お客様一人目 ~イモ太 第五話~

 それからさらに1か月くらいすると、ベランダに出ている植木鉢から萎れているイモ太が見えた。

覚えた振り付けもあっという間に飽きちゃって、家で面白いこともなくなんとなくベランダに目がいった時だった。


(あーあ、とうとう枯れちゃったか)

この数か月よく続いた方だと思う。

ベランダに出ると、上からイモ太を覗き込んだ。


茶色くなったイモ太の茎が鉢からはみ出ていた。

ぼーっと鉢を覗いていると、お母さんが私に後ろから声をかけた。

「お!とうとう収穫なのね?よく頑張ったじゃない!」


え?


どうやら、よくわからないけどイモ太は収穫できる状態になったらしい。

まったくわからなかった。これって枯れてるんじゃないのか。


「う・・・うん」


とあいまいな返事をして、持つ予定もなかったスコップを手に取った。

「なんのおイモ料理がいいか考えておいてね!」

ウキウキしながらまたお母さんは戻っていった。

お母さんはのんきだな、そして手伝ってくれてもいいのに。

たくさん掘ってびっくりさせてやろう。


とりあえず、枯れた根元をスコップで掘ることにした。

砂場で遊んだのはいつだっただろう。

幼稚園時に使ってた私の黄色のスコップ、どこにいったんだっけ?

そんなことを考えながら掘ってもなかなか出てこない。

イモ堀りなんてしたことないんだけど、こんなに出てこないものなの?


写真や図鑑ではゴロゴロ出てくるはずなのに一個も出てこない。

学校の校庭くらいまで大きな植木鉢が地面まで続いてるような気がした。


「あーもう!」

イライラした私は植木鉢をひっくり返して土を広げながら探すことにした。

土の感触も好きじゃない。

爪に入って真っ黒になるところも、臭いも嫌。

さっさと収穫してお母さんに料理してもらって

さっさと食べて

さっさとハムスターを飼ってもらおう。


収穫の喜びよりも、この苦行みたいなお手伝いをさっさと終わらせてしまおう。


絶対爪が真っ黒になる、あ、宿題やんなきゃ・・・


なんて全然収穫に関係ないことを考えながら

両手で土をしばらくかき分けると、やっと一つだけ見つけることができた。

その後も必死に探したけど、出て来たのはそれだけだった。


私の右手のひら程度の大きさのイモが一個だけ。

形はジャガイモっぽい楕円形のような、歪んだ球体のような・・・。

イモの真ん中には、ムシに食われたような小さな穴が開いていた。

「はぁ?いっこだけぇ??しかも虫食い?」


がっかりした声が漏れ、ムシがついていないかくるくる回して確認する。

ジャガイモって、何個も取れるんじゃないの?

自分の世話のマズさを棚にあげて、心の底からガッカリした。


そんな時だった。


イモの虫食いの場所のような穴がが上下に動いて

「一個だけで悪かったね。ムシに食われたわけじゃないんだよ」

としゃべった。


図鑑には『イモがしゃべることがある』と書いてあるのだろうか。





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