第5話―2 来訪


「「きゃー!」」


「いいわ!こっちはどうかしら!」


「ミラさん!これはどうですか!」


「あら。いいじゃない!これをこうしてっと。」


「「きゃー!」」


 えー、皆さん。こんにちは。私は今、どこに来ているかというと。


 地獄です。


「「きゃー!」」


 えー、聞こえましたでしょうか?


 地獄の叫び声でございます。


 皆さん、着せ替え人形というものはご存知でしょうか?


「「きゃー!」」


 着せ替え人形、それは乙女達の夢の結晶であり、幼き日の思い出。


 乙女達はいくつになっても、心は乙女。


「「きゃー!」」


 着せ替え人形と女性は切っても切り離せない関係でございます。


 着せ替え人形は大切なお友達。


 そんな着せ替え人形。……なってみたいですか?


「「きゃー!」」


 私は今、着せ替え人形になっております。


 …………。


「「きゃー!」」


 誰かぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇぇ!




 ミランダさんの正体は、化物でもなく、ミラーボールオカマでもなく、世界を股にかける服の神だったのだ。


 この「「きゃー!」」という声はミランダさんとカナタの悲鳴で、家の外で聞いた悲鳴はカナタがミランダさんの持ってきた衣装を見て、とても気に入ったからだそうだ。


 というか、ミラさん!あなた服の神なのにほとんど服着てないよね。


 ホットパンツとサスペンダーって何?むしろ全裸じゃん。服着ろよ!


「じゃあ、次はコレ着てね。ああ、いいわ!ハルカちゃんとってもかわいい。」


「ミラさ~ん。私もそれ着てみたんですけど、どうですか?」


「きゃー!いいわ!二人並ぶと、なおいいわ!知ってる?こういうのって双子コーデって言うのよ。とある世界に言った時に流行ってたわ。」


――ん、それ地球じゃね?


「よーし、二人とも。まだまだ行くわよー!」





「ふぅ。とりあえず、こんなところかしら。」


「そうですね。でも、こんなにもらっちゃって良かったんですか?」


「大丈夫よ。それにあなた達、服をほとんど持ってないじゃない。」


「ありがとうございます。とっても楽しかったです。」


 長きに渡る服の試着は遂に終焉を迎えた。


 体感では1日くらい経っていそうだったが、実際には2時間程だったようだ。


 今の俺の服は、とある異世界で流行っているというミニスカ魔女っ子ドレスだ。


 少女の可憐さが出るような白いミニスカートに、上は機能性を重視した豪華なドレスっぽいトップス、ファッション性と実用面を兼ね備えた衣装となっている。


 うーん、地球だと、とあるネズミの王国で見かけるかもしれないかな。


 カナタも試着していたが、今は試着前の服に戻っている。


「どうじゃ。そろそろ終わったかのぅ。」


 ゼリオス様がやってきた。


「ほほう。ハルカ、ずいぶんと可愛らしいのぅ。よく似合っておる。」


「あ、ありがとうございます。」


 可愛いと誉められたが、元男の俺からすると恥ずかしいのだが。


 ……もう割りきってなれるしかないんだよな。


「二人とも素材がいいのよ。ハルカちゃんは、これから身長も伸びるだろうし、今後が楽しみだわ。」


 ミランダさんから今後という単語を聞いて、俺は背筋に一筋の雫が流れ落ちるのを感じた。


――エ、マタ、ヤルノ?


「ほっほっほ。それは楽しみじゃな。ミランダ。わしらは、この後、外出するが、お主はどうする?」


「そうねぇ。一緒に行こうかしら。服の動きも見たいし……。……!……いや、やっぱり帰るわ!ちょっと、急用を思い出したの!じゃあね!また来るわ!」


 ミランダさんはそう言うと、急いで帰ってしまった。


「む、どうしたんじゃ。不思議なやつじゃのぅ。」


「ああ、ミラさん。もう少しお話したかったです。」


――嵐のような人だな。



ドッガーン!



