第18話 一枚のカード


ペンギンのお兄ちゃんへ


 この2年間、ずっと暗闇の奥底で遥か彼方にある青空にゆっくりと漂う雲を見上げていました。


「いつ、もう一度立ち上がるのか」と。


 一夜限りとはいえ、温かい光を射してくれてありがとう。とても、楽しいひとときでした。初めてお会いしたのにビックリです。


これが運命のいたずらでないことを信じています。


 わたしが住む叔母の家の近くには外国の屋敷が沢山あり、『港の見える丘公園』のフランス山に沿って大きく曲がる坂道が続いている。

 いつも坂道を歩いて四季折々のバラが咲く頂上公園にたどり着くと、横浜の港に外国船がやって来るのをぼんやり眺めています。また、お会いできる日までさようなら。やさしいペンギンさんへ。

丸山 沙織。横浜市中区山手町180-4



 どこでいつ書いたものだろうか?

きっと、昨夜俺が寝入ったあと、ベット脇の照明の下で書いたのだろう。


 残念ながら、お兄さん扱いとなっている。しかもペンギンだ。彼女から姉妹育ちだとは聞いていた。そこには携帯電話の連絡先や熊本の実家住所は記されていない。「運命のいたずら……」これは何を意味しているのか。分からない事だらけである。


 今言えるのは、やはり、熊本で会うことは許されないということだ。失くさないように折りたたんで、大切にカバンにしまうことにした。


 バスの窓からは既に出荷が終わった果実の不知火デコポン畑が見える。我が家も熊本名産の果物で生計を立てている。


 もうすぐ、実家に近い中学校前のバス停に着く。有難いことに、朧気な思いに駆られる俺を母親と実妹の百合子がやさしく迎えに来てくれた。


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