第9話―2 どっちのマスコット


 風呂から出た俺は、自分の部屋に戻った。


はぐはぐ


 部屋ではガルアがおやつの焼き菓子を食べている。


 さっき昼飯を食べたはずなのに、良く食うなコイツ。


――さて、ネビュラス。さっきの続きだ。……お前は一体何者で、お前の魂の大元?や体はどこにあるのか?まあ、このままずっと一緒にいてくれたら、助かるのは事実なんだけどな。


 ベッドに寝転びながら、ネビュラスと話し始める。


《相棒、そこまで俺っちの事を……。嬉しいぜ。……そうだな。だか、本当に何も覚えていないんだ。突然、記憶が消えたような感じなんだ。》


――そうか。さっきみんなには、ガルアのことや魔力制御のことで話そびれたが、ネビュラスのこともゼリオス様に相談してみるか。


《俺的には、やめた方がいいと思うぜ。》


――何でだよ。


《だって、どうやって証明するんだ。魂がもう一つあるって。あいつらお前の魂見ても気づかなかったんだろ。俺があいつらと話せる訳じゃないし。》


――……まあ、そうだな。じゃあ今度、それとなく聞いてみるよ。……だが、俺達二人で悩んでても結論は出ないと思うんだが。……何か覚えてないのかよ。ほら、こうなる前の最後の瞬間の記憶とかさ。一番イメージに残りやすいだろ。


《俺の最後の記憶?……っていうと、……ん?……爆発?……なんか、爆発してバラバラになった気がする?……そういえば、この火竜、……いや、気のせいか。》


「ガルアか?……あれ、ガルアどこ行った?」


 起き上がると、さっきまでお菓子を食べていたガルアの姿が無かった。


《何やってんだよ。ちゃんと見ておけよ。》


「うるさい。ちょっと待ってろ。」


ガチャッ


「主様?誰と話してるんですか?」


 カナタがガルアを抱っこして現れた。


「いや……、えーと……。」


――ガルアと話してたっていうのは無理か。……ん?何だ?あのぬいぐるみ?


 部屋の中に目を向けると、ツノの生えた悪魔のようで怪獣みたいなぬいぐるみが俺のベッドの枕元にいた。


「……こいつと話してたんだ。」


 苦し紛れに、ベッドにいるブサかわいいかもしれないぬいぐるみを指差す。


《相棒、手伝ってやるよ。》


 ぬいぐるみが勝手に動き、手を振る。


――おい、バカ。それの方が不自然だろ。


「わぁ、主様、すごいです。ぬいぐるみが動いてます。ふふ。……魔法で動かしてくれてるんですよね。気に入ってもらえてとても嬉しいです。」


 カナタから話を聞くと、昨日、俺がいない時に作ってくれたそうだ。


《ふぃ〜。どうにか誤魔化せたな。》


「そうだったんだ。名前とか付けてあるの?」


「いえ、まだです。……じゃあ、主様が付けてあげてください。」


 俺は即答した。


「じゃあ、ネビュラスで!」


《おい!》


「ネビュラス。……良い名前です。良かったね、ネビュ君。」


――ネビュラス良かったな、体が見つかったぞ。


《てめぇ!ふざけんな!おれはもっとカッコ良いだろ!……なんでこんな悪魔と蝙蝠が合体した豚っ鼻で目がボタンのぬいぐるみなんだよ!》


 ベッドの上にいるぬいぐるみを手に取り、眺める。


――吸血鬼っぽい衣装もカッコいいじゃねぇか。尻尾も長いし。ん、尻尾の下、茶色い綿が出てるぞ。ぷっ!うんこ漏らしてるみたいだ。ネビュラス、うんこ漏らし。


《んなぁ〜!てめぇ!なに、ガキみたいなこと言ってんだ!ふざけんな!お前の母ちゃん、でべそ!》


 ネビュラスの体を見ていると、カナタもほつれに気づいた。


「あ、お尻のところ、ほつれてますね。今、直します。」


シュパパパパッ


《おお、すげー。》


「カナタ、ありがとう。」


――良かったな、うんこ漏らしじゃなくなって、カナタにお礼でも言ったらどうだ。


《くっそー。》


 ぬいぐるみがカナタに向かってお辞儀をする。


 その後、俺に向かって、器用に中指を立ててきた。


「わあ、主様。いろいろな動きができるんですね。主様とお人形遊びができるなんてうれしいです。」


《女の子同士、かわいいな。ぷっ!》


 ネビュ君が口元に手を当て、馬鹿にしたような仕草をしてきた。


――もう一度、うんこ漏らしたいようだな。


《あ?やんのか?》


 ネビュ君がシャドーボクシングの動きで挑発してくる。


がぅ(お腹すいた。)


「がぅ!かわいい動きですね!」


この家に新たに二匹の住人が加わったのであった。




 とある精神世界。


「ったくよ〜。二匹じゃねぇ。一人と一匹だ。」


 愚痴をこぼす光が一つ。


「相棒には、困ったもんだぜ。……相棒は俺っちがいないと何もできないんだからな。」


 光の輝きが増し、光の形が変化する。


「ん?相棒の中での俺っちのイメージが変化していく。……お、俺っちの姿もただのふわふわした光から変化していく。そうか!この精神世界では、相棒の想像力が力の源なのか。よし、変・身!」


キラーン


 カッコいい二本の角。


キラーン


 スラリと長い尻尾、先端は三叉に分かれ鋭く尖っている。


キラーン


 格式高そうなマントに伯爵のようなタキシード。


キラーン


 見えているのかわかりにくい大きな目、大きな鼻。


キラーン


 ぬいぐるみのような短い手足。


「おい!結局こうなるのかよ!やり直しだ!…………この精神世界でもぬいぐるみの姿なのか……。俺っちが何をしたってんだよぉ。」


 ぬいぐるみのような生き物が怒った後に、膝をつき落ち込み始めた。


 そして、すぐに立ち上がって復活し、笑いだす。


「……まあいい。俺っちの体が見つかるまでの辛抱だ。てめぇら見ておけよ。俺っちが復活した暁には、……。くっくっくっ。」


 と思ったら、今度は狼狽え始める。


「……。俺っちの体。どこにあるんだよ〜。というか、俺っちは何者なんだよ〜。はぁ、困ったな。……ん?相棒は言ってたな。世界を旅すると。……そこで何か見つかるのかな。もしかして、俺っちの体や魂も?」


「こうしちゃいられねぇ。相棒の視界の隅から隅まで、くまなく捜索だ。……うんしょっ。うんしょっ。ふぅ。コタツ……OK。みかん……OK。お茶……OK。これでバッチリ観れるな。さぁ、ガンバレ!相棒!」


 情緒不安定な生き物の日常が始まる。

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