お客様三人目 ~桜のボランティア 第七話~
そこからは大騒ぎになった。
血まみれの和田さんを発見し、動かさないようにタオルで出血を何とかしようとする人。
救急車を案内するためにオロオロする人。
和田さんに励ましの声をかけ続ける人・・・・
私は怖かったがおばあさんの傍にいて声をかけ続けた。
「大丈夫かしら・・・」
「和田さんは大丈夫ですよ、きっと大丈夫です。」
「・・・しょうがないわよね・・桜様に失礼なふるまいをするから・・・」
「え?」
ぽつりとつぶやいたおばあさんに思わず聞き返したところで、
救急車が来て和田さんは搬送され付き添いに加藤さんが飛び乗り、
最初の大声で近所の人が警察を呼んでしまったせいで、参加者とおばあさんが事情を聴かれ、野次馬が集まり・・・・。
思い出すだけでもぐったりするような時間が流れ、すべての騒動が収まったのはすっかり夜になってからだった。
和田さんはおばあさんに言われて野菜を庭に取りに行った際、古い桜の枝が頭に落ちてきたらしい。
事故ということで話はついて、気を付けて作業するようにと警察から言われてその場は収まった。
おばあさんが心配になって最後まで残っていた私は、庭で桜を見上げる。
今日起こったこと、見たことはとてもショックだった。
和田さんが倒れていたところには、土にまだ血がついている。
(今日は古い枝をオジサマたちが落としていなかったっけ・・・)
(おばあさんは野菜があると和田さんに言っていたけど、この庭に野菜を植えている場所なんか・・・)
まだ落としきれない古い枝が残っていたのだろうか。
この庭のどこかに野菜を置いた場所があるのだろうか。
不幸な事故には違いない。ただ小さな疑問が胸をよぎった。
「今日は大変だったわね、ご苦労様。
どうぞ私は桜様がいるから大丈夫。
もう今日は帰ってゆっくり休んでくださいな」
おばあさんに声をかけられてハッとする。
「あ、はい。じゃあ、私はそろそろお暇しますね、
今日はお疲れさまでした。
和田さんのことは大変でしたけど、どうか気に病まずに・・」
「ありがとう、もしも嫌じゃなければまた来月もよろしくお願いします。
桜様もあなたをとても気に入っているから」
「はい、来月もよろしくお願いします!」
私はそう言っておばあさんに手を振り、家路に向かう。
ふと見上げると桜がざわざわと枝を揺らして私を見送ってくれているようだった。
「・・・・あの女は自業自得よ。気になんか病むもんですか」
やっと帰れると足取りが軽い私の耳には、
おばあさんのその言葉は耳には入らなかった。
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