第34話 自惚れ(うぬぼれ)
「この景色、最高やなぁ~。チャペルで結婚式を挙げて、この銀杏並木を2人で歩きたい。皆にお祝いのバルーンで祝福されて」
「…………」
いつもと違う百合に驚いてしまう。
「浩介、聞いている?」
残念ながら、その言葉は風にかき消されてしまう。否、聞こえないふりをする。こんな時、恥ずかしくどんな返事をして良いか分からないのだ。
俺はコートの襟を立てて、“けっこう可愛いじゃん”と、彼女の短い黒髪が風になびく姿を静かに見とれているしかない。
廻りの仲間はそんな事に関心を示さず、ツリーを見上げて写真を撮るのに夢中である。何処からか初めて耳にするハンドベルの清らかな音色が届いてきた。もう一度、百合は俺の耳もとでささやいてくる。
「良い音色じゃない」
「ああー最高だな」
やっと、言葉にできた。
クリスマスキャンドルを大切そうに抱える学生たちもいる。こんな美しい景色を見ていると、ミッション系の大学に入ったのが誇らしげで嬉しいものとなる。
イルミネーションの点灯期間は、教会の暦に従い、キリスト降誕を待ち望む期間(降臨節)からキリスト誕生を祝い、地上への顕現を祝う顕現日(1月6日)までの約5週間だという。百合は何でも知っていた。
この日を境にして、クリスマスにまつわるさまざまなイベントも開催され、キャンパスはクリスマス一色に染まってゆく。
俺たち、男3人、女性3人で扉を開け、チャペルにも入ってみる。
そこには厳粛な雰囲気が漂っている。6人の仲間は同じ授業を受けるかたわら何のクラブにも属していなかった。所謂、大学内のさまよい人となっており、他の学生たちから揶揄われている。
そもそも、この大学は女性の人数が多い。外観は赤レンガでシックなのに、チャペルの内装は白い壁でとても明るい感じだ。正面にはステンドグラスがあり可愛らしい。まるで、外国の教会みたいだ。
間も無く、クリスマスの式典が始まるらしい。パイプオルガンの重厚な音合わせがされていた。途中退席は失礼となる。女性たちから声が届く。
「この後、どうする?」
「このまま、最後まで見てる」
「はやく決めてよ。いつも、男連中は優柔不断なんだから」
「そんなことないから。ねっ、浩介」
百合が言葉にしてくる。
女性たちは3人が集まると騒がしいもの。その中には俺のことを慕ってくれている女の子、百合もいる。あくまでも仲間内のうわさだが……。
俺のプライドをくすぐり、
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