第27話 絨毯は黄金色だけど…


 つくづく時が経つのは早いものだ。


 歳月は俺の身勝手な我儘などに付き合ってくれる訳もなく、少しもとどまってくれない。アパート脇には300mほど続く、黄金色に染まるいちょう並木がまるで絵画のように続いている。「秋は美しい季節」と人は云うが、自分には切ないひと時にしか感じられなかった。


 残念ながら、沙織と連絡が取れていない。

 あれから3ヶ月以上過ぎるというのに……


 彼女の手紙を改めて引き出しから取り出してみる。そこには、横浜市中区山手町180-4。手がかりはこれだけだ。

 一度手紙をこの住所へ送ったが、あて所に尋ねあたりませんの赤いスタンプが押され、冷たく返送されてきた。


 何処に勤めているのだろうか。本を読むのが好きだと聞いていた。子供たちと遊ぶのも好きだと言っている。ペンギンのお絵かきにも夢中になるという。

 住所を頼りに直接訪ねてみたい。度胸なしの自分を捨てたくなる。横浜を訪ねるのは中華街に行ったきり。叔母さんの家に居候いそうろうと聞いていたので、表札は異なるかもしれない。


 けれど、希望はあるはず。

 世の中なんて、狭いのだ。

 どうしても沙織の事を諦めたくなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る