お客様三人目 ~桜のボランティア 第九話~
そこから数か月、無事に進級し二年生になった。
私は休まず桜様のボランティアを続けた。
回数を重ねるごとに加藤さん以外の他のボランティアメンバと仲良くなったり、桜田のおばあさんと桜以外のいろいろな話をするようになっていった。
回を重ねるごとに桜への愛着も沸き、季節を重ねるごとにいろいろな表情を見せる樹木の姿に魅力を感じていた。
皆が桜様桜様なんていうから、いつの間にか私も桜様と言うようになっていった。
これも愛着が沸いたからだろうと思う。
とうとう満開を迎えた春、桜様は見事な花をつけた。
満開の桜は、空一杯に広がってるように見えて一本しか生えていないのに、まるで森のような迫力だった。
今までに見たどんな桜よりも見事な姿に、心の底から感動の声が出た。
その日ボランティア作業後の夕方、参加しているメンバで桜田の家で花見をすることになった。私は喜んで参加することにした。
いつものように桜様の手入れをした後、みんなで庭にシートを広げて桜田のおばあさんが用意したお重とお茶とジュースで花見をする。
他の人たちはビールを飲んでわいわいと盛り上がった。
桜田のおばあさんが私の隣に座り、いろいろな事を話をした。
上を見上げれば満開の桜。今日の天気は桜が降るでしょう・・・・。
そんな予報が流れるだろう。
「本当にきれいですね・・・。」
「桜様、今年も見事ね・・。」
私と桜田のおばあさんは上を見上げたまま言葉を交わした。
そこで、私はずっと聞きたかったことをおばあさんに尋ねた。
「あの、私も呼んでいますけど、どうして桜様なんでしょうか?」
おばあさんは静かに笑って、
「それは桜のお姫様だからよ。」
「お姫様?」
「そう。この桜を植えたのが昔ここに住んでいたお嬢様、妹として植えられたのがこの桜だそうよ。お嬢様は自分をいつもお姫様だって言っていたそうよ。
だから、この植えた桜も妹だからお姫様なの。お姫様には召使が必要でしょ?
私たちはその召使ってことね。」
コロコロとおばあさんは笑った。
「そうだったんですね・・・お嬢様たちはどうなったんでしょう?」
桜様の名前に納得した私は質問を続ける。
「さぁ、この家の様子から見てわかる通り、相当昔の話だから、お嬢様はもうとっくに亡くなっているのでしょうね。
私もここに住んでいるわけじゃないし、わからないわね・・・。」
「え?おばあさん、ここに住んでいないのですか?」
「あら、私はここにいるあなたたちと同じ。
通っているだけよ。本当の家は〇〇市。
・・・こんな古いところには住めないわねえ。」
おばあさんはちらっと家を眺めるとクスっと笑った。
「あの、でも表札には”桜田”って・・・」
「それは誰か住んでるように見えるように、桜様がそうしろっておっしゃるからそうしてるだけよ。お稲荷、もう一つ召し上がる?」
おばあさんはお稲荷を私のお皿に一つ乗せると話を続ける。
「私がお世話をするようになってから四十年になるかしら。
あなたと同じようにこの立派な桜をお世話募集するチラシをもらって、
桜を見に来たらもうそれはそれは、とても立派でしょ?
お世話をするうちに愛着というか、忠誠心というか・・・そういうのが沸いてきてね。桜様も私をとても気に入って下さって、それからずーっとこうしてお付き合いさせてもらっているの。」
耳に入ってくる言葉に、驚き、理解するのに時間がかかる。
四十年?桜様が気にってくださる?
「あの、桜様に気に入られるっていうのは・・・」
「あぁ、そうね、おかしなこと言ってると思うでしょ?
でもね、桜様は私たちと同じ、いいえ、それ以上ね。
全部わかってらっしゃるの。言葉も感覚も心も、私たちと同じよ。
好き・嫌い、大切にしてくれる・雑に扱われるそういうのもすべてわかってらっしゃるわ。好みもあるし、文句言われれば気分を害されるし、褒められば嬉しいし。
和田さんみたいに桜様に失礼なことを言えば怒って意地悪をしたくなるのもしょうがないことよね。喋れないからあぁやってお仕置きするのよね。」
「・・・和田さんがケガをしたのは、桜様の仕業だと?」
「もちろんよ、態度もそうだったけど、桜様は和田さんの名前も気に入ってなかったから。
和田さんは”和田梅子”って言うでしょ?
他の花の名前のついてる人にあんなこと言われるなんて、我慢できないわよね。」
おばあさんの話を聞くたびに理解が追い付かなかった。
桜様に意思があって、好き嫌いがある。気に入らなければ罰を与えるなり意地悪をする・・・そんなことがあり得るのだろうか、おばあさんの気の迷いではないのだろうか。
「そんなことが・・・と思っている顔ね、私もそうだったわ。
でもね実際に私は何人も、桜様に無礼を働いた人がどうなったかをずっと見て来たの。だから、すべて本当のことよ。」
おばあさんはそこまで話すと桜様を見上げ、紙コップのお茶を口に運んだ。
私は自分の背中に、汗がつーっと垂れていくのを感じていた。
「」
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