第8話―2 魔王降臨
「諦めるんじゃねえ!」
俺の手がティアラから離れかけたとき、ファードンが俺の手を抑え、ティアラに触れさせる。
「ファードン!?」
「くっ!……お前の言葉、聞こえてたぞ!……うがっ!誰が仏頂面だ!」
「ファードン!?……なんか俺よりも辛そう。」
「うっ!そりゃ…そうだろ。ぐぉっ!魔力の嵐の中に強引に割り込んだんだからな。」
「……ファードン。俺一人で頑張れるから、離して!」
「がっ!いや、あと、もうちょっとなんだ。うっ!このままいくぞ。」
◇
魔力の吸収の勢いが弱まり、ティアラの輝きが落ち着く。
「もういいだろう。」
ファードンがそう言うので、手をティアラから離す。
俺はごっそりと魔力を抜かれ、ふらつくものの、達成感を感じ、気分はとっても良かった。
「ふぅ。なんとかできたな。一時はどうなるかと思ったぞ。こっちは声をかけて励まし続けていたのに、いきなり悪口を言われるわ、もうダメだ〜、離す〜、なんて言うから慌てて手を掴んじまった。」
ファードンが俺の声真似をしながら、冗談混じりな苦言を言ってきた。
「はは、ありがとうございます。ファードン様のお陰です。」
「がっはっは!……まあいい、それよりも完成したそれを着けてみろよ。」
俺はティアラを頭に着け、目を瞑る。
「うっ!」
ティアラから魔力が流れてくるのを感じる。
流れてきた魔力が俺の魔力を溶かすように混ざりあっていく。
――俺の魔力のほとんどは氷のように固まってたのか。
固まっていた魔力が溶けていく。
パリンッ
俺の中の何かが砕けるような音がした。
《よう、意外と早かったな。》
誰かが話しかけてきた気がする。
――誰だ?この感じ、前にも……。
《お前の魔力が暴走しかけた時だな。》
――なっ!会話になっている?……俺の心を読んでいるのか?
《そんなに驚くなよ。……、一つ忠告だ。声に出して会話すると、外にいるおっさんに変なやつだと思われるから、このまま目を瞑ったままで心の中で喋れよ。》
謎の声が忠告というよりは、命令してきた。
――……。お前は、一体何者なんだ?
《……何者か。……さあな。俺にもどう答えたら良いのかわからねぇ。気づいたら、お前の中にいた。わかるのは、俺もお前も半端者ということだけだ。》
――半端者?なんだそれ?
《あーんっ?そこら辺にいた神が言ってたじゃねぇか。魂が欠けてるって。どういうわけか、俺の魂はお前の魂にくっついちまってる。まあ、仲良くやっていこうぜ、兄弟!》
謎の声は調子の良さそうな声で話してきた。
――お前に兄弟とか言われたくないね。
《つれねぇな~。……あ、女の子になっちまったから、姉妹だったか。うじうじお姉さま。》
――……お前、性格最悪だな。
《もしかして、怒ってる?ごめんごめん。怒らせるつもりはなかった。俺も久しぶりのシャバに出れて舞い上がっちまったんだな~。だから、許してくれよぉ。俺達は同じ体に住む親愛なる隣人なんだからさ。》
――お前なんかが親愛なる隣人とかお断りだ。
《ひっどーい。それに、さっきからお前、お前って酷くな~い。あちしにも、名前ってものがあるんですぅ~。》
謎の声は相変わらずふざけた調子で喋る。
――お前だって、お前って言ってたくせに。……で、お前の名前は?
俺は面倒臭くなりながらも、謎の声の名前を聞いてみた。
《えーっと。……。あれ?……何だっけ?》
――てめぇ、自分の名前忘れるとか、バカなのか?バカなんだよな!さっきのやり取りはなんだったんだよ!
俺は、謎の声のありえないボケに対して、堪忍袋の緒が切れそうになった。
《いや、ちょっと待て。あれ?おかしいな。……思い出すから。うーん。……。》
――……。
《……。ネビュラス。じゃあ、ネビュラスで!》
――「じゃあ」って何だよ。今つけただろ。
《うっせー。俺の名前はネビュラスだ。揚げ足取んじゃねぇ。……!うっせーついでに、お前の連れの神も何か騒いでるぞ。》
――えっ!
「はぁ、はぁっ。ちっ!何でこんなところにいやがる。……おい!ハルカ!いい加減、目ぇ、覚ませ!」
「んっ?……。」
気がつくと俺はファードンに担がれ、ファードンは全力疾走していた。
そして、ファードンの背中から顔を上げると、深紅の竜が追いかけてきていた。
ギュルアーー!!
「うぎゃぁぁー!!」
「うるせー!!はぁ、はぁ。……やっと目ぇ覚めたか。」
「ファードン、あれは?」
「火竜だ。」
《あの大きな翼、強靭な四肢に、長い尻尾。あの個体は、火竜の中でも最上位の個体だな。》
「ん?お前?」
「どうしたハルカ?……今は逃げるので精一杯だから話は後だ!」
急にネビュラスが話し始め、反応してしまった俺はファードンに怒られてしまった。
《お前じゃない。ネビュラスだ。》
――……。急に話しかけるなよ。怒られただろっ!
