第41話 夢破れて雲上人になる
その夜、夢破れて悔し紛れに6時過ぎの機上の人となっていた。残念ながら、あの湘南の美しい海も見えずじまいとなる。
遥か彼方の眼下には真っ暗な山や河ばかり。夕日すら見えてこない。季節は春、日没は5時半。もう、とっくに過ぎていた。
雲上人の立場で2時間の熊本への旅。
あっという間にふるさとの熊本空港へ到着。ロビーに降り立つと、さっそく正人に連絡をしなくてはいけない。
「おい、着いたぞ。打ち合わせどうする」
「それどころじゃない」
「えっ、どうした?」
「母親が今朝ぎっくり腰で倒れたんや」
新郎の正人には父親がいない。旅館を営む親ひとり、子ひとり。母親は日頃の無理がたたったのだろうか。挙式を間近に控える慌てぶりが手に取るように分かってくる。他人事ではなく、心配となっていた。
「大丈夫か?」
「ああ……式には車椅子で出席できる」
「そうか」
「そこで浩介にひとつ頼みたい」
「何や?」
「神前結婚式の立会人をやってくれ」
「お安いご用だ」
立会人? 正直言うと、それがどんな役割なのか分からない。でも、そんなことどうでも良かった。正人の役に立つならどんと来いや。何でもやってやりたかった。
「俺の親族代わりに。否、代表や」
「ああ……正人の為なら何でもやるよ」
「仲人は野球部の監督だから安心だ」
「おおー。先生、元気なのか?」
「ああ。もう定年して、じいじと云われて大勢の孫たちに囲まれてるよ」
「そうか。良かった」
電話を切ると、慌ててスマホの画面で神前式の流れを調べてゆく。引き受けたのは良いが、恥ずかしながら、これまで神さまとは縁もゆかりもない。あったとしても裏切られてばかり。数少ない経験と言えば、お祭りと年始の初詣ぐらいとなる。
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