 突然、辺りに爆音が轟き、家が揺れた。


 音の発生源は外だ。


 方角的に昨日トーマスさんと戦闘訓練をした辺りだろう。


「……。そういうことか。」


 ゼリオス様は何か知っているのか、落ち着いている。


「主様、大丈夫ですか?」


「ああ。……ゼリオス様、どうしますか?」


「ん、まあ、待っとれば、あやつからやって来るじゃろう。」





 少しして、そいつはやって来た。


 いきなりドアを開けて大声で話し始めた。


「よう!ゼリオスの爺さん!元気か!」


「まったく、お前はどうしてそうなんじゃ。もう少し静かにできんのか。」


 その男は一言で言うなら、熊。


 熊のように大きな体、見た目の年齢は40代から50代。


 髪は赤みがかった茶色でボサボサの長髪を後ろで結わいている。


 着ているものは汚れが酷いが、元は高そうな革製のもので、一見歴戦の戦士風である。


「がっはっは!まあ、そう固いこと言うなよ!俺と爺さんの仲じゃねえか!」


「はぁ、お前はいつもそうじゃのぅ。……こっちの予定は関係なしじゃ。」


「ん?客がいたのか。そいつは失礼したな。」


 その男は俺とカナタがいることに気付き、視線を俺に向けたあと、カナタに向け、そこで止まる。


「ん、そいつは爺さんの新しい弟子か?相変わらず女なんだな。俺はファードンってもんだ。お前は?」


 弟子と言われ、神内定の俺かと思い自己紹介しようと思ったら、ファードンは、カナタの前に立った。


「私ですか?あなたのような野蛮な者に名乗る名などありません。それにゼリオス様の弟子は私ではありませんよ。私はそちらに居られるハルカ様の従者です。」


 カナタは睨みながらそう言った。


 どうやら俺が無視されたことで怒っているようだ。


 ファードンはカナタにいきなり敵対心を顕にされて、少し驚き、俺の方に向き直る。


「お、おお。がっはっは!気の強えねーちゃんじゃねえか!そうか、そいつはすまなかったな!それで、そっちの、ちっこいのが爺さんの弟子か!どれどれ。ふむ、なるほどな。爺さんも面白いやつを弟子にしたもんだ!ええと……そっちのねーちゃんが何て呼んでたっけか?」


 俺は一瞬ゼリオス様の方を見て、ゼリオス様が頷いたので名乗ることにした。


「私はハルカと言います。ゼリオス様の弟子?になったものです。こっちは私の従者のカナタです。これでよろしいですか?」


「がっはっは!おう!よろしくな!ハルカ!それにカナタも!」


 カナタは名前を呼ばれて嫌そうな顔をしている。


「それで、ファードン。今日は何しに来たんじゃ?」


「ん、特に用事はねぇよ。暇になったから来た!」


「そうか、いつものことじゃな。わしらは、これから出掛けるが、お前はどうする?」


「ん、そうか。まあ、やることは無いしな。爺さんに付いていくが、何するんだ?」


「ふむ、新しく作った世界の調査と開拓じゃな。」


「ほー。なんでまた、新しく作ったんだ?いや、やっぱいい。聞くと長くなりそうだ。……そうか、そういうことなら、俺がいた方がいいだろう。よし!さっさと行くぞ!」


 そう言うと、ファードンは家から出て、庭へと走っていった。


「ゼリオス様、あの人は何者なんですか?」


「あやつは、ドワーフから神になった男じゃ。あやつも自分の世界を管理しとる。じゃが、こうしてよく遊びに来ておる。悪いやつではないんじゃがのぅ。あやつとは付き合いが長く、あやつが神になった時から知っておる。ほっほっほ。昔話じゃな。」


 ゼリオス様があの熊とのエピソードを懐かしそうに語った。


「あの人も神だったんですね。どこのチンピラかと思いましたよ。」


「ゼリオス様、私、ファードン様に失礼な態度をとってしまいました。大丈夫でしょうか?……だって、全く神様に見えなかったんですよ。」


 カナタは、不安そうに先程の自分の態度を心配していた。


「大丈夫じゃ。ファードンは、そんなことでは怒らんよ。むしろ、あやつの方が悪い。もう少ししっかりしてほしいんじゃがのぅ。まあ、それはあやつの師匠の仕事じゃからのぅ。ほっほっほ。それにしても、カナタがあそこまで怒るとはのぅ。」


「はは、俺もビックリしたよ。カナタがあんなに大きな人に食って掛かるなんて。」


「すみません。以後、気を付けます。」


「ほっほっほ。わしらも庭へ向かうとするかのぅ。」





 それにしても、俺はちっこいか……。


 警戒されにくい見た目ってゼリオス様は言ってたけど、旅とか大丈夫なのかな?


 変な風に絡まれたりしそうで心配だ。


 まあカナタもいるし、どうにかなるのか?


 あ、そういえば、この石で魔力の適正見るの忘れた。


 どんな適正があるのか知りたかったのになぁ。


 まあ、帰ってきてからでもいいか。

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