第8話 うたかたの幻想?


「浩介さん、談話室で話しませんか?」


 確かにここでは窮屈で話が出来ない。俺も彼女と同じ考えだった。この寝台特急にはホテルのロビーのようなゆったりとしたソファーがあり、窓も大きく外を眺めるには格好のサロンがあると聞いていた。


「20歳になったから、お酒も飲んで話もしたい」


 なんと、その言葉は沙織からだ。

まさか、ひとり旅の帰郷でこんな女性と出会えるとは思ってもいない。しかも、服装は地味でメガネをかけているが素敵な女の子だ。狭いところに若い男女の2人、一瞬、彼女から警戒されるのではと心配したが逆だった。


「ええー、ご一緒します」


 思わず叫んでいた。そんな馬鹿丁寧な言葉しか思いつかない。そう言うのが精一杯。しっかりしていて、どっちが年上なんだか分からない。少しずつだが、彼女に惹きつけられていた。


 これは恥ずかしいが、一目惚れだ!

いや、そんなことあるはずはない。俺は恋に限り極めて慎重な奴である。自問自答を繰り返す。きっと、直ぐに消えてしまう “ 泡沫うたかたな幻想” ただのあこがれのはず。


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