第5話―1 来訪
なんだこれは?何が起きた?
ここは火山だったはずだ。
その火山がなんで凍ってるんだ?
あいつか?あいつがやったのか?
奥には凍った竜種の姿も見える。
俺の目の前には、これをやったと思われる張本人がいる。
これが本当の魔王の力か。やってくれるじゃねえか。
◇
新世界で迎える2回目の朝。今日は開拓の現場へと行く日だ。
俺は窓から差し込む光で目が覚める。
二階の寝室から一階に降りると、なにやら良い匂いがする。
結構早く起きたのに、俺より早いとは殊勝な者がいたものだ。
キッチンを覗くと、カナタがいた。
「おはようございます、主様。」
「おはよう、カナタ。」
カナタと朝の挨拶を交わす。
「朝ごはんができるまで、あともうちょっとかかるので、ちょっとだけ待っててくださいね。」
「ああ、ありがとう。じゃあ少し散歩でもしてくるよ。」
ゼリオス様の家から出て、特に目的地を決めずに歩きだす。
ゼリオス様の家には現在、ゼリオス様と俺とカナタが住んでいる。
トーマスさんはゼリオス様の家に部屋もあるのだが、開拓の現場近くに家族と一緒に住んでいるそうだ。
開拓って具体的に何をやってるんだろう?
言葉のイメージ的には、木を切り倒して、人が住めるような村を作る感じかな?
でも、ここは魔法が存在する異世界。
魔法でポンッ!て感じでやっちゃうのかな?
魔法か。……魔力の制御ってどうやるのかな?
昨日は、魔力が暴走して、みんなに迷惑をかけたな。
「……俺、役に立てるのかな?」
俺は景色も見ずに、ネガティブな思考の渦に嵌まっていく。
昔もこんなことよくあったな。
そういう時は、どうしたんだっけ?
最近だと同期の吉山が励ましてくれたか。
励まし方は微妙だったな。
『お前の悩みは小っちぇえ。いいか、俺を見ろ。こんなダメ人間に比べれば、お前の方がマシだろ?まあ、ウジウジと悩んでいるお前の方が今はダメ人間だがな。……お前は幸運な人間だよ。こうやって誰かが励ましてくれるんだからな。』
居酒屋で延々と説教みたいな事を言われたな。
俺は日本での出来事を思い出し、昨日の風呂での出来事を思う。
そうだな。……カナタにもあれだけ言われたじゃないか。
明るくいこう!
いつかきっと出来るさ。俺は魔王なんだから。
俺は気持ちを切り替え、歩きながら妄想し始める。
アイ、アム、魔王!
ふっふっふ、勇者よ。娘は我輩がもらっていく。
返してほしければ、我が魔王城へと来るんだな。はっはっは。
ぬ、勇者め来たか。
なぬ、この我輩が負けるだと。
ああ、勇者の剣が輝き、眩しい。
ああ、眩しいー!
ん、眩しい?
俺は眩しいくらいに光輝く、拳大程の大きさの虹色の石を見つけた。
「きれい。」
おお、あまりの輝きに、少女のような感想を漏らしてしまったよ。
「この石は一体何だろうな。」
「ふむ、それはフィロシオン鉱石じゃな。」
独り言を言ったつもりだったが、誰かが俺の独り言に返事をしてきた。
「うぉぉぉ!ゼリオス様、いたんですか?」
「うむ、おるぞい。わしが日課で手入れしておる花畑に、お主が考え事をしながら入ってきた時からのぅ。」
石を拾い辺りを見回すと、いつの間にか光輝く不思議な花畑にいた。
「この花畑はゼリオス様が。どうりで。……それで、このフィロなんちゃら鉱石とは何なんですか?」
「うむ、それはじゃな、持ち主の魔力に反応する石でのぅ、主に魔力の適正を見るときに使われるかのぅ。」
「へぇー。魔力の適正か。」
俺は光輝く虹色の石を見ながら、期待に胸を膨らませた。
――俺には、どんな適性があるのかな。魔力とか魔法とか、よくわからないけど、これで何かが変わると良いな。
「うむ、家に帰ったらやってみるかのぅ。」
「はい、是非お願いします。」
――昨日みたいな失敗はしたくない。今日こそは役に立てるよう頑張らなければ。
「ほっほっほ。良い顔じゃ。」
