのかな
そのうち魔族も駈け込んできた。
「お前達、ようやく私が分るようになったのか?」
「も、申し訳ありません。長年お仕えしていた身なのに…一時とは言え、魔王様のことがわからなくなり…。」
ただ、単純ではなかった、ただ幻惑が解かれたということではなかったということだったのだ。あの偽物?女魔王が殺され、同様な方法で乗っ取られた過程でのことだったからだ。
「認定された勇者を向かい入れて、魔王討伐に向かったはずではなかったの?彼に問題があったの?」
「彼は、完璧な人じゃなかったけど、決して悪い人でも、屑でもなかったの。あなたのことだって、話を後から聞いて、悪いことをしてしまった、と気を落としていたくらいで…。あの魔王に、闇堕ち勇者が何人もいて…。」
うなだれて気力の全くない、彼女の元チームメンバーの生き残りに代わって、あの勇者の恋人(自称?)だった聖女が泣いて訴えた。
そのまま信じたわけではない。ちゃんと、一応、裏をとることをしてみたが、事実らしく思われた。
「いったいどうなっているんだよ?どうしたらいいんだよ?」
ジャックは頭を抱えた。頭を抱えながら、防御陣地の構築、その陣地はどのように作るか、周辺への働きかけ、自軍の構成、編成、武器、糧食の調達など提案をした。それが指示、命令となり全てが動き出してしまった。
「え?え?」
と途惑うジャックだったが、誰もが何が起こったのか、どうしたらいいのか分からなくなっていたところでの彼の言葉は、まるで慈雨、雨雲の先の太陽、砂漠のオヤシスのように思われたのだ。
もう、彼に頼るしかない、彼に頼ろう、彼の旗の下に…と自然のうちに流されていったのだ。
証言、情報、自白等から、相手は、魔族、人間、亜人が渾然一体となった集団で、頂点に立つのは竜の賢者?らしい。ジャックが一騎打ちした女も、その集団の中の豪傑の一人らしいので、上位魔族ではないだろう。ありとあらゆる方法で、魔族、人間、亜人の国々、部族を乗っ取り、版図を拡げてきた。ソロモン帝国、今までダミーのように、時には乗っ取った国を騙ったり、幾つかの国名を使ってきたが、もはやそれも必要もなくなり、本格的な侵攻を開始したらしい。平和な、人々の笑いが絶えない理想の国を作りあげる、を大義にしていた。“既視感…。”そう思いつつも、ジャックは、立ち止まってはいられなかった。集まってくる人々、広がる勢力をまとめる、失地挽回、周辺への呼びかけ…。そんなことをする時間を与えるほど相手は寛大で…あるはずはなかったし、彼らの立場に立てば、あってはならないはずだったが、彼らは中途半端な攻勢をかけ、潰滅されることを繰り返しただけだった。ベーコン王女の父、兄である国王、王太子の救出まで成功してしまった。
「ジャック殿、君の下で僕も戦うよ!」
は王太子様。
「そ、その通りじゃ。ジャック殿をわしと思い、その指示に従うがよい。」
は国王陛下。
「は?」
善人そのものの彼らに呆れながらも、彼は善人を通せるだけの智力も、胆力も、勇気もあることは、ジャックがよく知っていたところでもあったが。彼は、総司令官みたいな立場に祭り上げられてしまった。
「ジャック様ー!助けにいくわ!」
「ダメよ。ジャック様の指示を守りなさい!…わ、私が行きます!」
「二人とも…ジャック様は大丈夫よ。あなた方がいなくなって、総崩れになったら、ジャック様に申し訳がたたないわよ。ここを守ってなさい!わ、私が助けにいくから…。」
「あんたね~、あんたの馬鹿部下のせいでしょう、もともと?ジャック様を~。」
「もう~、どうしたらいいの?あれ?退いていく…あれはジャック様?」
「本陣で?」
「今よ!私達も打って出ましょう!」
「そ…そうです。ジャック様に、続きましょう!」
「皆、ジャック様を犬死にさせるな!」
王都を奪還したジャック達だったが、本格的な反撃にあった。ちなみに、恩人であるダランベール王女まで裏切った宰相は、程なくして不忠者として粛清されていた。ジャックの指揮の下、防御陣地を構築し、よく大軍を持ち堪えていたが、ある日出城の危機の知らせを受けてジャックが駆け付けると待っていたかのように城主が寝返り、ジャックは行方不明、防御陣地の一角が崩れたことから、勢いに乗って押し寄せる敵の軍に防戦一方、何時まで持ち堪えられるか分からない状態になっていた。ジャックのことが心配で仕方がない3人だったが、彼の生死不明、頼もしく、信頼していた豪傑達と将軍の裏切りに動揺しているのは、非戦闘員も含めて全てに共通していたから、ここでも自分達がいなくなったり、動揺してはお終いだということはわかりきっていた。彼の無事を信じて、陣頭指揮をして、先頭で戦わなければならなかったし、そうするしかなかった。
それが形勢逆転。ジャックが、何と単身、敵方の本陣に潜り込み、放火し、攻撃魔法、大した威力はなかったが、とにかく乱射して、混乱ざた中で敵将をはじめ幹部を殺し、慌てふためく、敵の本陣をかき乱し、本当は戦いながら逃げ回っていたわけだが、その彼の行動で、混乱は混乱を呼び、敵軍は恐慌状態に陥り、総崩れでの退却となってしまったのだ。
なおも彼を倒そうとする親衛隊の一人である女騎士と闘う中、二人は完全に、彼にとっては敵、彼女にとっては味方から、完全に無視されながら、彼らはもう逃げることしか頭になかった、必死だったのだ。
「おい、お前も逃げたらどうだ?」
「いや、お前ほどの者を倒せたら、殺されても本望だ。」
「お、おい…だから、俺は大したことものではないってば!」
「そ、それなら、なんで私が勝てないのだ!」
怒り、焦る彼女に隙ができた。それを逃さず、剣をたたき落とし、組み付き、衝撃魔法を、渾身の魔力を注いで、何とか彼女を動かなくさせた。
「ジャック様、ご無事で…ええと…。」
「し、心配しました、さすがジャック様…え?」
「全てジャック様のおかげです!大勝利…それはー?」
3人は、それでもその場は黙って、追撃に専念した。その後で、たっぷりと説明をさせ、ベットの上での証明、ご褒美を要求したのだった。
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