お客様三人目 ~桜のボランティア 第五話~

 昼食をご馳走になった後、皆で食器の後片付けをし、さっそく桜の手入れに取り掛かる。古い居間では歩くたびにぎしぎしと音が鳴り、古びた家具が時代を感じさせる。やっとおばあさんに話かけるタイミングができて、遅れてしまったお詫びと、改めて自己紹介をする。

「いいのよ、気にしないで。吉野さんね、いい名前だわ。

桜様にもちゃんと伝えておきますね、よろしくお願いいたします。」

そう言ってまた頭を下げる。

申し訳なくなって慌てて、

「あ、あの、こちらこそ!私は何をしたらいいでしょうか?」

自分は何をすればいいかを尋ねると、おばあさんは笑って

「男の方には枝払いをお願いしたし、他の皆さんには落ち葉拾いをお願いしたの。

あなたはそうねぇ、桜様とおしゃべりでもしてもらおうかしら。

私みたいな年寄りばかりの話は退屈でしょうから。」

フフフとおばあさんはお茶目に笑った。

「え、話相手ですか?」

「フフフ、冗談ですよ、今日来たばかりですもんね、桜様の周りの雑草とりをお願いできるかしら?この年だと、しゃがむのがとてもしんどくてね・・・」

「・・・よかった!わかりました!がんばります」

一瞬本気かと思ったが、冗談だとわかってほっとする。

年配の方の冗談はわかりにくい。

「道具は庭に置いてあると思うから、好きなものを使ってね。」

「わかりました。」

玄関を出て、庭に向かうともう皆すでに作業を始めてた。

五十代くらいの男性二人は桜に高いはしごをかけて、手慣れた様子でバサバサと不要な枝を落として黙々と作業していた。

その下で三十代くらいの細身の男性が落ちた枝を細かくしてまとめている。

先ほど話かけてくれた加藤さんと和田さんは二人でおしゃべりしながら草取りをしている。

もう一人、四十代くらいの髪の長い女性は落ち葉拾いの作業をしていた。

自分も物置(物置・・・だと思う。崩れそうでボロボロだった)から真新しそうな軍手を一双とり出し、見よう見真似で草取りを始める。

なるほど、これは中々にしんどい。

腰も痛いし、手の力も結構いる。あのおばあさんには重労働だろう。

桜の周りの雑草を少しずつむしりながら後ろに下がっていく。

庭は広く、まだまだ先は長そうだ。

こうしてみると庭のほぼ八割は桜の木が占めているのではないだろうか。

下がっていると不意に足が引っ掛かり尻餅をつく。

「あ、すいません!」

誰かに思わずぶつかってしまったように、謝ってしまう。

よく見ると桜の根元に足を引っかけたようだ。

(なんだ、根か・・・・謝って損した・・・・)

そのまま上を見上げると、桜の枝がそよそよと優しく揺れていた。

『大丈夫?』

そんな風に言ってるようだった。

風と枝払いの作業のせいだろう。


そんな訳がない。

気を取り直して、また草むしりの作業に戻った。









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