お客様一人目 ~イモ太 第十話~

 それから私は、ベランダのイモ太の世話を続けた。

何日かすると小さな緑の芽が出て、心底ほっとした。

イモ太が生きていると思えたからだ。


葉っぱが喋るかと思ったけど、何も起こらずただのじゃがいもの葉がしげっているだけだった。


こうして見ているとイモ太が喋っていたこと自体が夢だった気もした。

怒ったイモ太は私の妄想だったのかなとも考えた。

あんなことが起こるわけがない。


妄想だったのか?夢だったのか?


だけど、妄想だったとしても私は世話を続けた。

面倒と思うこともあったが、いつの間にかイモ太の世話は習慣になり水や肥料をやることが当たり前になった。

イモ太はしゃべらなかったけど、成長することで私に答えてくれているような気がした。

何かを続けることは、大切にしたいと思う気持ちと好きだという気持ちが大切なのかもしれない。イモ太はそれを教えてくれるためにやってきてくれたんだと思った。


やがて、イモ太は大きくなりまた葉や茎が枯れ、収穫の時期になった。


(イモ太、ありがとう。私今度はちゃんとやりとげることができたよ)

私はそう心で感謝の気持ちを伝え、シャベルで土を掘った。

前回は1つだったけど、今度は根に沿って八つほどのイモが姿を現した。

「こんなに沢山・・・・。」

前回とは違う大収穫に感動して、私は手に沢山のイモを乗せる。


すると手のひらのイモが一斉にしゃべり出した。

「ぷはー!やっと出られたぜ!よう久しぶり!遅かったな?収穫しどきは昨日だったぜ?」


「そうだそうだ!もうちょっと早くないなぁ?窒息するかと思ったぜー」

「お前さーもうちょっと土寄せしてくれないと、ほらここ、緑になってるだろ?ないわー本とかネットちゃんと書いてあることやってくれないと・・・」



私は今度はイモ太(達)に負けないくらい大声で悲鳴を上げた。



結局、前と同じイモ太、他の形の違うしゃべるイモ太(達)は三つ、しゃべらないイモが四つできた。

驚いたしびっくりしたけど、少しうれしかった。

どういうことなのか、さっぱりわからなかったけど。


その後、イモすべてを部屋に運び、

喋らないイモをイモ太(達)に食べてもいいか確認して、しゃべらないイモたちの送別会を開き、お母さんにポテトサラダにしてもらい、私の目標は達成された。

きちんと約束を守ったこと、生き物を育てることを認められてその翌週にはハムスターを飼ってもらった。


イモ太は分身が増えていつも以上にしゃべった。仲間もしゃべるのでかなりうるさい。


なぜあれから喋らなくなったのかを尋ねると、イモ太はあえて喋ることをやめショックを与えて私にもう一度世話をさせるつもりだったとゲラゲラ笑いながら答えた。

すべてはイモ太の作戦だったのだ。

生き物の基本であり最大の目標が繁殖。イモ太の目標もそれだった。


私がもうイモ太を食べないと知ると、いろいろなことを教えてくれた。

勉強、近所の噂、風の便り・・・・私はイモ太を手放せなくなった。

イモ太は私に協力する代わりに、私もイモ太に協力することにした。


今日、しゃべるイモ太の仲間をバザーに出す。


イモ太は今日もあちこちで増えている。


ーおしまいー




私は

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る