お客様二人目 ~がっこう 第九話~

 先生の手伝いを終えて部活が始まっても心は上の空だった。

資料室で見たあの光景が頭から離れない。足が震える。

あの絵画はいったいなんだ?生きているのか?

訳がわからない。

部活は最悪だった。ラリーも続かないし、指示は聞き漏らすし、フォームもガタガタだった。

「どうした?今日調子悪そうじゃん」

先輩の一人が部活後、心配して声をかけてくれた。

僕は思い切って資料室で見たことを一生懸命先輩に伝えると、

「あー、オレも見た。最初はやっぱり驚くよなー。

でも、やっぱりすげーよなーオレもなれるもんならなりたいよ。」

「え?」

思わず聞き返す。

「ほら、入学した時からいつも先生が言ってるだろ?

『一生懸命日々を過ごした生徒は選択肢が広がります!

”がっこう”、大学、就職、専門学校・・・』って。

オレも優秀なら”がっこう”がいいんだけどなぁそこまで成績もよくないし。

せいぜい大学がいいところだなー。」

先生の真似をしながらおちゃらけている。

先輩の言葉を頭で繰り返しながら事情を理解しようと必死になる。

進路先でそんなことを言っていた気もする。

だけど学校学校繰り返してるばかりだと思っていた。

なんだ、なんのことだ?

みんなは知ってるけど、自分は知らない。

見たこと、聞いたこと、聞いたことあるはずなのに知らないこと・・・

知ってるフリをして、先輩に尋ねる。


「あの先輩、”がっこう”って・・やっぱり興味あるんですか・・・

僕はやっぱりちょっと・・」

適当な返事をして先輩の反応を探る。

「ま、確かにな。少し抵抗はあるよなー。

額縁の”額”に”行く”と書いて額行。文字通り、額行きなんだもんなー。

額の中に入ってそのままこの学校に貢献するんだから、ある意味就職だよなー。」

先輩は空中に漢字を指でなぞるようにヒラヒラとさせながらこちらは気にしない様子だ。


先輩の返事に背中に冷や汗がどっと出るのを感じた。


学校からの帰り道、今日見たこと、先輩の話をつなげて頭を整理した。

自分には関係ないと思って聞きこぼしていたが、

この学校には特別な進路先があること。

それがどうやるのかわからないが、絵の中に入ってそのままいいも悪いもお手本として額に飾られる”額行”ということ。

手本となった額はそのまま学校の教材として扱われ、資料室で保管されること。

まだ資料室でみたことを思い出すと、足がゾワゾワする感覚になったが、理由がわかれば少し落ち着きを取り戻すことができた。


恐ろしくてたまらなかったが、他の学校にはないこの学校ならではの特色に胸が昂るのを感じながた家に着いた。


さすがは僕が選んだ学校だ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る