お客様三人目 ~桜のボランティア 第六話~

 黙々と作業すること一時間。

やっと庭の草取りを終えて立ち上がる。

腰と手が痛い。手の握力はもうほぼ無い。

手をブラブラを振って大きく伸びをすると、家から出て来たおばあさんが全員に声をかける。

「すっかり綺麗になって、ありがたいこと。桜様も喜んでうれしそう。

お茶入れましたからどうぞ」

「終わった終わった」

「こいつは骨が折れたな」

「お茶ですって、行きましょ!」

みな思い思いに家に入って休憩をする。

先ほどのちゃぶ台でお茶を飲みながらまた加藤さんと和田さんに挟まれて座ることになった。

(私を挟んで座らなくても・・・)

加藤さんは自分の事もよく話すし、私にもガンガン突っ込んで質問してくる。

典型的なおばさんだ・・・。

和田さんは疲れたのかむっつり不機嫌な顔をしてお茶を飲んでいる。

私を間に挟んだのはこれが理由かと、一人で納得した。

適当に話を合わせているとおばあさんが

「みなさん、今日はお疲れさまでした。

桜様ともどもお礼を申し上げます。

これが今日のお礼になります。

また、来月の日曜日どうぞよろしくお願いします。」

桜の模様の長封筒を一人一人に手渡していく。

皆ありがたそうに受け取ってそれぞれしまっているが、和田さんは封筒をひったくるように受け取ると、その場で中身を確認した。

加藤さんが、止めようとしたが既に遅し。

「はぁ?必死にやって何よこれぇ」

中身を取り出し、大きな声を上げる。

取り出したのは桜の押し花のしおりだった。

和紙に桜の押し花が貼り付けられ小さなリボンが付いている可愛らしいものだった。

「ちょっと和田さん、ここで開けるのは失礼よ、もう」

加藤さんが流石に和田さんをいさめると、

和田さんは不満そうに

「はいはい、謝礼っていうから普通期待するでしょ、ねぇ。あなたもそうでしょ?吉野さん。しおりって・・・バカにしてるんじゃありません?」

「え・・・でもあの、ボランティアですし」

しどろもどろになりながらゴニョゴニョ言うと、こいつもダメだなと言った様子で

「は~もう、やってられないわ。加藤さん、あなたがいいバイトがあるっていうから、一緒に来たのに!こんなものじゃ割に合わないわ!」

どうやら和田さんは現金が謝礼としてもらえると思っていたらしい。

加藤さんはオロオロしている。

私も少し期待していたところはあったが、そこはボランティアだし金銭を求めるのは違うのだろう。第一、この家の様子からして失礼だがお金があるとは思えない。

そもそもお金があって庭木屋を呼べるのなら、ボランティアなど募集しないのだろう。

おばあさんは少し困った顔をして、和田さんに声をかける。

「ごめんなさいね、桜様とお話して決めたのだけど・・・

庭に取れた野菜があるから、それでよければ持って行ってちょうだい」

「ふん!」

和田さんは鼻息荒く、どしどしと歩いて庭に向かって行った。

なんとなく空気が悪いまま他の参加者も帰る雰囲気になり、それぞれ帰ることになった。

玄関が狭く、靴を履くのに渋滞になっている。

私と加藤さんは最後尾に並び、今日の作業で見つけた虫の数や来月について話をしている時だった。


ドン

っという音と、続けて

ドサッ

という大きな音が庭から聞こえて私と加藤さんは顔を見合わせる。

「やだ・・・和田さん庭で暴れてるのかしら・・・」

加藤さんが不安そうな顔をする。

「まさか、何か落ちたんでしょうか・・・」


最初に靴を履いていた五十代の男性二人が様子を見に庭に向かう。

加藤さんと私も靴を履いて、男性二人の後に続こうとしたとき、


男性の一人が血相変えてこちらに走ってきた。

「大変だ!救急車呼んでくれ!!早く!!」

「ど、どうしたんですか?」

私も慌てて声をかけると


「あんた、電話持ってるか?早く!

和田さんが倒れてる!早く救急車を!!」


参加者の一人が慌てて救急車を呼ぶ。

皆で庭に向かう。

いた!!


そこには桜の木の下で頭から血を流してぐったりとしている和田さんの姿があった。

傍らには大きな桜の枝が落ちていた。



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