お客様二人目 ~がっこう 第一話~

 その日も僕はいつも通りに登校した。

八時十五分ちょっと前に学校に到着し、八時二十分には席に着く。

二十五分にだいたいいつもと同じ友達が話かけてきて、先生がいつも通りに三十分に教室に入ってくる。いつものクラスメイト四十名。いつもの担任の先生。

(よし、今日も時間ぴったりだ)

すべていつもと同じ僕の一日は今日も調子がよさそうだ。


僕がこの学校を選んだ理由は、厳しい校則で有名な学校だからだ。

自由でなんでも好きにしていい校風より、断然こちらの方が僕には合っている。

時間割、制服、髪型、持ち物・・・・

学校見学の際にすべてが四角四面でカッチリと決められていることに僕はひどく感激して、(絶対ここにする)と強く心に誓った。

父や母はこの学校のあまりの校則の厳しさに、

「もっと自由な学校にしたら?」

「せめて髪型くらいは自由なところにしたら・・・」

なんて言ってたけど、そんなのはまっぴらで、絶対にこの学校がいいと僕は心に決めた。

僕は自由に・・・と言われることが苦手だ。

図工も音楽も創作ダンスも、

『好きにやってみましょう』

なんて言われると頭が真っ白になって結局何もできくなってしまう。

自由は不自由で僕にとっては不安しか生み出さない。

自由にやれと言われて出来上がるものは、

『・・・もっと大きく描けばいいのに』

『もっと大きな音でハキハキやればいいのに』

『硬すぎて、動きが弱弱しいね・・・・』

なんていう、ダメな評価ばかり。

僕は自由からはマイナスしか生み出せないのだ。


だけど、数学や理科のようにはっきりと答えがわかっている問に答えること、

『こうしましょう』と決まっていることに倣って従うことは、

なんて言えばいいのだろう、ピースがぴったりはまるような安心感と満足感を僕に与えてくれる。

高校進学という選択肢を与えられるなら、僕は自分に合う学校に通いたいと素直に思う。だからこそこの学校を選んだのだ。


内申・学力ともに申し分ないとのことで、僕は晴れてこの学校に入学しそろそろ三か月が経とうとしている。

カッチリした学生服に、真っ白いワイシャツ、指定靴に指定カバン、指定の色の靴下に指定された色の学習用品・・・。

一例はシャープペンはNG,鉛筆を使用すること。

消しゴムは白、キャラクターNG、ちょっとでも落としてしまったらもう誰のものか区別がつかなくなるであろうと思うと僕はちょっと笑えた。

落とし物防止の名前を書く位置まで事細かに決められていることだった。

名前を書くのを手伝ってくれた母がその細かさにうんざりして言った。

「消しゴムの名前を書く位置は、

『面積の多い面に一か所のみ、名前の大きさが面の半分を占めないようにすること』ですって・・・。

何よこれ・・・はぁ・・・なんでもどこでもいいんじゃないの?」

「母さんはなんでも大雑把だからそんな風に思うんだよ。

僕もその方がいいと思うよ、ちゃんとその通りに書いてくれてるよね?」

「・・・はいはい、ちゃんとやってますよ」


うわさではあまりの厳しさに志願者が全然いないなんて話だったけど・・・。

そんなこと、僕には全く問題にならなかった。

この全てカッチリ決まっているこの学校生活を僕は痛く気に入っていた。

まぁそんな僕でも一つ驚いたことがあるとすれば、髪型も指定されていて

『男子生徒は丸刈り、女子生徒はオカッパであること。』

これには最初ギョっとして少し抵抗があって恥ずかしかったけど、やってしまえばすぐに慣れた。母は涙ぐんでいた。父はなんとも言えない顔だったけど。

今は短い方が楽でいい。

規律を守ってさえいれば何も言われないこの環境に僕は満足していた。



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