第21話 恋は遊びではない
恋は遊びなどではない。
一生のうち何度かの真剣勝負だ。こんなのは茶番劇と同じである。そもそもお見合いというお膳立てが整った『予定調和』の付き合いなど好きではない。
堅苦しいお見合いで始まり、お互いに3回会って気に入れば、4回目には正式なお付き合いになる。3ヶ月もすれば『三々九度の盃』を交わす結婚の約束をする。
そんな先が見える恋などしたくはない。恋は神さまからの偶然のプレゼントが一番良いと思う。
世の女性たちからお叱りを受けそうだが、恋は順風満帆より時に波乱万丈な風が吹いた方が刺激的で良いと思っている。そんなことを考えていると、まだ、両親たちのくだらん挨拶が続いていた。
「お嬢さん、本当に綺麗ですねぇ……」
今度は実母から褒め言葉が漏らされる。
「いえ、浩介さんこそ立派な青年で」
先方の母親も同様にお世辞を返す。こんなんなら、世渡り上手な大人などになりたくはない。
「ご子息、ご息女の結婚はご両家の支えがあっての賜物。おめでたい日和に……」
仲人さんが間に入り、話を進めてゆく。
それを聞いて父親たちはかつて見たことのないご満悦の笑みを浮かべている。反面、典子の目はうつろになっていることに気づく。
目の前には食べたことのない立派な懐石料理が並ぶというのに箸すらつけていない。せっかくの料理が冷めてしまう。
ああ……腹へった。食いてえ!
俺はもう我慢出来なくなり、箸を付けようとした。ところが、実母から膝を叩かれてしまう。 これは、飾り物なのかよ 。何がめでたいだ。鯛だって干からびてしまう。
「浩介も典子さんに何かお話をしたら」
その時だった。彼女が先に口を開く。
「仲人さん、こんなんだと、浩介さんと話も出来ません。食事を済ませて、早く2人だけにしてください」
おおっと、俺が言いたいことを言ってる。正直ビックリ。彼女がこんなしっかりした女性だとは知らなかった。
「それでは……そういうことで……」
仲人さんがその言葉を渋々受け入れてくれる。親族もうなずいている。
「では冷めないうちにお料理を」
やっと、口にできる。暫くするとお邪魔な両親たちは席を立ち姿を消していく。
「後はお2人だけで仲良く」
仲人の言葉でようやく言いたいことが言える時間がやってきた。
「少し歩きながら話をしませんか?」
「はい、喜んで」
典子は俺の言葉を笑顔で受け止めてくれる。食事を終えると、庭園に向かう。
けれど……。
安心するのは束の間の時間だった。
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