お客様二人目 読後 家野真理
「はー疲れたー。」
読み終わった文集を右手に持って、真理は思いきり背のびをした。
どれくらい時間が経っていたんだろうか?
文集を店主に渡すと、
「いかがでした?」
とニコニコしながら感想を求めてくる。
辺りは真っ暗で、あまりに暗すぎてそっと両腕をさする。
「・・・どうって。別に。私、学校行ってないし。共感できないです。」
(学校に行っていない自分が、学校大好きな奴の話を読むのはつらかった・・・。)
とは言えなかった。
「そうですか、ま、こちらの学校は人間の学校じゃございませんので、共感できないのも無理はないですかね。」
ヒラヒラと文集を振って店主は笑う。
「人間の学校じゃない?」
店主の答えに、思わず聞き返すと
「はい、この学校は手前どもの側のでして、人間のみなさんをコレクションするためにまぎれて生徒募集をかけるんですよ。
その人の理想のガッコウに紛れておりますので、まぁ皆さん見破れません。
学校に行かれてないとのことですが、それはそれで当たりだと思いますよ。
この本の方のように額にされてしまうかもしれませんし、この方は絵になれて幸せですが、行かなければこんな目に遭わなくて済みましたし。
学校に行くことが必ずしも正解ではないのかもしれませんよ?」
店主はニッコリと微笑んだ。
「はぁ・・・そう・・・なのでしょうか、怪談映画によくありそうな話ですね。」
うつむいて足元のサンダルを見つめると店主は続ける。
「額の方から直接お伺いするのは興味深かったです。
見せてもらうのも結構苦労したんですよ。
『生徒以外に見せるもんじゃない!』なんて叱られましてね。
いやー、でも絵と会話するなんて、なかなかできるもんじゃないでしょう?
いい経験になりましたし、何より中身の学生さんは立派でした・・・」
店主はうっとりした表情で、その絵を思い出しているようだった。
「あの、これって本当の話なんですか?」
フィクションだと思っていたが、本当の話なのだろうか?
この話が?
「はい、もちろん。手前が直接聞いたままを書いておりますので。
製本も手前がやっているのですよ。
この『ホッチキス』というのは本当に便利ですねぇ。
他にも沢山の『ブンボウグ』というのを使ってみましたが、
いやー人間の発想力?技術力というのは本当に感心するばかりです。
あ、しゃべりすぎましたね。
さて、失礼ですが・・お代を頂戴させていただけますか?」
ポカーンとしたまま店主がベラベラしゃべるのを聞きながら、頭の中で必死に整理する。
人間の文房具?この人はなんなんだろう。人じゃないのだろうか?
人間じゃない?そんな現実じゃないみたいなことってあるのだろうか?
一生懸命考えていると、店主が申し訳なさそうに声をかける。
「あの・・・お客さん?」
店主の言葉にはっと我に返って慌てる。
「あ、すいません!」
お金など持って来ていない。
慌てて店主に説明しようとすると店主が続ける。
「あ、いえ頂戴するのはお金ではありませんで・・・
手前が頂戴するのは、銭ではございません。
お客さんから頂戴させていただくのは・・・・そうですねぇ・・・」
そういうと店主の男の目が淡く黄色く光り、こちらをじーっと見つめてくる。
目を通して中に入ってくるようだ・・・。
不気味に思って一歩足を動かそうと思うと、うまくいかない。
緊張で手をぎゅっと握ると、店主の目の光がすっと元に戻った。
「お会計はこちらになります。」
店主の男は嬉しそうにソロバンをパチパチとはじく。
パチパチ・・・パチン!
最後のソロバンを弾き終わる。
緊張で握っていた右手がゆっくりと店主の方に向かう。
青白いもやのようなものがかかっている。
怖くて下げようと思っても動かせない。
そのまま店主に向かって右手が持ち上がり、くるりと手のひらを向ける。
何も持っていなかったのに、手のひらには硬貨が一枚乗っていた。
外国の硬貨だろうか?不思議な色をしている。
家でも見覚えもないし、もちろん持って来た覚えもない。
「私、こんなの見たこともなくて、すいません・・・・あの・・・」
店主は嬉しそうに硬貨を見つめると
「毎度ありぃ!!」
真っ白に辺りが光り出す。
余りのまぶしさに目を開けていられない。
光がなくなりゆっくりと目を開けると、そこにはもう何もなくなっていた。
ぼろぼろの自転車も、店主の姿もそこにはなく、いつもの公園だった。
あれだけ暗くてもう夜だったのかと思ったのに、まだ夕方だ。
公園の時計を見上げると、ここに来たばかりの時間だった。
「一体・・・なんだったんだろう・・・?」
なんだか体もだるいし、テストの後のような、体育大会の後のような・・・
頭と体の疲労が半端じゃない。
公園のベンチに腰掛けると、ぼんやりとした頭で先ほどまでの出来事を思い出した。
変な店主、文集、硬貨・・・
少しだけど、店主と話したこと。
「・・・あの硬貨、なんだったんだろう。私も欲しかったな。
・・・学校に行くことが必ずしも・・・正解じゃないか・・・」
店主の言葉を思い出しながら、うーんと一つ大きく伸びをして立ち上がる。
「しょうがない、帰るかぁ。」
もう一つ大きく伸びをして家に帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます