お客様一人目 ~イモ太 第九話~

 イモ太はその日の夜から喋らなくなった。

私の言い方がまずかったのだろうか。

それとも、生きることを諦めてしまったのだろうか?

喋らなくなったイモ太はハンカチの上で転がったままだ。

お母さんに渡せば、私の目標は達成されてお腹も満たされ、お母さんを一つ見返すことができる。

だけど、イモ太を渡すそれがどうしてもできなかった。


「ねぇ、何かしゃべらないの?お湯に放り込んじゃうよ?」


そう問いかけてもイモ太は何もしゃべらない。

死んだのか、生きているのかもわからない。

腐ってはいないから死んではいないのだと思う。

口だった部分もなくなってしまった。

しゃべるとうるさいのに、黙ると不思議と寂しい気持ちになった。


習い事が続かないことより、ずっともっと自分がダメなやつに感じた。

その夜、私は考えに考えてあることを決めた。



翌朝、私はベランダに出て端っこに寄せられた家庭菜園道具を引っ張り出し、

また植木鉢に土を入れ始めた。

お母さんはびっくりして、こっちを見ていたが私はそれを無視して作業を進めた。

最初にやった時よりもスムーズに手早く作業をこなし、今度はちゃんと肥料を混ぜ

いい土になるようにしてみた。


植木鉢に土を入れ終わると、真ん中を掘り私はイモ太をそっと手のひらに乗せて、

芽が出る方を上にそっと土に置いた。

「イモ太、おやすみ」

そして土をかぶせ水をたくさんやった。

私はもう一度、イモ太を育てることにしたのだ。

今度はもっと丁寧に、ちゃんと世話をすると決めて。




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