お客様三人目 ~桜のボランティア 第四話~

 学校から帰るなり捨てたチラシ入れからガサガサと桜のボランティア募集のチラシを引っ張り出す。

「あったあった!これだこれだ。」

チラシをテーブルの上に置いて、夕食を食べながら改めて眺める。

今日はコンビニの割引ドリアにした。

週末におばあさんと約束してしまったけど、自分にあんな勢いがあるなんて思っていなかった。

「どんなことするのかな~謝礼ってなんだろう。」

そんな邪なことも考えながら、日曜日を待った。


 日曜の午前十時半。

前日、友達とカラオケで遊びすぎて夜更かししてしまったせいか、幾分寝過ごした。

朝一におばあさんの家に行こうと思っていたのに、早くも挫折しそうになった。

「はぁ~ダッる・・・」

まだ眠っていたい身体を起こして、それでも約束のために気持ちを奮い立たせる。

着替えて寝ぐせを直して、冷蔵庫にある野菜ジュースを一杯飲んで、家を出る。

ここから、おばあさんの家までは歩いて二十分程度かかる。

時間は午前十一時半、おばあさんの家に到着する時には昼になってしまうだろうか。


 早足で歩いて、おばあさんの家に到着した時にはやっぱり十二時近くになってしまっていた。

桜田の表札の前で上がった息を整えて、チャイムを押すとおばあさんが出て来た。

「あらあら、いらっしゃい。来てくれて嬉しいわ~

どうぞ上がって上がって。」

促されるまま、玄関に入ると、玄関には五~六足の靴が並んでいた。

「今日は沢山お客さんが来てくれて嬉しいわ~

お昼は食べた?

まだよね?

みなさんと一緒にどうぞ召し上がって!」

今日ここに来るのは自分だけだと思っていて、拍子抜けしてしまった。

「は、はい・・・お邪魔します」

年季の入って、ぎしぎしきしむ板の床を歩きながら居間に通される。

居間には年齢もバラバラの男女が六人大きな古いちゃぶ台に丸くなって座って、昼食を食べ始めるところだった。

「こんにちわ・・」

恐る恐る中に入って挨拶をすると、

「「こんにちわ」」

とそれぞれ挨拶を返してくれた。

「皆さん揃ったようでよかった、さぁ座って座って!

みなさん、桜様のお世話をどうぞよろしくお願いいたします。」

後ろから遅れてきた桜田のおばあさんが、皆を前に頭を下げる。

見知らぬ男女の間の座布団に座らされて逃げることもできなくなって、

自分の浅はかさに少し後悔をする。

(しまったなぁ・・・)

「あなたもボランティアのチラシを見てここに?」

隣に座ったおばさまが声をかけてくる。

ちゃぶ台の真ん中に置いた重箱にぎっしり入ったお稲荷さんと、太巻きを二つずつ取り皿に乗せてくれて、お茶を注いでくれる。

「は、はい。」

「あらーそうなのー若いのに偉いわねぇ。

私もね、家が近所なんだけどおばあちゃんが桜様のお世話をしているのを見て、

手伝うことにしたのよー。私は加藤っていうの。よろしくね。」

加藤と名乗る女性はそう言うと自分の取り皿にお稲荷を三つ乗せた。

「桜様のお世話って言っても、草取りや庭掃除みたいなもんでしょ?

家事代行をたタダでやってもらうみたいなもんよ。

おばあちゃんもボランティアなんていい名前をつけてしたたかなもんよね。

私は、和田。加藤さんに誘われて一緒にやることにしたの。あなたは?学生さん?」

「は、はい、〇〇大学に通っている、吉野美咲と言います。よろしくお願いします。」

自己紹介をすると

「まぁ!ソメイヨシノと同じ、桜様のお世話にぴったりね!」

加藤さんは名前を言っただけなのに手を叩いて喜んでくれた。

悪い人ではなさそうだ。

三人で他愛もない話をしばらくしていると、おばあさんが立って話を始める。

皆が話を一斉にやめてシンと静まり返る。

「皆さん、今日は桜様のお手伝いに集まって下さってありがとうございます。

桜様も大変喜んでおられます。今日はこの後、皆さんの都合がよければ剪定と落ち葉拾いをお願いします。わずかですがお礼も用意しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。」

うんうんと頷く人、じっとおばあさんを見つめる人。私を含めて七人の人がそれぞれの反応を見せる。

おばあさんの話が終わると、和田さんがポツリとつぶやく。


「たかが木に。何が桜様よ。」


確かにそう言った。

聞こえないふりをして、残ったお稲荷を口に詰め込んでお茶を流し込んだ。

薄味のお稲荷は、喉に詰まりそうだった。








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