《さっき、忠告したじゃねぇか。……まあいい。おそらく、あいつは、この付近に生息していて、俺達の騒ぎに気づいて出てきたんだろうな。》
ネビュラスの落ち着いた声が聞こえる。
――おい、無視すんな!なに真面目に解説してんだ。
《……。ところで、なぜ逃げているんだ?》
――なぜって、山で竜に出会ったら逃げるだろ。それとも死んだふりするか?
《……相棒はバカだな。……先が思いやられる。》
――バカとはなんだ。バカって言った奴がバカなんだぞ。
《……。せっかく魔力が制御できるようになったのに、使わないつもりか?》
――えっ。……戦うの?……いや、あれは無理だろ。強すぎるって。
《戦力の分析もできないとは……情けない。……自分の魔力と相手の魔力をよく見てみるんだな。》
ネビュラスに言われてハッとした俺は魔力感知を使うことにした。
――わかった。……魔力感知発動!
ファードンの肩の上で目を瞑り、魔力の感知を行うと、今まで見えなかったものが見えてきた。
近くにはファードンの魔力。
この空間の魔力、火山に漂う魔力。
一際大きな魔力の反応。追いかけてきている。
――これが火竜の魔力か。
魔力に敵意のようなものが混じっている気がした。
――……俺の魔力。……。底が見えない。……なんだこれ。最強か?
「ははっ。いける。いけるぞ。」
俺は無意識に身体強化を掛け、ファードンの肩から飛び降りる。
「なっ!ハルカ!」
眼前には深紅の巨竜が、迫ってきている。
俺は足を肩幅に広げ、構える。
《おい、ちょっと待て。お前、魔法知らないだろ?……今までお前が魔法だと思ってたやつ、魔力の塊を放出してただけだからな。》
――え?そうなの?……勢いよく飛び出しちゃったけど……どうしよう。……直殴りとかじゃダメ?
《……はぁ。ここに来て、それじゃカッコよくないだろ。……俺が手伝ってやる。……お前は、やりたいことを魔力を込めて念じろ。俺がそれを形にしてやる。》
――オーケー相棒!いっちょやってやろうぜ!
火竜が目前に迫る。
ギュルアーー!
火竜の咆哮が轟く。
相対するは、魔王。
「行くぜぇ!」
「くっ、ハルカ!戻ってこい(――くそっ、間に合わねえ。)」
――もう熱いのは懲り懲りなんだよ!
「凍ってしまえ!」
《
シャキーン!
魔法が放たれると、辺りは様変わりし、凍土のような光景が広がる。
マグマが広がる火山の景色も圧巻だったが、氷の結晶が煌めく凍土の景色も荘厳である。
火竜は、至近距離で魔法が直撃したため、氷像のように固まっていた。
《ほう、これは芸術的だな》
――……おい、《熱帯夜に欲しい一撃》ってなんだ?
《いや、カッコつけすぎるのもどうかと思ってな。熱帯夜にこれを食らったら、気持ちよく寝れるかな〜って。》
――……安らかに永眠しちまうだろうな。
《なに上手いこと言ってんだ?》
――……。
《……わかったよ。次からは、善処する。……まあ、多めに見てくれよ。使った魔法は本物だからさ。……相棒の魔力が多すぎて、威力が桁違いになってるが。》
ネビュラスとのくだらない雑談を終わらせ、周囲を確認すると、ファードンがこちらを見て固まっている。
――あれ?ファードンも凍らせちゃったかな。
「……。(…………これが本当の魔王の力か。やってくれるじゃねえか。)……やるなら、やるって言えよ。心配したじゃねぇか。」
ファードンは凍ってなかったようだ。
「ごめんなさい。……俺も無我夢中で。」
「……火竜を一撃とはな。それに火山が冬の山になっちまった。……お前、どんな魔法使ったんだよ。」
改めて振り返り、辺りを見回す。
俺の視界は、一面の銀世界。
ついさっきまで、ここが火山だったとは、誰も想像できないだろう。
――いろいろあったけど、ついに魔法が使えるようになった。はは、やったー。
《俺様のお陰だがな。ほれ、最大級の敬意を示せ。》
――……うるさい。人がせっかく喜んでいるのに水を差すな。
《つれねぇな〜。……まあいいや。面白いもん見れたし。……ところで、このおっさんの作業場、無くなっちまったな。》
――あ……。
先程ティアラを作った黒い台座は、当然のことながら、氷の中に埋もれていた。
「作業場が……。」
「ん?ああ。まあ気にすんな。……作業場なら他にもあるから大丈夫だ。」
「すみません。」
「いつまでもウジウジしてんじゃねぇ。目的は達成したんだから、それでいいじゃねぇか。……ほら、喜べ。」
「や、やったー。」
「何を恥ずかしがってんだ。喜ぶ時は笑顔なんだよ。ほら、一緒に笑うぞ。がっはっは!」
「あっはっは!」
◇
ハルカのやつがいきなり魔法を使った時は驚いたぜ。
あの火山が凍っちまうなんてな。
ゼリオスの爺さんには話しておく必要があるな。
……もしかして俺は大変な事をしちまったか。
まあ、あいつの性格なら大丈夫そうだが、気をつけて見ていく必要がありそうだな。
間違っても災厄の魔王になんてなるなよ。
俺はお前と敵対したくはないからな。
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