第9話―1 どっちのマスコット
ドッガーン!
シュンッ
穴の中から、熊のような大きな影が這い出てきた。
「どっこらせっと。ふぅー、着いたか。こっちは……昼か?なんだかんだ、丸一日かかっちまったな。」
「なぁ、それ、わざとやってんの?」
目の前で土をはたき落としている男に声を掛ける。
「あ?こうやって現れた方がカッコいいだろうが。……お前も初めてにしては上手く出来たようだな。」
「……お陰様でな。」
俺達は火山?から転移魔法でゼリオス様の庭に帰ってきた。
ファードンから転移魔法を教わり、それぞれ転移魔法を発動して帰ってきたのだが、結果はこの通りである。
《まあ、俺様が補助してやったんだから当然だな》
「おい、お陰様とはなんだ。カッコつけてんじゃねぇ!いいか!本当の漢とはな………………。」
――バカ2人は、置いといて。
ファードンのお陰で、俺は魔法が使えるようになった。余計な奴が1人ついてきたが。
そして、帰る直前にもいろいろあり、ファードンとは、かなり打ち解けた。タメ口で話せるくらいに。
《ったく。余計な奴、つれてきてんじゃねぇよ。》
「おい!ハルカ!無視すんじゃねぇ!」
――俺自信もいろいろと吹っ切れた。ウジウジと悩んでても何も解決しない。行動しなくちゃな。
大丈夫!何だってできるさ。
俺は魔王で神になるんだから。
「おい!聞いてんのかって!」
《……相棒!誰か来るぞ!》
ゼリオス様の家の方からこちらへ走ってくる人影が見える。
「はぁ、はぁ。ハルカ、無事か。」
「主様!お怪我はございませんか。」
「ハルカ様、ファードン様、おかえりなさいませ。」
ゼリオス様、カナタ、トーマスさんだ。トーマスさんも来てたのか。
どうやらファードンの転移の音で気づいて、駆けつけてくれたみたいだ。
「ゼリオス様、みんな、ただいま戻りました。見ての通り元気です。」
「おーう!帰ったぞ!」
俺は両手を広げて無事をアピールし、ファードンは片手を上げて笑っている。
「帰ったぞじゃないわい!……じゃが、無事で何よりじゃ。あまりに帰りが遅いから、捜索隊を編成しようかと思っておったところじゃ。」
「主様、よかったです。」
カナタが抱きついてきた。カナタの良い匂いが鼻腔をくすぐる。
「スマートになりましたねぇ。」
トーマスさんは何かに気づいたのか、こちらを見て感心していた。
《ん?こいつは何だ?バカなのか?》
――再会のシーンに水差すな。
「心配かけてすみません。ですが、ファードンのお陰で魔力が制御できるようになりました。」
「がっはっは!ちょいと時間がかかったがいいもんができたぜ。」
「ほう、そいつはよかった。こんなところで立ち話もなんじゃ、家に入るとしようかのぅ。」
◇
俺達はゼリオス様の家に戻り、遅めの昼食をとりながら、事の顛末を話した。
ゼリオス様は険しい顔をしながらも時折頷き、話を聞いていた。
カナタは話の途中で俺の頭の上にのっているティアラに気づき、ティアラを物欲しそうに見ていた。
さすがにあげないよ。
トーマスさんは俺達の昼食を用意してから自分の家に帰った。
トーマスさんの家族やサイジリアスさんに状況を伝えるみたいだ。
「……というわけです。」
「……そうか火竜か。」
「主様、ティアラ似合ってますよー。」
「がっはっは!いいティアラだろう!ちんちくりんにも似合うようにサイズ調整したんだ。」
――ちんちくりん……。
《ちんちくりん。……ぷっ!》
――ふー。落ち着けハルカ。お前は大人だ。バカ2人に付き合ってたら、話が進まない。余裕を持った対応をするんだ。
「……ファードン、ありがとう。ファードンに何かあったら、手助けするよ。……こんなちんちくりんでは、役に立たないかもしれないけど!」
《大人の対応?》
俺とファードンの会話にゼリオス様は苦笑いをしていた。
「……ファードンとも打ち解けて何よりじゃ。……ハルカ、疲れたじゃろう。まだ昼だが、今日はゆっくりと休むが良い。」
俺は食堂を後にし、風呂場へと向かった。
◇
「おい、暴れるな!しっかり、洗えないだろうが。」
「ほら、こっちに尻をむけろ!」
「そうだ、良い子だ。」
「お、ここは硬いんだな。」
「っ!痛い!噛むな!」
「そんなことばかりしているとお仕置きするぞ!」
《ん〜。……相棒。相棒の発言、なんか卑猥な気がする。気のせいならいいんだが。》
「あ?こっちは、それどころじゃないんだ。お前も少しは手伝え!こらっ、ガルア!逃げるな!」
がぅ!
