第20話―1 勧誘


 各地で魔物との戦闘が進み、それぞれの場所で勝利を収めた俺達は、残り少なくなった魔物を掃討していた。


「おりゃっ!……ふう、こんなものかな。」


 額の汗を拭いながら、戦場を眺める。


《相棒!お疲れさん!もう魔物はほとんど残っていねえな。……僅かに残ったやつらも逃げたり隠れたりしているようだぜ。》


「そうか。なんだかんだ、あっという間だったな。」


 

ギュルアー!


 ガルアの声のする方を見ると、ガルアが逃げる魔物に止めを刺していた。


《チビ助も久しぶりに羽を伸ばせて、良かったな。》


「ああ、そうだな。」


 ガルアは大きいから、魔物と戦っている途中でも、目に入っていた。


 まあ、なんというか、流石に竜なだけあって、一方的に蹂躙していた光景しかなかったが。


「主様~!……私もいっぱいやっつけましたよ~!」


 少し遠くからカナタが走ってきた。


 カナタは何故か黒い外套を纏い、左肩には白い狼の頭のような装飾をつけていた。

 

 外套は、元々そういう生地なのかボロボロだが、他の衣服にはダメージは無さそうだ。


《カナタの嬢ちゃんも戻ってきたな。ん?あの格好は。……お色気担当は相棒になっちまったようだな。》


――まだ言うか。


「カナタもお疲れ様。……どうしたんだ。その格好は?」


「あ、主様もお疲れ様です。……ええと、私の新しい魔法です。」


 カナタと合流し、互いに労い、魔物との戦闘の話をする。


 

「へぇ。新しい仲間か。今度、紹介してくれよ。俺はカナタの主なんだからさ。」


「あ、はい。……。(ワンダーちゃんとホーネット卿さんを紹介しそびれてしまいました。また、今度ですね。……戦闘も終わったようなので二人にも一度戻ってもらいましょう。……っと、戻れ!愚陽、庸陰。)」


 

ドスンッ ギュルアー!


 俺とカナタが戦闘を終わらせたのを見たガルアが戻ってきた。


 ガルアの着地の衝撃で砂が舞い上がる。


「うぉっ!ガルアも戻ってきたか。ガルアもお疲れ様。大活躍だったな。」


ギュルアー!ギュルアー!ギュルアー!

 

 ガルアもいろいろあったのか、何かを表現するようにドシンドシンと動きながら、俺達に説明していた。


「ふふ。ガルアちゃんは、まだまだ元気いっぱいですね。」


 ガルアの動きを見たカナタも喜んでいた。

 

「さて、ダマ魔王のところに戻るとするか。」


「そうですね。もうお夕飯の時間を過ぎてますし、お話が終わったら、すぐにゼリオス様のお家でご飯にしましょう。」


 ダマ魔王の待つダマブアの宮殿へ向けて歩き始める。

 

 カナタにご飯と言われ、急にお腹が空き始めた。


――何かに夢中になっているときって空腹を実感しないんだけど、ご飯の臭いだったり、ご飯を意識したりすると、急に空腹を実感するのって、なんなんだろうな。不思議だな~。


 空腹の不思議について考えていると、後ろから拍手のようなものが聞こえてきた。



 

パチパチパチパチパチ

 

 後ろを振り向くと、紫色の光が見え、その光から怪しげな男が現れた。


「っ!何者だ!」


 カナタとガルアも気付いたのか、隣で男のことをじっと見て警戒している。


「美しい。実に美しい。……君達のおかげで彼らはとても美しく散っていった。」


 怪しげな男は魔術師のような黒ずくめの格好をしているが、フードを目深に被っているため顔は見えない。

 

《相棒!気を付けろ!こいつは本当にヤバイ。……おそらく神か神に近い存在だ。》


――なにっ!


「……散っていった?……その紫の光。……お前が魔物を仕向けたのか!?」


 こいつが魔物を操っていた犯人に違いないと確信づけ、問いかける。


「おっと、そうだ。自己紹介がまだだった。私はジーチ。……紫電の魔術師とも呼ばれている。美しいものに目がない。」


 ジーチがこちらの話に耳を傾けずに名乗り出た。


「っな!」


《紫電の魔術師だとっ!》


 ガルアとカナタも相手が相当にヤバイのを感じとっているのか、騒がずにじっと警戒している。


「ジーチと言ったな。……お前の目的は何なんだ。何故、ダマブアを襲う?」


「……美しい街だ。……もっとよく見せておくれ。」


 ジーチがフードを下ろし、素顔を晒す。


 その素顔は、紫とも桃色とも見えるような長髪、整った中性的な顔立ちの男だった。


 フードを外したことで、高めの身長、顔の肉付きから太ってはいないことがわかる。

 

「……。」


《こいつ、相棒のことを無視している?……さっきから全く話が噛み合っていないぞ。》


 

「うふふ。どうやら困っているようね。」


 どこからともなく声が聞こえ、真っ白な少女が現れた。


 その少女は見た目五才くらいで、白い長い髪と雪のように白い肌、白い着物が特徴的だった。


「突然の挨拶、ごめんなさいね。私はユヴィー。光の子とも呼ばれているわ。」


「っ!(――また敵か?……着物を着ている?)」


《相棒!こいつもヤバイぞ!……光の子。どこかで聞いたな。》


――確かメル婆が何か言っていた気がする。……こいつも紫電の魔術師の仲間か?


