第31話 俺のあかりは……
「ここに丸山沙織さんという若い女性が住んでいませんか」
残念ながら……
店員は首を傾げ厨房に走ってゆく。
「シェフ、教えて。この建物に丸山さんという女性が住んでる?」
ご丁寧にも、奥から別な女性が現れ、話してくれる。聞いていたらしい。
「丸山なんていない。奥田さんなら店のオーナーだけど……。あとはお嬢さんがひとり。さっちゃんと呼ばれる黒髪が似合う若い女性ならいるけど」
「ああ……そうですか」
「今日はオーナーのお孫さんが通う保育園の行事へ行っている」
俺はもう引き下がれなくなっていた。
「お名前は分かりますか?」
「う~んよくは知らない。けれど、幸子さんじゃないかしら。でも、違うかも」
しつこい問いかけにも嫌な顔ひとつせず、教えてくれた。確認できたことは、お店の上にご婦人と黒髪が似合うお嬢さんが住んでいることだけ。
沙織ならポニーテールのはず。
「ご馳走さま」と言葉を残して、仕方なく店を後にする。彼女たちは玄関口まで見送ってくれる。その顔には笑顔すら感じられた。
ルミエールは希望のあかり、白夜の国スウェーデンの宝物と知る。さらに郷土料理も美味しく、とても良い余韻が残る店だ。
沙織の寂しそうな顔を思い出すが、これ以上しつこく聞くことも出来ずに、坂道を下りてきた。
駅に向かって歩きながら、もう一度考えてみる。沙織のことをさっちゃんと言うだろうか? まして、奥田さんのお嬢さんとも言っていた。黒髪の似合う女性とは……誰のことだろうか?
でも、諦めたくはない。
これしか彼女と会える手がかりはないのだ。八方塞がりという言葉が浮かんでは消えてゆく。これ以上どうすれば良いのか? 思案にくれていた。
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