第9話 不思議な出会い


「わたし、何度か寝台特急に乗ったことがあるの」


「そうなんだ。良いなあ……。俺っち、初めて」


「銀河を駆け抜けるようで窓からの星がとても素敵」


「ちょっとだけ、待ってね」と言いながら、沙織は上着のポケットから紫色のものを取り出すと、黙ったまま大切そうにカバンにしまう。


 それは数珠じゅずが入る袱紗ふくさのようだった。

 

 かつて実母が仏壇にしまっていたので直ぐに分かる。やはり、彼女には他人には言葉にしづらい何かあるのだろうか。


 女性の誘いに応じて、財布だけ手にすると、4号車に向かって歩きだす。窓からは夜景がいっそう輝いて見えてくる。これが沙織との “偶然と呼ぶ” にはもったいない不思議な最初の出会いとなった。

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