第20話―2 勧誘


――俺の答えは決まっている。

 

「その誘い、断らさせてもらう!」

 

「えっ?」 ガウ! 「流石ハルカ様!」 《そうだ!》 「嗚呼、美しい。」


 俺の仲間達は、こいつらをよく思っていなかったのか、俺の出した答えに賛成の反応を見せた。


 対してユヴィーは、予想外の答えが来たからか、驚き、ワナワナと震え始めた。

 

「そう。……私の誘いを断るんだ。……そっか~。もうどうなっても知らないからね。……ジーチ!計画の実行よ。」


 ユヴィーは紫電の魔術師ことジーチに詰め寄り、妄想の世界にいるジーチを呼び戻す。


「ユヴィー。いたのか。……おっともうこんな時間か。ユヴィー、計画を進めよう。」


 ジーチは夢から覚めたように、動き始めた。

 

「うふふ。あなた達が悪いのよ。……本当はこんな手段とりたくなかったのに。」


 ユヴィーが何やら意味深なことを呟く。

 

「……美しい街だ。……知っているかい?本当に一番美しいのは散る瞬間。その儚さは永遠の美となり、私の心に刻み込まれる。……勇敢な者よ、私にその美しさを見せてくれ。」


 ジーチが目の前に魔方陣を展開させる。


 その魔方陣は紫色に輝き、溢れる魔力が電気のようにバチバチと魔方陣を駆け巡る。


「美しき調。《ジャッジメント・グラビティ》」


《相棒!空だ!》


 ダマブアの遥か上空に、隕石が現れ、街に向かって落下しているのが見えた。


「うふふ。これから辺り一面に流星群が降ってくるわ。……最後通告よ。私達と一緒に来ない?……ジーチの魔法は、もう止められないわ。……このままあなた達が残っても無駄に死ぬだけだわ。」


「主様っ!」


 ユヴィーの煽りに、カナタも不安そうな顔をして、俺を見つめてくる。

 

《相棒!どうする!あの規模の魔法はやべぇ。あいつの言う通り、街を救うどころか、死んじまうかもしれねぇ。……死んだらゼリオスの爺さんの所には戻れねえ。……俺は相棒を死なせるわけにはいかねえんだ。……。……あいつの誘いに乗るのも悪い手じゃないかもしれねぇ。》


――くっ!……俺の命だけじゃない。カナタやガルアの命もかかっているんだ。……ネビュラスの言うように、一旦あいつらに従っておいて、隙を見てゼリオス様の所に逃げ込むか?……ダマブアの人達は良い人が多かったけど、今日知り合っただけじゃないか。……何も自分達を犠牲にしてまで救う程じゃない。


 俺が悩み始めたのを見たユヴィーがたたみかける。

 

「うふふ。(――誘惑の魔法も効いてるみたいね。あともう少しかしら。)……世界の管理者は、新しい世界を作るときに、旧世界の生き物を輪廻の輪に戻して新しい生き物として転生させるの。記憶は失われ、魂と魔力だけが回収される。世界は、世界の管理者に都合の良い風に作り替えられるのよ。……こんなことを言いたくはなかったのだけど、あなたがここで死んでも世界の管理者はなんとも思わないわ。犬死によ。……そんなズルい世界の管理者、神は打ち倒すべきなの!!さあ、一緒に行きましょう。世界の平和を実現するために!!!」


 ユヴィーが何度目となるかわからない演説を行った。

 

――ゼリオス様がズルい?……そんなこと考えたこともなかった。神様だから盲目的に信じてしまっていた。……何が正しいんだ。……誰が正しいんだ。……わからない。


 

「主様っ!ダマブアがっ!」

 

 カナタの声を聞き、ダマブアの街を見ると、隕石がダマブアの街に落下した。


 隕石はダマブアの街を押し潰したが、街の端だったため、被害は大きくなさそうだった。


ギュルアー!


 ガルアが空を飛び、ダマブアの街に落下してくる隕石を弾き飛ばし始めた。


「……ガルア。……お前。」


 勇敢に隕石に立ち向かうガルアの姿が目に映る。

 

《……相棒。……すまねえ。……肝心なときに役に立たなくて。……俺は……。……相棒、決めてくれ。俺達は相棒の指示に従う。》


 ガルアの戦う姿を見たネビュラスは、何かを思ったのか、珍しく謝罪の言葉を口にした。

 

――そう……だな。……みんな、ごめん。目が覚めたよ。……俺は、……俺達は、この街を、この世界を救うために来たんだ。……ゼリオス様が悪だって?……ふざけんな。……あんな優しくてスケベなじじいが悪なわけあるか!!!


 俺は覚悟を決める。

 

「ユヴィー!ジーチ!……俺は、俺達は、お前達には屈しない!あの隕石もお前達も纏めてぶっ潰してやる!!!」


「うふふ。そう。……残「それでこそ勇敢なる者!君の、君達の美しさは永遠となる!嗚呼、今日は、なんて美しいんだ!」


 ユヴィーの言葉を遮ったジーチが初めてハルカに返答した。

 

「ちょっと!私が言いかけてたじゃない!邪魔しないでよ!」


 ユヴィーがジーチに不満の声を上げるが、ジーチは聞いていなかった。

 

「君達の美しさは私の心に刻み込まれる!!」


 ジーチが紫色の光を発し、消えた。


「ちょっと、勝手に行かないでよ。……まあいいわ。あなた達のことは残念だったけど、本来の目的は達成したわ。…………じゃあ、精々頑張りなさい。」


 ユヴィーもジーチの後を追うように消える。

 

――逃げられたか。……本来の目的。……くそっ、最後に意味深な発言をしやがって。


《ああ。……だがあいつらがおとなしく帰ってくれて助かったぜ。隕石もどうにかなるかわからないのに、その後にあいつらと戦うのは無理ってもんだ。》


――まあ、そうだな。……さて、ラストバトルといきますか。


 

「カナタ。……心配させて悪かったな。」


 隣にいるカナタに声を掛ける。

 

「いえ。主様なら、ダマブアを救おうとするってわかってましたから。」


「そうか……。」


――カナタは俺のことを信じてくれていたようだな。不甲斐ない主で申し訳ない。

 

「主様。私達もダマブアの街に急ぎましょう。」


「ああ。」


 俺は街へ急ぐため、カナタをお姫様だっこする。


「ちょちょちょ、ちょっと、主様、何をしているのですか?」


「え?だって、こうした方が速いだろ。ほら、行くぞ。そりゃあ!」


 空間魔法を使い宙を駆ける。


「うわわわ、あ、あ、主様。下ろしてくださーい!」


 カナタが何やら言っているが、柳に風と受け流す。


「あははは。もっととばすぞ。しっかり掴まっておけよ。」

 

 身体強化魔法を重ね掛けし、急ぎダマブアの街へ。


「いやああああぁ!!!」

 

 カナタの悲鳴がこだまする。

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