「うふふ。そう警戒しないで。あなたにお話があって来たの。」


 ユヴィーが前に歩み出ながら、俺に向かって言葉を続ける。

 

「あなたよね。新しい神の弟子って。……ちょっと会って欲しい人がいるんだけど、一緒に来てもらえないかしら。」


「嗚呼、月と街。……なんて幻想的なんだ。」


 ジーチは自分の世界に入ったまま、こちらの会話には気付いていない。


――神の弟子ということがバレている。……やはり、こいつらは神クラスなのか?……そんな奴らが何のためにここにいるんだ?……俺に付いて来いと言っているが、……ネビュラス、どう思う?


《相棒!一回落ち着こうぜ。……こいつらの目的はまだわからないが、信じて良い相手ではなさそうだ。……そして、本物かどうかわからないが、紫電の魔術師。こいつが魔物を操っていた犯人だと思うが、まだそうとも言い切れない。もし、紫電の魔術師が悪なら、この白い子供も悪だ。付いていくのは危険だ。……だから、いくつか質問をして、こいつらを見極める必要がある。》


――……。そうだな。助かった、ネビュラス。


「ねえ、あなたも話が通じない訳じゃないわよね。返事をして欲しいんだけど。」


 ネビュラスと相談するため、沈黙していた俺に、ユヴィーが不安そうな顔で問いかける。


「ああ。……いくつか質問をしたい。」


「そう、質問。……いいわ、答えられることなら答えてあげるわ。」


 ユヴィーはめんどくさそうに答えた。


「まず、その男。そいつは本物の紫電の魔術師なのか?」


「さあ。……私達の間では紫電の魔術師って呼ばれているけど、本物かどうかは知らないわ。……逆にあなたは本物の紫電の魔術師を知っているの?……この質問に意味なんて無いわ。」


 ユヴィーの言う通り、俺達は紫電の魔術師のことをほとんど知らない。


 知っていることといえば、ダマブアで聞いた噂くらいだ。


 俺達が勝手に紫電の魔術師を最終目標に設定していたため、本物か偽物かについて質問をしてしまったが、ユヴィーの言うように、この質問には意味がなかった。


 そうです。と言われても、違う。と言われても、俺達には判断のつけようがないのだ。

 

「くっ。……次は、その男が魔物を操って街を襲わせたのか?」


「……。そうね。私もそれは詳しくはわからないんだけど、半分正解で半分違うかしら。……あなたが言う魔物っていうのは、あなた達が戦った魔物全てでしょ。ジーチが操っていたのは、強化個体の魔物だけのはずよ。沢山いた雑魚はこの世界の魔力異常が原因じゃないかしら。……まあ、あなた達が倒したおかげで、この世界の魔力異常は、幾分かマシになったようね。」


 ユヴィーは長い説明をする前に、白い木製の椅子をどこからか取り出し、それに腰掛けて話し始めた。


《今の話でいろいろとわかったことがあるな。……相棒、そのまま続けてくれ。》


「……ジーチは何故、強化個体?の魔物を操って街を襲わせたんだ?」


「うーん。そうねえ。どう答えようかしら。……。……あなたを連れていく前に、あなたの力を見たかったって言ったら信じてくれるかしら?」


 ユヴィーは少し考えた後、笑いながら理由を言った。


《相棒、詭弁だ。……嘘ではないかもしれないが、力を見たかったのなら、もっとやり方があるはずだ。》


――ああ、こいつの答えには誠意が無い。相手を馬鹿にしている感じがする。


「うふふ。質問は終わりかしら?……あなたの答えを聞かせて欲しいわ。あっ!もちろん、あなたの従者やペットのドラゴンちゃんも連れてきて構わないのよ。」


 ユヴィーがカナタとガルアを見回しながら、返答を迫ってきた。

 

「……他にも仲間がいる口ぶりだが、お前達は何をする気だ?」


「まだ質問するの?……はぁ。……本当は仲間にしか話しちゃいけないのだけど、特別に教えてあげるわ。…………私達の目的は世界平和よ!この世界も壊れかけているのだけど、他にももっと沢山、大変なことになっている世界があるの。……だから、私達は力を集めて、壊れかけた世界を救うために管理者から世界を取り戻そうとしているの。……具体的な方法は、流石に言えないわ。」


――世界平和か。大きく出たもんだな。


《管理者から取り戻すねぇ。……危険な匂いがプンプンするな。》

 

「うふふ。さあ、どうするの?……私達と一緒に世界を救う勇者になってみない?」


 ユヴィーが再び答えを迫ってくる。

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