俺の心境の変化を感じ取ったのか、ゼリオス様も嬉しそうな顔をしていた。
「さて、そろそろ家に帰るかのぅ。カナタが待っとるはずじゃ。」
「そうですね。」
俺達はゼリオス様が育てている不思議な花畑を後にし、話ながら家へと帰った。
◇
「きゃー!」
ゼリオス様の家に近づくと食堂から女性の悲鳴が聞こえた。
俺は勢いよく家の食堂へと飛び込む。
「カナタっ!どうしたっ!」
食堂に入ると二メートル程ありそうな背の高い化け物の後ろ姿が見えた。
その化け物は背中に金色の翼が生え、頭部が巨大な虹色のマリモ。
背中や腕、足には毛がなく、褐色の地肌が見えている。
化け物は人から奪ったのかピチピチの服を着ていた。
ホットパンツのようなものからは、サスペンダーが肩に伸びている。
俺は冷や汗が落ちるのを感じながら、化け物の動きを待つ。
化け物がこちらに気づいたのか、振り向いた。
「あらっ!こっちにもかわいい子、見っけ!」
何か精神攻撃をくらったかと思うような、悪寒が体を駆け巡る。
俺は恐怖のあまり、腰が砕け、その場に座り込んでしまった。
――ああ、もうダメだ。きっとカナタは既にこいつの胃袋の中だ。俺も……。
「あ、主様、お帰りなさい!」
カナタが化け物の後ろから、ひょこっと顔を出す。
「あるじさま?……お名前はなんて言うのかしら?。……?どうしたの?」
震えている俺に、化け物が優しい言葉をかけてきた。
「おお、ミランダ。久しぶりじゃないか。息災か?」
「あーん、パパ。会いたかったわ。」
ゼリオス様が食堂に入ってくると、化け物と仲良さげに話している。
――あれ?どういうこと?
◇
「改めまして、ミランダよ。ミラさんって呼んでね!朝食美味しかったわ。カナタちゃんありがとう。ハルカちゃんもよろしくね。怖がらせちゃってごめんなさいね。」
俺達は、あの後、朝食が冷めてしまうということで、ミランダさんも入れて4人で朝食を食べた。
化け物の正体はゼリオス様の娘?息子?のミランダさんだった。実の家族ではなく、ゼリオス様のことを父と慕っている関係だそうだ。
二メートルの巨漢、頭はミラーボールのような虹色のアフロヘアー。
すべすべな褐色の肌にピチピチなホットパンツとサスペンダー。
金色の翼はコスチュームだったのか、今は降ろしている。
化け物扱いしてごめんなさい。でも、強烈キャラ登場に驚愕しております。
「いえ、こちらこそすみません。……勝手に勘違いしちゃって。」
「ほっほっほ。して、ミランダ。お主が来るとは珍しい。何かあったのかのぅ。」
ゼリオス様が、訝しげにミランダさんに訊ねた。
「……。……パパ。何か用事が無いと来ちゃダメなの?せっかく会いに来たって言うのに。」
ゼリオス様の態度を見たミランダさんは、頬をプクッと膨らませて、反論した。
「……そうか。ありがとう。(――お主は昔から鋭いところがあるから、何かあったんじゃないかと思ったが杞憂じゃったか。)」
ゼリオス様は素直に感謝の言葉を述べたが、まだ何かを思っていそうな顔をしていた。
――そういえば、さっきの悲鳴って結局何だったんだ?
「さて、カナタちゃん!さっきの続きやるわよ!」
「はい!お願いします!」
カナタは立ち上がりやる気満々だ。
「パパ、ハルカちゃんもやっちゃって良いかしら?」
ミランダさんが何故か俺の名前を出して、ゼリオス様に許可を求めた。
「うむ。わしは書斎で仕事をしておるから、終わったら声をかけてくれるかのぅ。この後、ハルカ達と用事もあるのでな。」
ゼリオス様はそう言うと食堂から出ていった。
「じゃあ、ハルカちゃん!行きましょうか!」
俺はミランダさんに担ぎ上げられ、部屋を移動するのだった。
――えっ?ちょっと待って、何をするの?説明ぷり~ず!
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