第5話―1 来訪


 なんだこれは?何が起きた?


 ここは火山だったはずだ。


 その火山がなんで凍ってるんだ?


 あいつか?あいつがやったのか?


 奥には凍った竜種の姿も見える。


 俺の目の前には、これをやったと思われる張本人がいる。


 これが本当の魔王の力か。やってくれるじゃねえか。





 新世界で迎える2回目の朝。今日は開拓の現場へと行く日だ。


 俺は窓から差し込む光で目が覚める。


 二階の寝室から一階に降りると、なにやら良い匂いがする。


 結構早く起きたのに、俺より早いとは殊勝な者がいたものだ。


 キッチンを覗くと、カナタがいた。


「おはようございます、主様。」


「おはよう、カナタ。」


 カナタと朝の挨拶を交わす。


「朝ごはんができるまで、あともうちょっとかかるので、ちょっとだけ待っててくださいね。」


「ああ、ありがとう。じゃあ少し散歩でもしてくるよ。」


 ゼリオス様の家から出て、特に目的地を決めずに歩きだす。


 ゼリオス様の家には現在、ゼリオス様と俺とカナタが住んでいる。


 トーマスさんはゼリオス様の家に部屋もあるのだが、開拓の現場近くに家族と一緒に住んでいるそうだ。


 開拓って具体的に何をやってるんだろう?


 言葉のイメージ的には、木を切り倒して、人が住めるような村を作る感じかな?


 でも、ここは魔法が存在する異世界。


 魔法でポンッ!て感じでやっちゃうのかな?


 魔法か。……魔力の制御ってどうやるのかな?


 昨日は、魔力が暴走して、みんなに迷惑をかけたな。


「……俺、役に立てるのかな?」


 俺は景色も見ずに、ネガティブな思考の渦に嵌まっていく。


 昔もこんなことよくあったな。


 そういう時は、どうしたんだっけ?


 最近だと同期の吉山が励ましてくれたか。


 励まし方は微妙だったな。


『お前の悩みは小っちぇえ。いいか、俺を見ろ。こんなダメ人間に比べれば、お前の方がマシだろ?まあ、ウジウジと悩んでいるお前の方が今はダメ人間だがな。……お前は幸運な人間だよ。こうやって誰かが励ましてくれるんだからな。』


 居酒屋で延々と説教みたいな事を言われたな。


 俺は日本での出来事を思い出し、昨日の風呂での出来事を思う。


 そうだな。……カナタにもあれだけ言われたじゃないか。


 明るくいこう!


 いつかきっと出来るさ。俺は魔王なんだから。



 俺は気持ちを切り替え、歩きながら妄想し始める。


 アイ、アム、魔王!


 ふっふっふ、勇者よ。娘は我輩がもらっていく。


 返してほしければ、我が魔王城へと来るんだな。はっはっは。


 ぬ、勇者め来たか。


 なぬ、この我輩が負けるだと。


 ああ、勇者の剣が輝き、眩しい。


 ああ、眩しいー!


 ん、眩しい?


 俺は眩しいくらいに光輝く、拳大程の大きさの虹色の石を見つけた。


「きれい。」


 おお、あまりの輝きに、少女のような感想を漏らしてしまったよ。


「この石は一体何だろうな。」


「ふむ、それはフィロシオン鉱石じゃな。」


 独り言を言ったつもりだったが、誰かが俺の独り言に返事をしてきた。


「うぉぉぉ!ゼリオス様、いたんですか?」


「うむ、おるぞい。わしが日課で手入れしておる花畑に、お主が考え事をしながら入ってきた時からのぅ。」


 石を拾い辺りを見回すと、いつの間にか光輝く不思議な花畑にいた。


「この花畑はゼリオス様が。どうりで。……それで、このフィロなんちゃら鉱石とは何なんですか?」


「うむ、それはじゃな、持ち主の魔力に反応する石でのぅ、主に魔力の適正を見るときに使われるかのぅ。」


「へぇー。魔力の適正か。」


 俺は光輝く虹色の石を見ながら、期待に胸を膨らませた。


――俺には、どんな適性があるのかな。魔力とか魔法とか、よくわからないけど、これで何かが変わると良いな。


「うむ、家に帰ったらやってみるかのぅ。」


「はい、是非お願いします。」


――昨日みたいな失敗はしたくない。今日こそは役に立てるよう頑張らなければ。


「ほっほっほ。良い顔じゃ。」


 俺の心境の変化を感じ取ったのか、ゼリオス様も嬉しそうな顔をしていた。


「さて、そろそろ家に帰るかのぅ。カナタが待っとるはずじゃ。」


「そうですね。」


 俺達はゼリオス様が育てている不思議な花畑を後にし、話ながら家へと帰った。





「きゃー!」


 ゼリオス様の家に近づくと食堂から女性の悲鳴が聞こえた。


 俺は勢いよく家の食堂へと飛び込む。


「カナタっ!どうしたっ!」


 食堂に入ると二メートル程ありそうな背の高い化け物の後ろ姿が見えた。


 その化け物は背中に金色の翼が生え、頭部が巨大な虹色のマリモ。


 背中や腕、足には毛がなく、褐色の地肌が見えている。


 化け物は人から奪ったのかピチピチの服を着ていた。


 ホットパンツのようなものからは、サスペンダーが肩に伸びている。


 俺は冷や汗が落ちるのを感じながら、化け物の動きを待つ。


 化け物がこちらに気づいたのか、振り向いた。


「あらっ!こっちにもかわいい子、見っけ!」


 何か精神攻撃をくらったかと思うような、悪寒が体を駆け巡る。


 俺は恐怖のあまり、腰が砕け、その場に座り込んでしまった。


――ああ、もうダメだ。きっとカナタは既にこいつの胃袋の中だ。俺も……。


「あ、主様、お帰りなさい!」


 カナタが化け物の後ろから、ひょこっと顔を出す。


「あるじさま?……お名前はなんて言うのかしら?。……?どうしたの?」


 震えている俺に、化け物が優しい言葉をかけてきた。


「おお、ミランダ。久しぶりじゃないか。息災か?」


「あーん、パパ。会いたかったわ。」


 ゼリオス様が食堂に入ってくると、化け物と仲良さげに話している。


――あれ?どういうこと?





「改めまして、ミランダよ。ミラさんって呼んでね!朝食美味しかったわ。カナタちゃんありがとう。ハルカちゃんもよろしくね。怖がらせちゃってごめんなさいね。」


 俺達は、あの後、朝食が冷めてしまうということで、ミランダさんも入れて4人で朝食を食べた。


 化け物の正体はゼリオス様の娘?息子?のミランダさんだった。実の家族ではなく、ゼリオス様のことを父と慕っている関係だそうだ。


 二メートルの巨漢、頭はミラーボールのような虹色のアフロヘアー。


 すべすべな褐色の肌にピチピチなホットパンツとサスペンダー。


 金色の翼はコスチュームだったのか、今は降ろしている。


 化け物扱いしてごめんなさい。でも、強烈キャラ登場に驚愕しております。


「いえ、こちらこそすみません。……勝手に勘違いしちゃって。」


「ほっほっほ。して、ミランダ。お主が来るとは珍しい。何かあったのかのぅ。」


 ゼリオス様が、訝しげにミランダさんに訊ねた。


「……。……パパ。何か用事が無いと来ちゃダメなの?せっかく会いに来たって言うのに。」


 ゼリオス様の態度を見たミランダさんは、頬をプクッと膨らませて、反論した。


「……そうか。ありがとう。(――お主は昔から鋭いところがあるから、何かあったんじゃないかと思ったが杞憂じゃったか。)」


 ゼリオス様は素直に感謝の言葉を述べたが、まだ何かを思っていそうな顔をしていた。


――そういえば、さっきの悲鳴って結局何だったんだ?


「さて、カナタちゃん!さっきの続きやるわよ!」


「はい!お願いします!」


 カナタは立ち上がりやる気満々だ。


「パパ、ハルカちゃんもやっちゃって良いかしら?」


 ミランダさんが何故か俺の名前を出して、ゼリオス様に許可を求めた。


「うむ。わしは書斎で仕事をしておるから、終わったら声をかけてくれるかのぅ。この後、ハルカ達と用事もあるのでな。」


 ゼリオス様はそう言うと食堂から出ていった。


「じゃあ、ハルカちゃん!行きましょうか!」


 俺はミランダさんに担ぎ上げられ、部屋を移動するのだった。


――えっ?ちょっと待って、何をするの?説明ぷり~ず!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る