第7話 突然の来訪者


「あのぅ……。それって」


 女は一瞬何か言いかけて黙ってしまう。


 彼女はベット脇にある俺の野球帽を見ている。ずっと昔に元カノからプレゼントされたピンバッチが付いている。デザインはピンクのペンギンであった。


「あっ、ペンギン。お揃いやん」


 ペンギンが好きな人に悪いひとはいないとも云ってくれる。偶然の旅先での相席とはいえ、もう少し、彼女と2人で話をしていたかった。

 けれど、俺は都会育ちの粋なことを言えるシティボーイではない。そんな俺のやぼ天なところを見逃してくれないだろう。


 ところが、意外にも女性の反応は逆だった。田舎育ちの素朴な顔に安心したのだろうか。視線を下に向けながら、彼女は自ら名乗ってくれた。


「わたし、丸山 沙織まるやま さおり。20歳」

「学生さんなの? 高校生かと思った」


「まさか。これでも働きながら専門学校に通っているの。わたしには些細ささいななものだけど夢があるんです」

 沙織は動物飼育員になりたいと云う。


「すごいなあ。しっかりしていて」

「全然です」


「お世辞じゃないよ」

「良かったぁ、旅の話し相手がお兄ちゃんみたいな人で」

 えっ、ビックリ。ハキハキした女の子だ。慌てて自己紹介をする。


「神崎 浩介、21歳、東京の学生です。こちらこそ、よろしく」

「やっぱり、年上なんだ」

 その言葉に沙織も安心して、笑顔が漏れてくる。


 額から汗が流れてきた。なんとも不思議な気分となる。さっきまでひとりの方が良い云々……。たわけたことはもうすっかり忘れている。彼女から先に名前で呼ばれて後悔していた。


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