お客様二人目 ~がっこう 第八話~
そのまま先生の授業が終わって、冬休みになった。
生活態度が悪いと、あんな風に絵にされて教材になってしまうことに僕はショックを受けた。
個人が特定される形で、絵にされてみんなに晒されることになるなんて。
本人があの場にいなくてよかったと思ったが、いなくてもあんなことはしてはいけないのでは?とも思った。
しかし、自業自得だから仕方ないとも思ったが、あの母親がN君の親だったらこんなことを望んではいないのではないかとも思った。
クリスマスも夏祭りの友人たちに誘われたが、そんな気になれなかった。
部活と、宿題と、いつも通りの日常を過ごすことが僕にとっては重要だったのだ。
二学期も成績・生活態度ともに文句なしだった。
父も母も喜んでくれて、この学校でよかったよかったと安心しきっているようだった。
ただ、もっと高校生らしく友人と遊んだりしてほしかったようだった。
「友達と出かけないの?カラオケとか行かないの?」
母は時々僕に声をかけて来たが、はっきり言って余計なお世話だった。
「いや、部活だから」
そうイライラしながら部活の道具を持って家を出た。
学校に着くと、顧問の先生がびっくりした顔で僕を見て言った。
「おや?テニス部の練習開始時間が一時間遅れた連絡入ってなかったか?」
「いえ・・・知りません」
しまった、携帯を確認してくるのを忘れた。いつもと同じだと思って来てしまったようだ。
「あーそうか・・・じゃ、オレの準備でも手伝ってもらうか。ちょっと来てくれ。」
職員室についていき、顧問の先生の手伝いをすることになってしまった。
「はい、わかりました」
「んじゃ、資料室にこれを持っていってくれるか?」
「はい、わかりました。」
そういって資料集とドサドサと渡され、フラフラしながら資料室に向かう。
いつもの時間に部活が始まらないことにイライラし、予定を確認し忘れた自分にイライラしながら資料室にで資料集を並べる。
資料室は沢山の備品がおいてある。
本、実験道具、彫像、人体模型、立体地図・・・・
その中で、沢山の額縁に入った絵画がおいてある場所があった。沢山あって、列になっている。
その列を見るだけでN君を思い出す。
なんとなく気味が悪くなってさっさとこんなところから出よう。
そう思った時、
・・・い、・・・て・・くれ
資料室の中から声がする。
飛び上がりそうなくらいビックリして辺りを見回す。
・・・助けてくれ・・・・
声は資料室の絵画の列から聞こえてくる。
そこには見覚えのある額縁のついた絵画の裏側が見えた。
恐る恐る傍により、絵画をめくってみるとそれはN君の絵画だった。
「助けてくれ・・・」
声は絵画から聞こえていた。
驚きすぎると声が出ないものなのだろうか。
絵画のN君と目が合ったまま固まっていると、
「・・・なぁ・・・助けてくれよ・・・」
絵画の中のN君が涙を流している。
正確には泣いているN君の絵画になっている。
「・・・あの・・・うぇ・・・と」
うまく言葉が出ないままいると
「ぅぅぅぅ・・助けてくれぇ・・」
N君は僕に気付いているのかいないのか、呻くように呟いている。
どうしていいかわからずに立ち尽くしていると、
他の絵からもあちこちから声がする。
「誰だ?誰かきたのか・・・・」
「説明しましょう・・・」
「はい、僕が一番です!一番です!一番です!」
「やめてくれぇやめてくれぇ」
無数の声が資料室に溢れ出す。
声が止まらず増える一方で耐えられなくなり怖くて怖くて
N君の絵画から手を離すと、一目散に資料室から飛び出した。
一体あれはなんだ?どういうことだ?N君?どうしてあそこに?
誰もいない校舎を走って走って職員室に戻ると、真っ青になって呆然とする僕に、先生が声をかけた。
「おぉお疲れさん。次はこっちの封筒にノリ付けしてくれないかー?」
何事もなかったかのようにのんきに次の作業の説明をしてくる。
「あの・・・先生・・・資料室に・・・あの・・・」
すると先生はニコニコしながら言う。
「あー資料室のみんなを起こしちゃったのか?
静かに作業しないとだめじゃないかー
大丈夫、しばらくすればおとなしくなるから。
これ、作業頼むな。」
ポンポンと肩を叩かれて次の作業を促されるも、僕の頭は真っ白で足がガクガク震えていた。
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