俺は風呂場で悪戦苦闘していた。
風呂場には少女が1人、小動物が1匹。
《まったく、余計な奴が1匹増えちまったぜ〜。》
火山で氷魔法の餌食となった火竜。
可哀想だからと、氷の中から出してあげたら、何故か懐いた。
ついてきたそうにしていたが、「大きくて無理だ。」と伝えたら、小さくなった。
体長30mを超える巨大な真紅の竜は、豆柴くらいのサイズの可愛らしい姿になった。
手足も短く、翼も小さく、マスコットのようにデフォルメされた体型。
その翼で飛べるのかと心配したが、翼をゆっくりと優雅に動かし、どういうわけか宙に浮いて、俺の肩に乗った。
ファードンも反対しなかったため、連れて帰ってきたのだった。
がぅあ!
「こら、そっちは脱衣所だ。」
ガラッ
「あ、その子ですね。」
ガルアを追いかけていると、脱衣所への扉が開き、カナタが現れた。
「え、カナタ?なんでここに。」
「主様がお風呂に向かったので、お背中を流しに来ました。後片付けが遅くなり、すみません。」
「いや、そういう事じゃなくて。……一緒に入るのは、まずいだろ。」
「なぜ、まずいのですか?」
《ほう。……相棒もすみに置けないな〜。にやにや。》
――くっ。お前、覚えてろよ。
《もちろん!しっかり目に焼き付けさせて頂きます!》
「お名前は何て言うんですか?」
がぅあ!
ネビュラスの相手をしていると、カナタがガルアを抱き上げていた。
「……ガルアだ。」
「ガルアちゃんって言うのですね〜。よろしくお願い致します。」
《安直なネーミングセンス。》
――うるせー。
《ちゃんと自分で面倒を見るんですよ。約束できる?》
――てめぇ、しつこいぞ。
「ふ〜、極楽。極楽。」
ガルアの体を洗い終わった後、湯船に浸かった。
余程疲れが溜まっていたのか、今日の湯は格別なものに感じる。
――あ〜、気持ちいい。このまま寝ちゃいそうだ。
ぱしゃぱしゃ
隣を見るとガルアが器用に泳いでいる。
「ガルアちゃん、泳ぎお上手ですね〜。」
カナタが当たり前のように同じ湯に浸かっている。
――もう何も言わないよ。……どうせ、これから何度でも見慣れる光景だ。
《ふぉ〜!すげーでけー!おい!見ろよ!浮いてんぞ!》
――だから、言うなよ!
《頼む!もう一回見てくれ!視界も共有してるんだから、お前が見てくれないと、俺も見れねぇんだ!》
――その言い方だと、俺が自分の意思で見てるみたいじゃねぇか。
ぱしゃぱしゃ
――火竜だけど水とか平気なんだな。
《生き物だからな。火竜だって水くらい飲むし、水浴びだってするさ。……属性としては、水が苦手だが、あれは水属性の魔力攻撃だからな。》
――……何でそんな事知ってるんだよ。
《常識だろ。……俺って天才だし。》
――……自分の名前もわからないのにか。
《うるせー。ド忘れだよ。いつか思い出すから待ってろ。》
――というか、お前は、一体何者なんだ?……いつまで俺の魂にいるんだ?
《……相棒が酷いこと言う。……私達2人で一緒に頑張ろうって約束したじゃない!》
――……。
《……俺っちがいなくなると困るのは相棒だろ?》
――まあ、そうなんだが。
がぅがぅ、きゅるあー
浴槽を出たガルアが、こちらを見ている。
《おい、チビ助が呼んでんぞ。》
――後でしっかり話するからな、はぐらかすなよ。
《わかったよ、つれねぇな〜。》
◇
その頃の食堂
「ファードン、お主の本当の狙いはなんじゃ?……ティアラを作るにしても、あんなに急に行く必要はなかったじゃろうし、わしがハルカの魂に対して魔力を循環できるようになる術を使っても危険はないと思うのじゃが。」
ゼリオス様の言葉にファードンは少し考えた後、白状するように言う。
「……。っち、爺さんには隠し事が出来ないか。……実は他の世界で聞いたんだよ。あんまり良くない噂をな……。」
「ほぅ。噂とな。して、どんな噂じゃ?」
「ああ。俺も最初は気にしていなかったんだが……。そいつらの話の中に……あいつの名前が出てきたんだ。」
「……。……そうか。」
ファードンの話を聞いたゼリオス様は目を瞑りながら答えた。
「……。まあ、そのなんだ。……俺の聞き間違いかもしれねぇしな。今更ってのもあるし。……まあ、念には念を入れて、今回は俺がハルカを連れ出したわけだ。勝手な真似して悪かったな。」
「いや、助かった。礼を言う。ファードン。」
「……ああ。」
「……まったくしょうがないやつじゃ。」
「ふっ。そうだな。あいつは何考えてんのか全く理解できねえからな。」
「……。ふむ、ハルカの魂の状態はどんな感じじゃ?」
ゼリオス様が話題を切り替え、ファードンが答える。
「安定してるぜ。まだ全ての魔力を解放できてねぇが、魔力の循環には問題ない。どこまで魔力が大きくなるか次第だが、魂が半分しかない事を考えると、膨大な魔力に魂が耐えられるかどうかの方が心配だな。……対策はしておいたが、旅の途中で変貌したら、新世界どうこうじゃねえ。……あいつを殺さなきゃいけなくなる。」
「……ふむ、そうか。それも考えておこう。」
「ああ。しばらくは、こっちの世界にいるから、なんかあったら言ってくれ。」
「ファードン。恩に着る。」
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